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第一地銀の2019年3月決算~まだリストラモードに入っていない驚き~

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銀行、その中でも地方銀行(地銀)の経営不振がマスコミで報道されています。

構造不況業種と言われるほど、地銀の経営は不安視されています。

今回は具体的な数字を基に地銀の中でも規模が大きい全国地方銀行協会に加盟している第一地銀の決算について確認しましょう。

 

全国地方銀行協会とは

全国地方銀行協会、略して地銀協は、いわゆる第一地方銀行が加盟しています。

誤解を恐れずにいえば、地域で歴史があり規模が大きい地銀が第一地銀であり、相互銀行から銀行に転換した、県内で規模が小さい地銀が第二地銀であるといえます。

現在の加盟行は64行あります。

https://www.chiginkyo.or.jp/app/entry_file/about03_20190401.pdf

 

第一地銀決算概要

地方銀行2018年度決算の概要(2019年6月12日公表)は以下の通りです。 全国地方銀行協会のWebサイトから引用しています。

【 要旨】
※計数は、特にことわりがない限り地方銀行64行の単体ベース。( )、[ ]内は、前年同期比。前年の計数は昨年5月の東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京の合併に伴う遡及調整を行っていない。

1.損益
<コア業務純益>
資金利益の減少を主因に、コア業務純益は前年同期比▲5.4%(▲588億円)の1兆299億円。

<業務純益>
コア業務純益が減少したものの、国債等債券関係損益の損超幅が縮小したことから、業務純益は+2.9%(+275億円)の9,739億円。

<経常利益>
業務純益が増加したものの、不良債権処理額の増加により、経常利益は▲15.9%(▲1,746億円)の9,269億円。

<当期純利益>
6,223億円(▲20.6%[▲1,615億円])。                  

2.資産・負債
○貸出金(平残):204兆2,066億円(+9兆3,949億円[+4.8%]
○有価証券(平残):65兆7,030億円(▲4兆593億円[▲5.8%]
○預金(平残):263兆1,069億円(+7兆3,941億円[+2.9%]

3.自己資本比率(国際統一基準行は連結、国内基準行は単体)
○国際統一基準行(10行):14.33%(▲0.21%ポイント)
○国内基準行(54行):9.53%(▲0.28%ポイント)

4.不良債権額
○金融再生法開示債権額:3兆6,803億円(+3,146億円[+9.3%]

 

以上が、第一地銀の2019年3月期業績のまとめになります。

ここで見えてくるのは、本業の利益であるコア業務純益は前年同期比▲5.4%と減少していること、不良債権処理費用が増加していること、貸出と預金が増加し、有価証券への投資が減少していることです。

では、より詳細に第一地銀の決算内容を見ていくことにしましょう。

 

第一地銀決算のポイント

<コア業務粗利益>
  • 資金利益(本業の貸付利息、有価証券の利息配当金等)は2兆8,625億円、前年度比▲631億円、▲2.2%の減益
  • 役務取引等利益(いわゆる手数料)は4,319億円、前年度比+11億円、+0.3%の増益
  • その他業務利益(トレーディング業務等、国債等債券関係損益を除く)は0億円、前年度比▲149億円、▲99.8%の減益 

上記資金利益の内訳では、貸出金利息が前年度比+264億円、+1.2%、有価証券利息配当金が前年度比▲559億円、▲6.3%となっており、貸出金利息は増加している一方で有価証券利息配当金が減少していることが分かります。

上述の通り貸出金は+4.8%増加しており、有価証券は▲5.8%減少しています。貸出金残高は4.8%増加しているのに利息収入は+1.2%となっていますので、貸出金の金利水準は下がってきていることが見て取れます。有価証券については利息配当金の減少が残高減少率に近くなっています。

 

<国債等債券関係損益>

国債等債券関係損益は▲228億円となり前期比+839億円、+78.6%となっています。

第一地銀では金融庁が問題視していた外国債券投資が一服し、含み損の処理も一段落している可能性があります。

 

<不良債権処理>

一般貸倒引当金繰入額は▲330億円(前期比+25億円、+7.0%)と大きな変動はありませんが、臨時損益で計上した個別の不良債権処理額は▲2,784億円と前期比▲1,783億円、▲178.3%(=不良債権処理は増加)となっています。

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(出所:全国地方銀行協会「地方銀行2018年度決算の概要」)

上表で見ると分かる通り、6年ぶりに不良債権処理額は2,000億円を突破しており、2011年、2012年に匹敵する水準となっています。

 

<個別行の決算状況>

個別行の決算を見ると、2019年3月期で減益となり、2020年3月期でも減益を見込んでいる第一地銀が多くなっています。業界全体としては、厳しい収益状況にさらされていることが分かります。

  • 2019年3月期の経常利益実績:増益=18行、減益44行(一行赤字)
  • 2020年3月期の経常利益予想:増益=22行、減益41行 

 

<有価証券の動向>

  • 有価証券合計 65兆7,030億円(前期比▲4兆593億円、▲5.8%
  • うち国債 18兆9,001億円(同▲4兆1,542億円、▲18.0%
  • うち地方債 11兆1,366億円(同+9,485億円、+9.3%
  • うち外国証券 9兆7,232億円(同▲1兆1,592億円、▲10.7%
  • うちその他の有価証券 8兆6,679億円(同+7,999億円、+10.2%

以上のように第一地銀は国債・外国証券を減少させています。国内債では少しでも利回りを確保しようとして地方債を増加させ、それに加えて「その他の有価証券」を増加させています。その他の有価証券はオルタナティブ投資が主と思われ、内容としてはREITのような不動産投資や様々な投資信託と思われます。

 

<職員数・店舗数>

地銀は業績不振と言われ、メガバンクの店舗閉鎖計画が報道されている状況にはありますが、職員数はほぼ横ばいであり、店舗は若干増加していることが分かります。

  • 職員数 123,162人(前期比▲529人、▲0.4%)
  • 店舗数 7,604店(前期比+108店、+1.4%)

以上が第一地銀の2019年3月期決算のポイントです。

 

まとめ

第一地銀の2019年3月期決算は以下のようにまとめられます。

  • 貸出残高は増加しているものの金利低下により利息収入は伸び悩み
  • 有価証券への投資は金融庁・日銀からの指摘もあり減少
  • 貸出に依存を減らすビジネスモデル構築を目指すも、現時点で手数料収入は増えず
  • 国債等債券での含み損処理は一段落した可能性あり
  • 不良債権処理額は急増
  • 損益面は厳しいものの、人員は横ばい、店舗数はわずかに増加

筆者は、第一地銀の決算動向を見ていると、第一地銀の経営陣が今まではマイナス金利政策が一過性だと想定し、デジタルへの移行も急ではないと想定していたように感じます。だからこそ、人員は横ばいであり、店舗は増加しているのです。まだリストラモードには入っていない、少なくとも数字には表れていないのです。

しかし、マイナス金利政策は簡単には解除されないと想定して経営を行っていく必要があるでしょう。国外の情勢は読み切れません。デジタル化・キャッシュレス化への移行も国が推進してきている以上、想定しておかなければなりません。

そして、貸出残高は増加しているのに利息収入は増加に見合って増えていないことを鑑みると、リスクに見合った貸出金利設定が出来ていない可能性があります。これは、不良債権処理をしっかりと行うことができない収益力となっている可能性を示唆しています。

第一地銀は「地域のお殿様」と言われるほど尊重され、ある意味では地域で重要な機能を果たしてきました。

しかし、2019年3月期決算が示唆しているのは、第一地銀の必要性の低下、もしくはビジネスモデルとしての銀行の限界です。

第一地銀は地域の雄として、預貸業務をベースとしながらも、それに頼り切らない新たなビジネスを構築していかなければなりません。

地銀は、事業承継へのコンサルティングや地域商社の立ち上げ、証券会社との資本・業務提携、人材派遣業への参入等、新たなビジネス拡大を目指しています。しかし、新たな領域で相応の収益を確保できるかは未知数です。また、過去には、新領域である外国債券投資、アパートローン、カードローン等につき金融当局から問題視され、期待していた新領域の拡大が止まった経緯もあります。リスクを拡大しすぎる新規ビジネスの拡大は金融庁に睨まれている間は難しいのではないでしょうか。

筆者は、地銀のビジネスモデルは最終的には地域の顧客に関する定量・定性のデータに加え、口座資金移動のビッグデータを基にした「コンサルと預貸ビジネスの複合的なビジネス」になっていくべきなのではないかと考えています。しかし、そのレベルに到達するのは簡単ではありません。 

現状を鑑みると、地銀には保有資産の不動産賃貸業務を認め、地域の活性化と地銀の収益確保を両立させることを狙った方が良いのではないかと思います。新たなビジネスモデルを構築するまでの移行措置が必要なのではないかと考えるためです。

歴史的に見ると、不動産業へ転換してきた業種は、本業の収益が低迷しても生き残ってきました。例えば、繊維業界、新聞業界、(これからは)テレビ業界がその実例でしょう。

全国地方銀行協会も保有不動産の有効活用を認めるように金融当局には要望を長年にわたって提出してきました。昨今の地銀経営の厳しさにスポットが当たってきたこともあり、金融当局の検討に注目したいと思います。