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GPIFの2020年度運用実績から見る長期運用の大切さ

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公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2020年度の運用実績を発表しました。

収益は約37兆8,000億円の黒字で、収益率はプラス25.15%と、いずれも過去最大です。

今回は、このGPIFの2020年度運用について簡単に見ていくことにしましょう。

 

2020年度運用実績の概要

まずは以下の数字をご覧ください。

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(出所 GPIF「2020年度業務概況書」)

2020年度は、年間で+25.2%、金額にして約37兆8,000億円の運用実績でした。

これにより、2001年度からの20年間では平均年率で+3.6%の運用、累計で95兆円3,000億円程度を稼いだことになります。

運用資産額は186兆円ですので、非常に大雑把に言えば、運用の結果、運用資産額が2倍程度になっているということになります。

各年度の運用実績の推移は以下の通りとなります。

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(出所 GPIF「2020年度業務概況書」)

この運用実績を見ると、やはりインカムゲイン(利子・配当収入)は安定的に収益を上げている一方で、キャピタルゲイン(価格変動による実現損益・評価損益)は変動が激しいことが分かります。

それでも長期的に見るとインカムゲインとキャピタルゲインはバランスが取れていると言えるのではないでしょうか。

尚、インカムゲインの20年間の収益率は平均年率1.64%です。

 

資産毎の収益率

資産毎の収益はどのような状況だったのでしょうか。

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(出所 GPIF「2020年度業務概況書」)

収益の内訳では、外国株式が20兆7,000億円弱、国内株式が14兆7,000億円程度と大半を稼ぎ、外国債券が2兆7,000億円程度とプラスとなりました。一方で国内債券は約2,400億円の赤字となっています。

外国株式の収益率が約6割のプラス、国内株式の収益率が約4割のプラスと非常に好調でした。

 

年金積立金全体の運用目標

年金積立金全体(GPIFのみならず年金特別会計で管理する積立金含む)の運用は、厚生労働大臣が定めた中期目標において、長期的に実質的な運用利回り(運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの)1.7%を最低限のリスクで確保することとされています。言葉を換えると「名目賃金上昇率+1.7%」が長期的な運用目標です。

この運用目標対比でGPIF等の運用実績はどうなのでしょうか。

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(出所 GPIF「2020年度業務概況書」)

このグラフで分かるように年金積立金全体の運用実績は長期的な運用目標を上回っています。

GPIFも短期的には運用実績がマイナス(赤字)を出す時があります。そのような時には「運用実績が悪いから年金財政に大きな問題が出る」というような報道がなされることがあります。しかし、このグラフを見る限り、リーマンショックの時でも長期的な運用目標を下回っていないことには注目しておいても良いのではないでしょうか。

 

GPIFの運用が年金財政に与える影響

GPIFは、2020年度は年金特別会計に対し、国庫納付1兆5,818億円を行いました。その結果、市場運用を開始した2001年度以降の20年間の累積国庫納付額は、16兆8,297億円となっています。これは、GPIFの運用資産額約186兆円からみると1割弱です。

以下の図をご覧ください。

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(出所 GPIF「2020年度業務概況書」)

現役世代が納めた年金保険料のうち、年金の支払いなどに充てられなかったものが、将来世代のために積み立てられています。長期的にみると、年金財源全体のうち、年金積立金からまかなわれるのは1割程度です。

以下のようにGPIFが運用している年金積立金は概ね50年程度は取り崩す必要が生じない資金です。このため、一時的な市場の変動に過度にとらわれる必要はなく、さまざまな資産を長期にわたって持ち続ける「長期運用」によって、安定的な収益を得ることを目指しています。

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(出所 GPIF「2020年度業務概況書」)

したがって、GPIFの運用が短期的に赤字となったからといって、批判する必要もなければ、年金受給額を心配する必要もありません。

 

所見

GPIFの2020年度運用実績は、非常に良好な結果でした(ベンチマーク比でも勝っています)。しかし、この運用成績がもたらされたのは「GPIFがマーケットに居続けたから(ポートフォリオの修正含む)」です。運用が長期目線とすべきであること、複利効果はやはり大きいことをGPIFの運用から個人は学べるのではないでしょうか。

そして、年金について、少なくとも運用についての心配をする必要はないことが分かるのではないでしょうか。GPIFの運用が赤字だと、年金財政が破綻するように言われたりしますが、GPIFの年金積立金は1割程度しかカバーしません。年金の給付原資は、主に保険料と税金です。積立金の運用収益ではありません。これは忘れてはいけないことだと思います。