上場企業のアパレル大手レナウンの民事再生法申請により、次に倒産しそうなアパレル企業はどこかという報道が多くなってきました。
某雑誌では、主要なアパレル上場企業を対象にした「余命」ランキングまで掲載されています。
このランキングは、コロナ禍での足元での損失が続いた場合、手元資金(いわゆるキャッシュ)では「何カ月耐えられるか」を試算したものです。
このランキングで1位のレナウン(2.2ヵ月)に続く2位が、ユナイテッドアローズで2.9ヵ月となっているようです。
ユナイテッドアローズは、そんなに問題を抱えているのでしょうか。
今のアパレル企業の動向について見ていくことにしましょう。
ユナイテッドアローズの2020年3月期決算
では、ユナイテッドアローズの2020年3月期決算の概要を確認しましょう。
(出所 ユナイテッドアローズ「2020年3月期本決算説明会」)
ユナイテッドアローズの2020年3月期決算は、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う消費の停滞等に伴い、減収減益となりました。通期で減収となったのは創業以来初です。 売上高は第3四半期(2019年12月)まで増収基調だったものが、第4四半期の減収で通期で減収となりました。
売上総利益率(粗利益率)は前期差▲0.6ポイントの50.8%です。暖冬に伴う秋冬物商品の値引増に加え、第4四半期の売上低下に伴い、在庫消化策を促進したことが主要因となりました。
(出所 ユナイテッドアローズ「2020年3月期本決算説明会」)
単体の既存店売上高は前期比▲98.3%となっています。うち小売が92.4%、ネット通販が116.8%となっておりECの好調は続いています。但し、ネット通販は全体の2割強しか現時点では占めておらず、リアル店舗の減収による影響がやはり大きかったと言えます。
(出所 ユナイテッドアローズ「2020年3月期本決算説明会」)
販管費は主にネット通販の拡販等に向けた宣伝販促費を増加させた要因により若干の増加となりました。
ユナイテッドアローズは減収となり、粗利益率も若干低下し、販管費も増加したことから、減収減益決算となりました。
アパレルは多かれ少なかれ同じような状況ですが、消費増税があり、暖冬があり、儲かるはずの秋冬物商品が動きませんでした。そして、コロナの直撃です。
感覚的にはユナイテッドアローズの2020年3月期決算は悪くなかったものと思います。
ユナイテッドアローズの資金繰り
ユナイテッドアローズの資金繰り動向を知るには、まずは連結のBS実績を確認しましょう。
(出所 ユナイテッドアローズ「2020年3月期本決算説明会」)
2020年3月期は棚卸資産が増加しています。これが一番のポイントでしょう。
借入金も増加はしていますが、大したレベルではありません。
尚、純資産の比率は6割越えです。財務体質は非常に良いと評価出来ます。
(出所 ユナイテッドアローズ「2020年3月期本決算説明会」)
キャッシュフローも営業CFと投資CFのバランスは取れており、財務CFは有利子負債の圧縮も図っています。全体的に見て、特段問題は感じられません。
但し、現預金残高が資産規模に対して少ないという点は指摘できるかもしれません。
所見
ユナイテッドアローズの借入は46億円しかありません。手元の現預金で無理すれば全額返済できるレベルです。
一方で、現預金は60億円しかありません。月商の半月未満分しか現預金がないのです。
これは、期末に有利子負債を返済して見栄えを良くしているというのもあるかもしれません。
現預金が少なくても、いざという時に銀行が貸してくれれば何ら問題はありません。また、銀行が貸してくれなくとも簡単にキャッシュ化できる資産があれば良いのです。
その観点で言えば、自己資本比率が高い、借入がほぼ必要ないという財務基盤が強固なユナイテッドアローズは、銀行から借入を行う調達力は他アパレル企業よりも相対的に高いと考えられます。
但し、販管費から減価償却費を除いた(実際のキャッシュアウトがないため)数字が毎月費用としてキャッシュアウトすると想定すると、60億円という現預金は1ヵ月しか持ちません。
そして、ユナイテッドアローズは本業以外で他にキャッシュ化できるような資産がありません。土地はほぼ保有せず、建物67億円はありますがこれはデパートの中のパーテーションのようなものも含まれるでしょう。さすがにキャッシュ化するのは難しいでしょう。最も換価しやすい投資有価証券もありません。
したがって、本業である棚卸資産(商品)を売らない限りキャッシュが入ってきません。これがユナイテッドアローズの現実です。
2020年4月の全社売上高は前期比32.7%です。通常の3割強しか販売が出来ていないのです。キャッシュを手に入れる手段を、本業しか持たないユナイテッドアローズにとっては、コロナでの休業はかなり厳しいでしょう。
驚くべきことに、ユナイテッドアローズは、財務バランスは問題ありませんが、銀行から資金繰りを支えてもらわない限りは、休業・営業自粛に陥ると数ヵ月で倒産することもあり得るのです。
銀行はアパレル業界に対してネガティブに判断していく可能性があります。ユナイテッドアローズのような企業は、自衛のためにも少しキャッシュを手厚くするか、銀行からのコミットメントラインを平時にセットしておくことが必要かもしれません。
これもまた事実です。