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ユナイテッドアローズの2021年3月期2Q決算から見るセレクトショップの今後

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コロナ影響で様々な業種の業績が悪化しています。

特に影響を受けているのはコロナ7業種と言われている「陸運、小売、宿泊、飲食、生活関連、娯楽、医療福祉」です。人の移動・集客を商売の前提としている業種が苦戦していることになります。

そして、テレワークの普及、ファッションのカジュアル化、可処分所得減少等の影響を大きく受けているのがアパレル業界でしょう。アパレルメーカーが軒並み大幅な赤字に転落し、レナウンは民事再生を目指していましたがスポンサーが現れず破産する(=会社が無くなる)ことになりました。

今回は、小売・アパレル業界において存在感のあるセレクトショップ最大手のユナイテッドアローズの決算状況を確認していきたいと思います。

 

決算概要(報道内容)

ユナイテッドアローズの決算概要については、日経新聞の記事が纏まっています。概要をつかむために引用します。

Uアローズの20年4~9月期、最終損益は50億9700万円の赤字
2020/11/5 日経新聞

ユナイテッドアローズが5日発表した2020年4~9月期の連結決算で、最終損益は50億9700万円の赤字となった。前年同期は19億4200万円の黒字だった。2021年3月期通期の最終損益は60億7000万円の赤字(前期は35億2200万円の黒字)を見込む。(中略)

販売費及び一般管理費は、売上の低下に伴う変動費の減少や固定費の抑制等により、前年同期比14.2%減の297億1000万円となった。

4~9月期の売上高は前年同期比28.6%減の532億5900万円、営業損益は68億4000万円の赤字(前年同期は39億300万円の黒字)、経常損益は57億8700万円の赤字(前年同期は38億9300万円の黒字)だった。通期予想に対する第二四半期の進捗率は売上高で41.5%と過去5年の平均(45.6%)を下回る。

2021年3月期の営業損益は65億円の赤字(前期は87億5800万円の黒字、従来予想は70億円の赤字)、売上高は前期比18.5%減の1283億円(従来予想は前期比20%減の1259億1500万円)と、それぞれ予想を引き上げた。経常損益は53億円の赤字(前期は88億300万円の黒字)となる見通し。アナリスト予想の平均であるQUICKコンセンサスは売上高が1302億8200万円、営業損益が50億8300万円の赤字、経常損益が46億6800万円の赤字。

ユナイテッドアローズは8月5日に2021年3月期の業績見通しを発表していた。

https://www.nikkei.com/article/DGXLRST0413943S0A101C2000000/

ユナイテッドアローズの2021年3月期中間決算は、売上高が約3割減少しています。減収をコスト削減ではカバーできず大幅な赤字転落になっているというのが足元の現状です。

 

決算詳細

ユナイテッドアローズの決算状況は厳しいですが、足元では減収幅が縮小する等、改善の兆しも見えてきてはいます。

以下の通り、1Q(4~6月)をボトムに減収幅が縮小し、かつ売上総利益率・販管費率の悪化が抑制されており、減益幅が縮小してきています。

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(出所 ユナイテッドアローズ「2021年3月期 第2四半期 決算説明会資料」)

そして、コロナ禍の中でEC(ネット通販)が伸びていることが分かります。

以下のスライドの通り、ネット通販の売上構成比は37%程度となっています。これは前年同期からみると15.4ポイントの増加となっています。

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(出所 ユナイテッドアローズ「2021年3月期 第2四半期 決算説明会資料」)
上記スライドの通り、リアル店舗の苦戦は続いていますし、ネット通販はリアル店舗の減収を埋めるほどには育っていませんが、それでも大きな伸びを見せていることは間違いありません。

次に販管費(コスト)の状況です。

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(出所 ユナイテッドアローズ「2021年3月期 第2四半期 決算説明会資料」)
このスライドはまさに売上が急減した際の企業の苦境を示しているものです。

売上が減少したとしても、企業が同じ割合でコストを減らすことは非常に難しいのです。簡単に人員削減は出来ませんし、店舗を借りていたらすぐに閉店して賃料を削減するというのも難しいでしょう。その観点ではユナイテッドアローズは、かなりコストコントロールを上手くやっているように思います。人件費や賃借料がここまで急激に低下しているからです。

次にユナイテッドアローズの2021年3月期(通期)の業績計画が以下です。

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(出所 ユナイテッドアローズ「2021年3月期 第2四半期 決算説明会資料」)
中間期では営業利益が▲6,840百万円であり、簡単に言えば下半期は損益トントンを計画していることになります。

 

アパレル業界が置かれる状況

2021年3月期中間決算の発表と同時にユナイテッドアローズは新中期経営計画を発表しています。

コロナ禍による市場環境の変化をアパレル・小売の側から説明したのが以下のスライドです。

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(出所 ユナイテッドアローズ「2021年3月期 第2四半期 決算説明会資料」)
この変化によってユナイテッドアローズは以下の課題を抱えていることが示されています。これも分かりやすいスライドです。

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(出所 ユナイテッドアローズ「2021年3月期 第2四半期 決算説明会資料」)

ユナイテッドアローズは以下のように対応していくことになります。

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(出所 ユナイテッドアローズ「2021年3月期 第2四半期 決算説明会資料」)

ユナイテッドアローズは「市場環境がコロナ禍前に完全に戻るとは想定してなく、新しい環境への対応にはある程度の時間を要すると考えている。それを踏まえると、当中期経営計画の期間においては、この環境変化に対応できる企業に切り替え、事業の継続性を担保する収益性の向上に優先順位を置くべきと判断した」としています。

上記のユナイテッドアローズの中期経営計画での説明はアパレル業界の状況・課題を的確・端的に表しているのではないかと筆者は考えています。

 

所見

以上では損益と業界の動向について見てきました。

2021年3月期は下半期で業績を大幅に改善させる計画です。

しかし、冬季になりコロナ感染症が拡大した場合にはどのようになるのでしょうか。

2021年3月期上半期(4~9月)のユナイテッドアローズのキャッシュフローの流れは以下の通りでした。

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(出所 ユナイテッドアローズ「2021年3月期 第2四半期 決算説明会資料」)

すなわち、本業ではキャッシュ(営業キャッシュ・フロー)が92億円の流出となり、投資(投資キャッシュ・フロー)でのキャッシュ流出19億円もありました。それを116億円の資金調達(財務キャッシュ・フロー)にてカバーしたので、キャッシュの残高は63億円と前年同期比横ばいとなっています。

これは言葉を換えれば、外部からの資金調達ができなかったならば、ユナイテッドアローズは資金破綻していたとも言えるのです。現在進行形でコスト削減策を進めているでしょうが、ユナイテッドアローズといえども資金繰りの問題を抱えかねないのが、このコロナの影響です。

アパレル業界は、これからビジネス需要を前提にしたビジネスはかなり苦戦を強いられるでしょう。ファッションのカジュアル化が進んできた時に、コロナショックが直撃し、テレワークも普及しました。残業減やボーナスカット等もあり人々の財布のひもは固くなります。基本的にはアパレル業界やセレクトショップは、売上高・利益率の減少から逃れられないのではないでしょうか。その際に必要なのはコストを削減することと、ネット通販への対応です。セレクトショップ最大手のユナイテッドアローズだろうと生き延びるかは不透明な時代なのです。