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ソフトバンクGは村上ファンドのようなアクティビストに狙われてもおかしくない

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ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)が2020年3月期決算を発表しました。

内容は過去最高の赤字です。本業のもうけを示す営業損益は▲1兆3,646億円の赤字になり、最終損益も▲9,615億円と赤字転落しました。ソフトバンクGは90社近くの新興企業などに投資していますが、コロナの影響等で投資先の企業の価値が減少したとしています。

当該ブログでは何度かソフトバンクGを取り上げています。ソフトバンクGはかなり厳しい状況なのでしょうか。

筆者は、ソフトバンクGの株式は、むしろもっと見直されても良いのではないかと考えています。

今回は、ソフトバンクGは旧村上ファンドのようなアクティビストに狙われてもおかしくないという簡単な指摘をしたいと思います。

 

村上世彰氏の投資スタイル

ソフトバンクGの決算状況を確認する前に、旧村上ファンドを率いた村上世彰氏がどのような投資スタイルだったのか、どのような取引先を「狙って」いたのかについて確認してみたいと思います。

生涯投資家
村上 世彰(2017年6月20日発刊、文庫版は2019年12月発刊)

(※以下は抜粋)

  • 私の投資は徹底したバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する
  • 私は自分の投資先に対して、一緒にMBOをして非上場化するという提案を繰り返し行ってきた。私が投資する企業は、現預金をたくさん保有していたり、財務状況も良く、銀行からの借入余力もあって、直接金融で資金を調達する必要のない企業がほとんどなので、上場している意味が見出せないからだ。さらに、株価が長年低迷しているような会社は、MBOによって株価に一定のプレミアムをつけ、株主に売却の機会を提供することもできる
  • 私の投資スタイルは、割安に評価されていて、リスク度合いに比して高い利益が見込めるもの、即ち投資の「期待値」が高いものに投資をすることだ。
  • 上場企業は、成長のための投資に必要な資金より多額の剰余金を手元に持つ場合、自己株取得や配当で還元する、MBOをする、事業を切り離して解散するなどの手段で、株主及び低すぎる株価に対して、何かしらの対応をすべきだ

村上世彰氏の投資手法は批判されることが多いですが、銘柄選定のベースとなるのは、バリュー投資であり「財務状況が良い一方で、株価が割安で放置されている企業」を選んで投資していくという手法になります。

 

ソフトバンクGの状況

では、ソフトバンクGの現在の状況はどのようなものでしょうか。

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(出所 ソフトバンクG「2020年3月期決算説明会資料」)
このスライドにあるようにソフトバンクGは大幅な赤字転落となりました。

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 (出所 ソフトバンクG「2020年3月期決算説明会資料」)
要因は上記の通りソフトバンク・ビジョン・ファンドにおける投資先の価値減少による損失発生です。

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(出所 ソフトバンクG「2020年3月期決算説明会資料」)
ソフトバンク・ビジョン・ファンドについては、投資開始からの累計で、損失となりました。
2020年3月期という断面だけでみれば、ソフトバンクGは投資が失敗して巨額の赤字を出した企業としか見えないかもしれません。
しかし、ここで忘れてはならないのは、一般の企業の赤字とソフトバンクのような投資企業との赤字の違いです。
単純に言えば、通常の会社の赤字は一度計上したらそのままですが、投資企業は赤字を計上しても投資を解消せず、次の年に株価が戻れば、同じ保有株式で利益が計上できます。株価の変動によって利益が変動するのです。これは個人で株式の投資を行っていれば分かるでしょう。「コロナショックで株価が下落したけれども、しばらく待っていれば戻るかもしれない」ということと同じなのです。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドは2020年3月期という1年間では大幅損失でしたが、2021年3月期に株価が戻れば、同じファンドが大幅に利益を出すこともあり得ます。
投資企業の営業損益は参考値といった方が良いように筆者は考えます。
 
では、上記のようにソフトバンクGの業績は低迷しましたが、保有する資産の状況はどうでしょうか。

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(出所 ソフトバンクG「2020年3月期決算説明会資料」)
上のスライドでは2020年5月18日時点で、保有株式価値から純有利子負債を控除した株主価値は21.6兆円あるはずだとソフトバンクGは主張しています。
 2020年5月20日終値時点で、ソフトバンクGの時価総額は6.6兆円です。
上記の株主価値との差は15兆円もあることになります。
ソフトバンクGの保有資産のうち総額が大きく、かつ上場している3社(アリババ、ソフトバンク、Tモバイル)の株式価値の合計は22.4兆円です。ソフトバンクGの投資先は非上場企業が多く、企業価値(≒株価)はあってないようなもの(と言ったら怒られますが、換価性・流動性には少なくとも乏しいと思います)ですが、上場企業の株式は立派な資産です。
上記3社の株式合計22.4兆円から純有利子負債6.8兆円を控除しても15.6兆円となり、現在の時価総額6.6兆円をはるかに上回ります。
これがソフトバンクGの現状です。
 

もしアクティビストが資金を持っていたら

ここで簡単な問いを考えてみましょう。
『もし資金制約がなければソフトバンクGをあなたは買収しますか』
筆者の答えはYesです。
村上ファンドやハゲタカと言われるような投資方法をソフトバンクGに行えば、かなりの確率で儲かるからです。
しかも、やり方は単純です。
まずソフトバンクGの株式のかなりの割合を買い進めます。
そして、ソフトバンクGに次のように要求するのです。
『もう投資も何もしなくて良い。ただ、アリババ、ソフトバンク、Tモバイルの株式を全額売却せよ』
これだけです。
アリババ、ソフトバンク、Tモバイルの株式を今の株価で売却できたとしましょう(これはこれで難しいですが)。
そうすると、22.4兆円×70%(税率30%と仮定)=15.7兆円が手に入ります。
ここから純有利子負債を全て返済する(もしくは資金をプールしておく)と15.7兆円ー6.8兆円=8.9兆円となります。
これでもまだ時価総額である6.6兆円を約35%上回ります。
すなわち、ソフトバンクGを買収する等してコントロールし、上記上場3社の株式を売り払い、借金を返すと、時価総額を35%上回るキャッシュと、その他投資先である非上場株式等+ソフトバンク・ビジョン・ファンドが残ります。
投資家は、キャッシュのほとんどを配当で吸い上げるだけで投資を上回るキャッシュを手にすることが出来ます。
そして、残ったソフトバンクGは、非上場株式とソフトバンク・ビジョン・ファンドの管理だけに集中するということになります。
以上見てきたように、ソフトバンクGの株式は、保有資産に対比して割安なのは間違いありません。
ソフトバンクGは、資金さえあれば村上ファンドのような投資家の投資対象になっても全くおかしくない状況にあるのです。
 

所見

以上はあくまで仮定の話ではあります。
しかし、米大手ヘッジファンドのエリオット・マネジメントは実際にソフトバンクに投資しています。そして株価引き上げに向けた行動を要求しました(自社株買いにつながったりしています)。
筆者はソフトバンクGに投資すべきだと主張したい訳ではありません。単に、ソフトバンクGの株式は保有資産対比では割安だと指摘したいだけです。
ただ、筆者がソフトバンクGの経営に影響を及ぼせるぐらいの資金を持っていたならば、買い占めたいとは思います。(きっと様々な反発を受けるでしょうが)
ソフトバンクG株式については、決算について報道されているイメージで評価してはいけないのではないでしょうか。確かにソフトバンクGは、今の断面だけでは投資に失敗したのかもしれません。しかし、ソフトバンクGの全部が否定される必要はありません。
冷静に見れば、ソフトバンクGの株式は割安であり、資産対比で経営には余裕があるのです。