銀行員のための教科書

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みずほFGの2020年度1Q決算からコロナの影響を読み解く

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みずほFGが2021年3月期第1四半期(1Q)決算を発表しました。

銀行にはコロナの影響によって借入希望が殺到しているとの報道もあります。

みずほの状況はどのようになっているのか、そして、コロナは銀行経営にどのような影響を及ぼしているのか、簡単に見ていきましょう。

 

みずほFGの2021年3月期1Q決算概要

みずほFGの2021年3月期第一四半期決算の概要は以下の通りです。

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(出所 みずほFG「2020年度第1四半期決算の概要」)

一般企業の営業利益に相当する連結業務純益は、2,317億円で前年同期比+434億円です。

この増益は、マーケットで自己勘定投資を行う市場部門が+279億円となっていることが主な要因です。

一方で、与信関係費用は前年同期比▲373億円と悪化し、▲390億円となりました。

そして「株式等関係損益-ETF関係損益等」が前年同期比▲261億円の▲15億円となっています。

これらを主要因として親会社株主純利益は1,223億円、前年同期比▲400億円となりました。

みずほFGは、コロナ対応の金融緩和により金利が低下=債券が上昇したことから市場部門で大幅増益になっています。また顧客部門もコロナ対応としての借入増加等を要因として増益となりました。

この増益分は、コロナ影響による不良債権処理費用(与信関係費用)の増加によってほぼ相殺されました。そして、持合解消の株式売却をコロナ影響による株価低迷、株式市場混乱によって中断したものと想定され、株式等関係損益が減少しています。

これがみずほFGの2020年度1Qの決算概要となります。

 

コロナによる貸出増加

みずほFGの決算自体は、金融緩和による債券価格の上昇というプラスの影響を受けたものだと言えると思います。筆者からすると現時点では悪くないというイメージです。

では、コロナによって貸出残高にはどのような影響が出ているのでしょうか。 

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(出所 みずほFG「2020年度第1四半期決算の概要」)

みずほFGの2020年6月末の貸出金残高は、前期末(2020年3月末)比で+6%となっています。

わずか3ヵ月で5.3兆円も増加しているのです。

これはすさまじい規模であり、例えば、長野の地銀である八十二銀行の2020年3月末時点の貸出残高が5兆4千億円程度です。

貸出残高が5兆円を超えてくると地銀のトップ10位程度が見えてくる規模ですので、大手地銀一行の貸出残高をわずか3ヵ月で実行したことになります。

みずほFGの貸出残高が増加した分野は、大企業+3.7兆円、中小企業+0.7兆円、政府+0.7兆円、海外+0.3兆円となっています。

すなわち、貸出残高の増加分の大半は、コロナに備えた大企業向けの緊急支援融資だったものと想定されます。

一方で、預金は+5.7兆円となっており、貸出残高を超えて増加しています。

今回の大企業等の借入は予防的な観点が強く、借入金がそのままみずほFGの預金に預けられている可能性もあるでしょう。

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(出所 みずほFG「2020年度第1四半期決算の概要」)

尚、コロナに対する取り組みをみずほFGとして発表しており、この資料上は、コロナ対応での貸出金残高は、5.2兆円、うち国内が3.8兆円となっています。

 

本業の収益性

このコロナ禍の中では、企業が資金繰り対応をしていくために銀行に殺到しているとの報道もありました。

需要超過ならば、銀行の採算性は改善しているのではないでしょうか。

以下のグラフをご覧ください。

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(出所 みずほFG「2020年度第1四半期決算の概要」)

この資料を見れば、少なくとも貸出収益の悪化(スプレッドの縮小)が続いていることが分かります。

その要因は、主に中堅・中小企業向け貸出スプレッドの縮小です。

コロナ禍でみずほが貸出金利を上げているような動きは、全体としてはなさそうです。そして収益力の回復も現時点では望むのは難しいようです。


不良債権処理

コロナ禍において、2021年3月期第1四半期の上場企業決算発表が続いていますが、赤字転落、大幅減益の企業が目立ちます。

コロナ禍では銀行の不良債権も増加していくことが容易に想定されますが、現状はどのようになっているのでしょうか。

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(出所 みずほFG「2020年度第1四半期決算の概要」)

以上のようにまだまだみずほFGとしては不良債権問題が出てきている訳ではありません。

リーマンショック時の不良債権比率は現在の水準の2倍を優に超えていました。現段階では、まだ企業業績へ与える影響が不透明であり、債務者区分の引き下げは限定的ということだと想定されます。

 

所見

今回は、みずほFGの2021年3月期1Qの決算を確認し、コロナが銀行経営へどの程度の影響を及ぼしているかを見てきました。

現段階では、コロナは貸出残高の増加という形で銀行のビジネスに影響していることが分かります。

しかし、コロナによる経済活動の停滞が続けば、増加した貸出残高は不良債権を化しかねません。

銀行の経営には暫く留意が必要であることは間違いないでしょう。