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朝日新聞社の2020年3月期決算は新聞事業の存在意義を問う

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朝日新聞社が5月27日に2020年3月期決算を発表しました。

新聞発行部数の減少などで減収となり、 本業の収益は大幅に減益となっています。

新聞社の業績はどのような状況なのでしょうか。

業績が悪化している朝日新聞社の業績について速報ベースではありますが、 簡単に見ていきましょう。

 

朝日新聞社の連結業績

朝日新聞社の決算は決算短信で発表されています。以下が2020年3月期連結決算の概要となります。

  • 売上高3,536億円(前年同期比▲5.7%)
  • 営業利益 24億円(同▲73.1%)
  • 経常利益131億円(同▲18.4%)
  • 当期利益 107億円(同▲2.6%)

営業利益は3期ぶりの減益であり、当期利益は2期連続の減益となっています。

営業利益が驚くほど低下していることが、2020年3月期連結決算のポイントとなります。

尚、経常利益が本業の利益である営業利益よりも多いのは、テレビ朝日のような関係会社の利益88億円が持分法による投資利益として計上されているからと思われます。

また、特別利益で固定資産の売却益を78億円計上しています。減損損失43 億円、早期割増退職金20億円の特別損失はありましたが、当期利益は大きな減少とはなりませんでした。

尚、以上の業績は連結決算によるものですが、朝日新聞社の単体業績では、営業利益が前年同期比▲95.6%の2億円となりました。

現時点では有価証券報告書が開示されていないので、あくまで推測するしかありませんが、朝日新聞社は本業の新聞事業等は完全に赤字となっているものと思われます。

朝日新聞社は新聞社としてのイメージが強いでしょうが、利益で見れば不動産会社です。あえて言うなら、不動産の利益を基に新聞事業を営んでいるのです。

そして、朝日新聞社の売上総利益率は2019年3月期 (単体) が33.7%でしたが、2020年3月期には31.3%まで低下しています。筆者の推測でしかありませんが、新聞発行部数の減少のみならず、広告費が減少しているものと想定されます。

新聞事業という本業の赤字が不動産賃貸事業の黒字を食いつぶしつつある可能性があるということになります。

2019年4~9月の連結中間決算では、メディアコンテンツ事業は売上高1,580億円に対して営業利益が▲30億円、不動産事業は売上高217億円に対して営業利益が37億円となっています。このような状況が下期も続いたと考えられます。

これが朝日新聞社の現状の業績です。

 

朝日新聞社の財務内容

一方で、朝日新聞社の財務内容は非常に強固です。

連結総資産は5,992億円ですが、純資産は3,754億円となっています。自己資本比率は60.9%となっており財務基盤は盤石です。

現預金は907億円と潤沢です。

他の主要資産としては、建物1,496億円、土地577億円、投資有価証券が1,897億円となります。

負債としては、借入金が90億円しかありません。

退職給付にかかる負債という従業員が将来退職した際に支払うべき負債が1,317億円ありますが、これは投資有価証券の範囲内でもありますので現時点では大きな問題とまでは言えないでしょう。

朝日新聞社は、損益という観点での業績は厳しいですが、過去に蓄積した資産は十分にあるのです。

強いて言うならば(失礼な言い方でしょうが)、稼ぐ力はボロボロながら、持っている資産はピカピカです。

 

所見

朝日新聞社は、企業存続だけを考えれば、メディア・コンテンツ事業を売却し、不動産事業に特化した方が業績は大幅に改善するでしょう。

しかし、非上場である朝日新聞社に対して業績改善のプレッシャーを与える「モノ言う株主」は存在しませんので、ドラスティックな事業組み換えは難しいものと思います。

それでも足元では、朝日新聞社は従業員の給与削減を行ったり、早期退職を募集したりと業績改善に向けて対応を重ねています。

紙の新聞の売上減少の動きは止まらないでしょう。いかにデジタルに対応した戦略を打っていくのかが業績を反転させるポイントとなることは間違いありません。

しかし一方で、朝日新聞社の財務内容は抜群に良好です。不動産の含み益まで勘案すれば、(経営陣さえその気ならば)かなり長期間、新聞事業の赤字を耐えることが出来るでしょう。ある意味でメディアの独自性が担保されている企業なのです。

伝統的なメディアである新聞社やテレビ局は、不動産事業で食いつなごうとしているところが多くなりました。フジテレビやTBS、そして朝日新聞社は分かりやすい事例です。

まさに、(銀行と同じですが)存在意義が試されているのでしょう。