銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

ソフトバンクGの10年間の経営を単純化して評価する

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(出所 ソフトバンクグループWebサイト/海援隊旗「 二曳(にびき)」)

ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)ほど、日本で業績がニュースになる企業も少ないでしょう。

ソフトバンクGは、孫正義氏の投資先企業に対する圧倒的な目利き力で成長してきた投資企業です。

ソフトバンク・ビジョンファンド事業を開始してからは、投資業としてのビジネスモデルに完全に移行した感があります。

しかし、2020年3月期は大幅な赤字決算となり、WeWorkのような投資失敗が大きく報道されました。

ソフトバンクGの経営はどのように評価すれば良いのでしょうか。

今回はソフトバンクGの決算について簡単に見ていくことにしましょう。

 

ソフトバンクGの決算を評価するには

ソフトバンクGは決算書を見ても理解することが難しい企業です。

投資業としての立ち位置が明確になってからは、さらに理解しづらくなりました。

投資先の企業の株価によって決算がブレるのはまだ分かりやすい方で、非上場企業の株価評価によって利益が出たり、損失が発生するのは、外部からは非常に理解と評価が難しいでしょう。

このソフトバンクGのような企業は、どのように評価すると分かりやすいのでしょうか。

筆者は長期でのキャッシュフローを見るのが良いのではないかと考えています。非上場企業の株式評価は取らぬ狸の皮算用ですが、キャッシュは「現実」だからです。

すなわち、投資企業の株式を売却し、キャッシュが入ってきて初めて、本当の意味で「利益を上げることができた」といえるからです。

 

ソフトバンクGのCF推移

では、ソフトバンクGのキャッシュフローを確認してみましょう。

決算期 営業CF(百万円) 投資CF(百万円) FCF(百万円)
2011/3期 825,837 -264,447 561,390
2012/3期 740,227 -375,655 364,572
2013/3期 813,025 -874,144 -61,119
2014/3期 860,245 -2,718,188 -1,857,943
2015/3期 1,155,174 -1,667,271 -512,097
2016/3期 940,186 -1,651,682 -711,496
2017/3期 1,500,728 -4,213,597 -2,712,869
2018/3期 1,088,623 -4,484,822 -3,396,199
2019/3期 1,171,864 -2,908,016 -1,736,152
2020/3期 1,117,879 -4,286,921 -3,169,042
合計 10,213,788 -23,444,743 -13,230,955

(出所 ソフトバンクG 有価証券報告書)

このようにソフトバンクGは稼いだキャッシュ(営業CF)を投資に回すだけでは足りないぐらい投資でキャッシュを流出(投資CF)させてきました。

特にソフトバンク・ビジョン・ファンドを立ち上げた2017年頃からは投資によるキャッシュ流出が流入を大きく上回る状態が続いています。

一方で、現金の流入(営業CF)は、あまり増加していません。

キャッシュフローという観点からは、ソフトバンクGは、投資がキャッシュの獲得に結びついていないとも言えます。

 

所見

以上、非常に単純にソフトバンクGのキャッシュの流れを見てきました。

ソフトバンクGは、近時は投資先行時期であり、結果が出るのはもう少し先であったはずであるとは思います。

ただ、長期的に見ても、投資がキャッシュの獲得に結びついていない可能性はあります。

このキャッシュフローを支えたのが、金融市場(社債等)であり、銀行です。

端的にいえば、ソフトバンクGは、アリババと携帯電話会社ソフトバンクの株式を活用して資金調達を行い、それによってまだ利益を上げてはいない、しかし将来急激に成長する可能性のある企業に投資してきたのです。

このビジネス、戦略が間違いだったのかは筆者には分かりません。

筆者にも分かることは、この10年では、投資によって流出したキャッシュ以上のリターンが無かったということだけです。

それでも、ソフトバンクGにはアリババという株式があります。この素晴らしい投資を行ったことで、今でもソフトバンクGは生き残っているのでしょう。