金融庁が「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」を公表しました。
このレポートはほとんど話題になっていませんが、地銀が業績改善に苦しむ要因の一つを指摘しているように思われます。
今回は、金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポートの内容を確認してみましょう。日本の地銀の問題点が見えてくるかもしれません。
共同センター利用の問題点
金融庁の今回のレポートは、地銀のITにおけるシステム構築・維持の問題点を的確に捉えているのではないかと筆者は考えています。
以下、当該レポートから引用します。
地域銀行(地銀)では、1980年代の第3次オンラインシステム導入以降、各行が抱えるシステムエンジニアや開発・運用に係るコストが膨大なものとなっていく中、複数の銀行が共同で勘定系システムの開発・運用を行う「共同センター」の導入の検討が進められた。本格的な共同センターへの移行は2000年頃から始まり、今や9割以上が(勘定系共同パッケージの利用を含む)共同センターに加盟している。多くの場合、共同センターに加 盟することによって、一定のITコストの削減を達成したほか、制度対応やセキュリティの確保なども含め、安全かつ安定的なシステム稼働を実現してきた。
しかし、足元、地域銀行では、人口減少・少子高齢化の進展や低金利環境の長期化、デジタライゼーションの要請の高まりなど厳しい状況が続く中で、顧客との共通価値の創造を図ることができる持続可能なビジネスモデルの構築が大きな課題となってきている。
こうした中、地域銀行の勘定系システムについては、共同センターの利用期間が長期にわたった結果、新たな IT・デジタル技術への機動的な対応の困難さ、銀行内のIT人材不足・ノウハウの希薄化に加え、共同センターの開発や運用コストの合理性にも疑問が投げかけられるケースも出てくるなど、当初メリットであった IT コストにも課題が指摘されるようになってきている。 すなわち、地域銀行では、経営戦略と整合的なIT戦略の下、必要となる組織、リソース、投資管理プロセス等を確保し、利用者ニーズにあった金融サービスを提供し、付加価値を生み出すための仕組みであるITガバナンスの発揮と、共同センターとの関係性が重要な課題となっている。(出所 金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」2020年6月)
このように地銀は勘定系システム等を共同センターで運営していますが、そのために、IT人材不足・機動性の欠如・コスト増加等が過大として挙がってきていることが分かります。
地銀のITコスト
預金取扱金融機関の勘定系システムの費用は預金量により増減することが多いため、ITコストの効率性・ 適切性について金融庁は「システム関連経費/預金量」を指標としています。
この指標を比較した結果、①地銀全体は、信金・信組と比べて高コストの結果であったほか、②収益規模が小さい地銀ほどコスト構造に課題がある様子がうかがわれた、と金融庁は報告しています。
(出所 金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」2020年6月)
預金取扱金融機関の勘定系システムに係るITコスト構造や共同センターの料金体系を見ると、預金量が主な要因となっていることが多いことから、「システム関連経費/ 預金量」を指標としてITコストの効率性・適切性を確認した。この結果、地域銀行の同指標は0.18%であった。これに対して、公開情報をもとに信用金庫・信用組合業態の同指標を推計した結果、それぞれ 0.12%、0.11%であった。この点、信用金庫・信用組合業態では、①共同化が業界大半の参加する大規模なものとなっていること、②共同センターが地域銀行の場合と異なり、システムベンダー等への牽制を効かせるための一定の専業人員を抱えた独立した法人によって運営が行われていること、③地域銀行以上に事務の共通化が進められておりシステム開発で異例事務対応等のカスタマイズが少ないことなどが、地域銀行業態よりも相対的に低コストの運営の背景にあると推測される。
(出所 金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」2020年6月)
ITコストの使用目的
地銀のITコストの使用目的を見ると、「新規開発」と「保守・維持関連」 の割合は「3:7」であったと金融庁は報告しています。水準の是非の判断は難しいものの、少なくとも地域銀行はITコストの多くを、戦略的投資ではなく、保守・維持に費やしているのが現状ということになります。
(出所 金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」2020年6月)
新たな IT・デジタル技術の採用において、既に地域銀行の間で相応に利用は進んでいる結果になっているものの、「導入済」の回答の場合でも、RPAを除き、地域銀行が直接技術を理解して導入するというよりは、新たなIT・デジタル技術を活用している外部サービスを利用する、という形で導入するに留まっている様子がうかがわれたと、金融庁は説明しています。
そして、このような新技術の本格的な活用が進まないのは、人材や予算といったリソースやノウハウの問題はもとより、柔軟性の乏しいレガシーシステムが起因している可能性があると指摘しています。
今後の動向
以上のような地銀のシステムの課題に対応し、金融庁は大きく2つの方向性を示しています。
- ITコストの適正化を図りつつ、収益面も含めて、経営戦略に沿ってITシステムが機動的に対応できる形にしていくことなどが求められる。また、取組みを支えるIT人材の確保・育成やシステムベンダーとの契約関係のあり方も重要である。
- 信金・信組のコストが抑えられている背景等から、接続・データ仕様標準化や業態を跨いだ共同利用の可能性等も探ることも考えられる。
まさに今後の地銀のシステムは、上記2点の方向に動いていくと思われます。
今後、銀行におけるシステムの重要性は増加することはあっても低下することはありません。紙で処理されていた書類は、確実に電子化(電子データ化)され、システムで処理されることになります。
銀行の窓口は混雑することは無くなり、ほとんどの取引はアプリ経由でなされます。
企業もインターネットバンキングへ移行していくでしょう。
システム、そしてアプリのようなユーザーの使い勝手向上こそが銀行の競争力を左右することになるのです。
この点で、地銀は大きな問題を抱えているように筆者は思います。どのように地銀同士が組み、外部のサービスを使っていくのか、今後も注目したいと思います。