銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

邦銀全体の2021年3月期決算は、カネ余りを色濃く示したもの

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構造不況業種として今や認知された銀行業界ですが、銀行の業績がどのようになっているかをきちんと確認している人は少ないのではないでしょうか。

銀行員であったとしても、自分が勤める銀行とライバル銀行の決算ぐらいしか把握していないでしょう。

銀行業界はコロナ禍において貸出が大幅に増加したことは報道でご覧になっている方も多いでしょう。では、貸出が増えたから銀行の決算は改善しているのでしょうか。

今回は、コロナ禍における銀行全体の決算状況を確認していきたいと思います。

 

銀行全体の2021年3月期決算概要

では、銀行業界全体の2021年3月期決算状況を確認しましょう。

以下は、都市銀行5行(みずほ、三菱UFJ、三井住友、りそな、埼玉りそな)、第一地方銀行62行、第二地方銀行(第二地方銀行協会加盟銀行)38行、信託銀行4行(三菱UFJ信託、みずほ信託、三井住友信託、野村信託)、新生銀行、あおぞら銀行の111行の単体ベースの業績を合算したものです。 

(単位:億円) 金額 増減額 増減率
業務粗利益 合計 100,183 167 0.2
国内業務粗利益 71,470 △ 4,341 △ 5.7
うち資金利益 55,039 △ 280 △ 0.5
うち役務取引等利益 18,133 291 1.6
うち特定取引利益 △ 162 △ 1,242 -
うちその他業務利益 △ 1,540 △ 3,111 -
国際業務粗利益 28,714 4,466 18.4
うち資金利益 14,618 4,038 38.2
うち役務取引等利益 4,731 180 4.0
うち特定取引利益 2,160 △ 963 △ 30.8
うちその他業務利益 7,205 1,212 20.2
経費(△) 合計 65,974 △ 379 △ 0.6
人件費(△) 28,309 △ 229 △ 0.8
物件費(△) 33,359 △ 275 △ 0.8
税金(△) 4,305 125 3.0
実質業務純益 合計 34,233 546 1.6
うち国債等債券関係損益 1,048 △ 7,207 △ 87.3
コア業務純益 33,185 7,752 30.5
一般貸倒引当金繰入額(△) 合計 4,954 2,253 83.4
業務純益 合計 29,254 △ 1,708 △ 5.5
臨時損益 合計 △ 5,190 △ 4,055 -
個別貸倒引当金繰入額(△) 4,901 2,375 94.0
貸出金償却(△) 1,322 △ 92 △ 6.5
株式等関係損益 4,392 1,494 51.5
貸倒引当金戻入益 31 △ 187 △ 85.8
償却債権取立益 456 △ 356 △ 43.8
その他 △ 3,846 △ 2,724 -
経常利益 合計 24,060 △ 5,765 △ 19.3
特別損益 合計 983 11,560 -
当期純利益 合計 18,388 7,321 66.2

(出所 全国銀行協会「2020年度決算の動向」より筆者作成)

一般企業の売上高に該当する業務粗利益は 10 兆 183 億円(前年度比 +167 億円、0.2%増)と増収となりました。

この業務粗利益を構成し、貸付金利息と有価証券利息が主要項目である銀行本業の収益である資金利益は、合計6兆 9,657 億円(前年度比 +3,782 億円、5.7%増)と増加しています。

一方で、一般企業でいうところの営業利益である業務純益は、2兆 9,254 億円(前年度比▲1,708億円、5.5%減)となりました。

この要因は、業務粗利益(売上)の増収効果と、経費の減少があった一方で、取引先の業績悪化に備えた予防的引当として一般貸倒引当金の計上を増加させたことによる引当費用(コスト)増加によるものです。

臨時損益では、個別貸倒引当金繰入を行い、足元情勢を踏まえた不良債権処理を行っていますが、それを持ち合い株式の売却益でおおむね打ち消しています。しかし、貸出金の償却(こちらも不良債権処理)やその他臨時損益等がかさみ、結果として臨時損益は大幅マイナスでした。

そのため経常利益は減益でしたが、その前の期(2020年3月期)において発生していた損失(減損が主)がなく、結果として最終損益は増益となりました。

尚、2021年3月期は国債等債券関係損益が前年度比▲7,207億円の1,048億円まで低下しています。しかしながら、国際業務部門において、金融派生商品費用が大幅に減小したこと等を背景にカバーされており、全体業績に与えた影響はわずかでした。

 

資金利益

銀行の損益状況において最も重視されるのは、資金利益でしょう。まさに本業の収益です。

資金利益のうち、国内業務部門における資金利益は、5兆5,039億円(前年度比▲280億円、0.5%減)と減少しました。コロナ禍における資金繰り対応などを背景とする貸出金の増加を要因として貸付金利息が4兆4,573億円(同+404億円、0.9%増)と増加したものの、有価証券利息配当金が1兆1,394 億円(同▲1,061億円、8.5%減)と減少したこと等を受け、5兆7,940億円(同▲508億円、0.9%減)の資金運用収益(コスト控除前)となり、それから資金調達費用 2,904億円(同▲228億円、7.3%減)が控除され、上記資金利益となります。

次に、国際業務部門における資金利益は、1兆 4,618億円(前年度比 +4,038億円、38.2%増)と増加しました。費用控除前の売上と同義の資金運用収益は、貸出金利回りの低下等を要因として貸付金利息が1兆6,818億円(同▲1兆2,720億円、43.1%減)と減少したほか、有価証券利息配当金や預け金利息等の減少もあり、2兆 8,498億円(同▲2兆 2,282億円、43.9%減)となっています。一方で、資金調達費用は、預金利息の大幅な減少等により1兆 3,880億円(同▲2兆 6,321億円、65.5%減)となり、資金運用収益の減少幅を上回っており、結果として国際業務部門の資金利益は大幅増となりました。

資金利益についてまとめると、国内においては、コロナ禍で貸出は大幅増加しているものの貸出金利は低く、有価証券投資は低金利化でさらに収益が低下しており、国内での資金利益は2021年3月期は減少しました。一方で、国際業務における資金利益は、貸付利息等の減少以上に資金調達コスト(預金利息等)が低下したことで、大幅な増となっています。

そのため、2021年3月期の資金利益は、国内不調、海外好調で全体としては増加しました。

 

主要勘定の動向

2021年3月期は、預金が924兆円(兆円未満切り捨て、以下同じ)、前年度比+81兆円、9.7%増となっています。

国内業務部門における預金は、827兆円、同+73兆円、9.8%増に対して、国際業務部門における預金は96兆円、同+7兆円、8.6%増となりました。

一方で、貸出金は611兆円、同+18兆円、3.1%増となっています。

国内業務部門における貸出金は507兆円、同+26兆円、5.4%増、国際業務部門における貸出金は103兆円、同▲7兆円、6.7%減となりました。コロナ禍において企業は借入を増やしましたが、海外での借入は大企業が予防的に借り入れを行ったものが多く、結果として返済されています。

有価証券は259兆円、同+40兆円、18.4%増となりました。

コロナ禍において消費や企業の設備投資が減少し預金が増える一方で、貸出はそこまでの伸びとはならなかったことから資金が余剰となり、それを銀行は有価証券で運用しています。

 

所見

コロナ禍において、日本の銀行には預金が積み上がりました。

コロナによって倒産が発生したとか、生活苦の個人が出ているという問題は発生していますが、日本の銀行全体のバランスシートを見る限りでは、消費や企業の投資等が落ちて、結局のところ日本全体では預金が積み上がりました。

その預金を貸し出す先がないため、銀行は有価証券投資を増加させています。

コロナ禍において倒産に備えた予防的な引き当てを行っていますが、銀行の業績は悪い水準ではありません。

今後、米国等ではコロナ禍において実施していた金融緩和を正常化させていく動きが出てきます。その際には、金利も上昇していく可能性は十分にあります。

コロナ禍において、銀行は多額の貸出を行いましたが、その貸出金の大部分は預金として銀行に戻ってきたままになっており、個人の消費が落ち込んだ分の預金も銀行に還流し、銀行の預金余りには拍車がかかりました。社会全体でみると、政府は資金不足ですが、企業も個人も資金は不足していないことになります。

これを浮き彫りにしたのが2021年3月期の銀行全体の決算数値だったのでしょう。