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邦銀のCLO投資に対する金融庁と日銀の調査結果について

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金融庁が懸念を抱いていた、邦銀が保有する高格付けのローン担保証券(CLO)等について金融庁と日本銀行(日銀)が調査報告を発表しました。

米金融当局が社債購入を含む景気支援策を導入したことを受けてクレジット市場は一旦は回復しています。但し、一部の格付会社は数百のCLOについて格下げの可能性があると発表する等、CLOを取り巻く環境は楽観視できるものではありません。

今回は、金融庁と日銀が実施した邦銀のCLO投資実態の調査について、内容を確認していきましょう。

 

報道内容

まずは金融庁と日銀が発表した調査内容についてニュースでその概要を把握しましょう。以下はBloombergからの引用です。

日銀と金融庁、CLO投資などで慎重姿勢呼びかけー二番底リスク警戒
Bloomberg 萩原ゆき
2020年6月2日

(中略)
 日銀と金融庁は2日、国内金融機関の海外クレジット投融資の実態について共同で実施した調査の結果を発表。その中で、大手行は海外クレジット投融資の拡大に対しては「総じて慎重な姿勢にある」と指摘。しかし、改めて本格的に取り組むことを検討する可能性も十分あるとし、その場合には「二番底のリスクも十分に意識した慎重な検討が求められる」との考えを示した。
 さらに、CLOは同じ格付けであっても運用担当者によって運用の巧拙や資産の選定などで差異が生じることなどから、過度に外部格付けに依存せず個々のケースに応じたリスク管理態勢を整えることが重要だと強調した。
 この調査では、大手行保有のCLOの99%以上がAAA格に集中しており、また約4分の3が満期まで保有する意図を持っていることを確認。市場にストレスがかかり売り圧力が強まった場合でも、安定した外貨調達の基盤が確保できている限り、大手行自身がスパイラル的な価格下落のきっかけを作る事態は生じにくいとみられるとした。
 国内金融機関は低金利環境を背景に、格付けの低い企業への収支を束ねて証券化し、比較的利回りが高いCLOの保有を増やしてきた。しかし、資源価格の下落でシェール企業の破綻が相次げばCLOの価格下落につながることから市場では警戒感が増していた。
(以下略)
(出所 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-06-02/QBACFRT1UM0W01

CLOの投資対象となっているのはシェール企業が多いとされ、そのような企業の破綻がCLOの価格下落を及ぼすのではないかと懸念されてきました。

CLOへの投資は主に大手邦銀が主導していますが、金融庁と日銀の調査では、大手行は投資に慎重な姿勢となっているとしています。

では、邦銀のCLO投資は特段問題ないのでしょうか。

詳しい調査内容を見ていきましょう。

 

邦銀の海外クレジット投資の現状

金融庁と日銀が実施した調査は、日銀レビュー「本邦金融機関の海外クレジット投融資の動向 ―日本銀行と金融庁の合同調査を踏まえた整理―」 としてまとめられています。CLO投資だけではなく、海外へのクレジット投融資全般について調査されています。

まず、本邦金融機関における2019年3月末時点の海外クレジット投融資残高は、融資が約160兆円、投資が約100兆円であると報告されています(以下図表2)。これを業態別にみると、融資・投資のいずれについても、大手行が大きな割合を占めており、他の業態に関しては、大手行に比べて残高が僅少であることが判明しています。

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(出所 日銀レビュー2020-J-4)

海外クレジット投資の内訳をみると、融資・投資いずれについても、投資適格企業向けのエクスポージャーが約7割と大部分を占めています。

一方で、相対的にレバレッジが高く信用力の低い企業向けの融資であるレバローンを含む非投資適格企業向けの融資や、そうした非投資適格企業向け融資を裏付けとする証券化商品であるCLOへの投資、非投資適格企業の社債であるハイイールド債への投資なども3割程度を占めています。

特にCLOについては、グローバルな市場における本邦金融機関のシェアが2割弱に達しているとみられるとされています。

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(出所 日銀レビュー2020-J-4)

大手行による海外クレジット投資は、投資適格債が中心ながら、近年はそれ以外の投資商品の割合が徐々に高まっています。特に2019年前半にかけて、CLOを中心に残高が大きく伸びているのが分かります(以下図表6)。

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(出所 日銀レビュー2020-J-4)

大手行の保有するCLOを格付別にみると、99%以上がAAA格トランシェに集中している点で特徴的となっています。これは、米銀の77%、英銀の50%強と比べても際立って高い水準とされています(以下図表7)。

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(出所 日銀レビュー2020-J-4)

邦銀はCLOという商品には群がっていますが、CLOの中ではリスクの低い商品にしか投資していないことが分かります。

これをどう評価するかは難しいところですが、金融庁と日銀はCLOについて現時点では次のように評価しています。

 

CLOについてのポイント

当該レポートでは、CLOについてのポイントについても記載されています。

CLOは、信用力が相対的に低い融資を裏付け資産とする証券化商品であり、市場残高が急速に拡大してきていたことから、リーマンショック前に同じく市場残高が急拡大し、その後の金融危機拡大の一因となった、サブプライムローンを裏付け資産とする証券化商品との類似性を指摘されることがある。もっとも、①リーマンショック時に大きな損失に繋がったのはデリバティブを組み 込んだ仕組みの複雑な再証券化商品(CDO、CDOスクエアード等)が中心であり、当時もAAA格のCLOについて元利払いが毀損した例はなかったことや、②リーマンショック時は、CDO等の証券化商品自体を担保とするレポにより投資資金を調達していた投資家が多く、証券化商品の価格下落が資金調達難、ひいては投売りに繋がりやすかったのに対し、CLO自体を担保とするレポにより投資資金を調達している先は余り見られないことなどは、意識しておく必要がある。
また、CLO の商品設計についても、リーマンショック以降、AA格以下のトランシェの割合(信用補完水準)が拡大している。このため、裏付け資産の一部でリーマンショックと同程度の信用力の劣化が生じた場合でも、AAA格部分の元利払いが毀損するリスクは、当時よりも抑制される構造となっている。また、後述するように、大手行ではCLOのリスク管理の一環として、裏付け資産ポートフォリオのデフォルト率や回収率に、リ ーマンショック並みかそれを上回る深度の危機を想定したストレスを与えてキャッシュフローを分析し、保有トランシェの元本毀損の可能性を確認している。従って、期中における時価評価額の変動は相応に大きいものの、満期まで持ち切った場合の損失率は抑制されていると評価できる。
 (出所 日銀レビュー2020-J-4)

金融庁および日銀はCLOへの投資に警鐘を鳴らしてはいますが、一方でリーマンショック当時でもCLOのAAA格部分では損失が発生しなかったこと、当時よりもリスクを低減した仕組みになっていること、大手行はCLOのリスクを厳密に分析していることを認めています。

 

所見

以上見てきた限りでは、邦銀のCLO投資(もしくは海外クレジット投資)は、大きな問題を抱えていないと筆者は現段階では考えています。

しかし、少なくともCLOの原資産であるレバローンが実体経済と共に悪化していく可能性はあります。

レバローンのうち満期一括償還型のロー ンについては、償還期に多額のリファイナンス(借換え)が成立することが重要です。特に、シンジケートローン形態のものは、機関投資家の保有割合が高い一方で、こうした投資家の多くは市場性調達への依存度が高い上、レバローンの借り手との関係性も希薄であることから、今後、市場でストレスが再度強まる場合には、リファイナンスに応じることに慎重となる可能性があります。

レバローンの市場全体の償還スケジュールをみると、2022~24年にリファイナンスが集中する格好となっているようです(以下図表10)。

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(出所 日銀レビュー2020-J-4)

すなわち、レバローンおよびそれを裏付けとしたCLOは、本年や来年よりは、リファイナンスというイベントが集中する2022~2024にこそ大きな動きがあるかもしれないのです。

この点は留意すべきかもしれません。