年金積立金管理運用独立行政法人という名前をご記憶されている方は少ないかもしれません。
一方で、公的年金の運用をやっているGPIFと言われると、少しニュースで見たと認識できるかもしれません。
年金積立金管理運用独立行政法人、略称GPIFが2020年12月末までの運用状況を公表しました。
GPIFは赤字を出した時だけ、すなわち運用がうまく行かなかった時にはマスコミに大々的に報道されますが、うまく行っている時にはほとんど見向きもされません。
今回は、コロナ禍におけるGPIFの運用状況について簡単に確認しておきたいと思います。
運用実績
GPIFは世界最大の年金基金です。
そのGPIFの2020年12月末時点の運用資産額は177兆7,030億円で、2019年末の168兆9,897億円を上回り過去最大となりました。
これで3四半期連続のプラスで、収益率としては過去4番目、収益額は過去3番目の高水準となっています。
以下のグラフはGPIFの2001年度以降の累積収益です。
(出所 GPIF「2020年度の運用状況」)
運用の見直し(資産割合の変更)等を重ね、収益率はこの10年で随分と良くなりました。
そしてコロナ禍においても2020年はしっかりと運用成績を残しています。
2001年からの累積収益額は85.3兆円です。
2020年末時点のGPIFの運用資産残高は約178兆円です。
誤解を恐れずに言えば、今のGPIFの運用資産残高の約半分は運用で稼ぎ、積み上がったことになります。
(出所 GPIF「2020年度第3四半期運用状況(速報)」)
この累積収益額85.3兆円のうち、利子・配当収入は39.6兆円あります。収益の半分程度は、利子や配当といった比較的安定した運用で稼いできたと言えるかもしれません。
この図表で見ると分かりますが、いわゆる元本の値上がりで儲ける「キャピタルゲイン」はかなり振れ幅が大きく、2019年度末には累積収益額が57.5兆円と前年度末比で▲8.3兆円も低下していましたが、それが2020年度に入ってからの9ヵ月で27.8兆円も累積収益額が増加しています。
2020年10~12月の3ヵ月における期間収益額は+10.4兆円で、収益率は6.29%です。この期間収益額のうち、利子・配当収入は0.8兆円となっており、いかに元本が変動したかを物語っています。
各資産毎の収益率
では、GPIFはどのような運用をしているのでしょうか。
(出所 GPIF「2020年度の運用状況」)
GPIFは基本的に資産を四分割しています。国内外の債券および国内外の株式です。
もちろんオルタナティブ投資と言われる不動産やヘッジファンドへの投資も行っていますが全体としてみればわずかです。
このコロナ禍においてGPIFの運用結果は以下の通りです。
(出所 GPIF「2020年度第3四半期運用状況(速報)」)
国内外の株式が、各国の金融緩和策によって上昇し、かつ、外国債券も緩和によって金利が低下(=債券価格が上昇)したことで大きな収益を生み出しました。
外国株式は2020年4~12月の間に、まさかの42%も収益を上げています。
ここで学ぶべきは、コロナ禍のような事象が発生したとしても、マーケットから逃げないで留まるという選択肢をした投資家が、今回は勝っているということでしょう。
所見
今回、GPIFはコロナ禍においても素晴らしい運用結果を出しました。
一方で、マスコミの姿勢としては正しいのかもしれませんが、ここで大幅な損失が発生していたら、GPIFのみならず政府に対してもマスコミからの批判が巻き起こっていたでしょう。
国民の年金資産を預かり、運用していくという超長期に渡る役割を担っているGPIFに対して、短期目線で批判を繰り広げるのは、恐らく国民のためになりません。
日本は、世代間の仕送り型の福利厚生・年金制度を採用している国であり、今ある資産を少しでも減らすことなく運用していくことが出来れば、将来世代の負担減につながります。
GPIFへの監視の目は専門家達に任せながら、腰を据えた運用ができるような環境をGPIFに整えることは、私達のような現役世代のみならず、将来世代のために必要だと筆者は考えています。