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JALの破綻は暫くないと言える2020年度決算結果

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日本航空(JAL)の2020年度(2021年3月期)決算が発表されました。

2,866億円の赤字と2012年の再上場後で初の赤字となりました。赤字額の大きさは、報道でご覧になっている方もいらっしゃるでしょう。

日本は緊急事態宣言が延長され、まだまだ乗客数が回復する見通しは立ちません。JALは企業として存続できるのでしょうか。

今回はJALの2020年度決算について確認していきましょう。

 

決算概要

では、JALの決算数字を確認しましょう。

以下が全体像です。

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(出所 日本航空株式会社 2021年3月期決算説明会資料)

売上収益を見ると前年比約9,000億円の減収であることがわかります。売上高が前年比65%ダウンというのはなかなか見られるものではありません。

そして、国際旅客は前年比94%ダウンです。もう壊滅的な数字です。国内旅客も67%ダウンであり、唯一好調だったのは貨物郵便だけです。

この売上収益の落ち込みをカバーすべく、JALも様々なコスト圧縮に取り組みましたが、営業費用は前年比32%のダウンに留まりました。

単純化すると、JALの2020年度業績は、売上収益が9,000億円減少したため、コスト削減を徹底したものの、営業費用は4,200億円しか減少しなかったことから、大幅な赤字に陥ったと言えます。

 

決算のポイント

ではJALの今回の決算におけるポイントは何でしょうか。

以下はEBIT(利息および税金控除前利益)の前年比推移です。

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(出所 日本航空株式会社 2021年3月期決算説明会資料)

これで見ると、図で分かりやすいのではないでしょうか。

この図表のポイントは、飛行機が飛ばないので燃油費が減少(図では費用が減るのでプラス)する一方で、整備費や機材費は収入の落ち込みとは比べものにならないぐらいに、ほとんど変わらないことです。(機材費はむしろ増加しています)

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(出所 日本航空株式会社 2021年3月期決算説明会資料)

これらの数値を見れば分かる通り、JALの営業費は変動費と固定費に分けられます。通常の年(2019年度)だと変動費と固定費の割合が概ね1:1でしたが、2020年度は変動費1:固定費2程度となっています。

この固定費こそがJALの赤字要因です。

JALの名前を付けて空を飛んでいる航空機は、全てがJALが保有している訳ではありません。JALが借りている機体もあるのです。そして、機体は使わずに置いていても整備費はかかります。また、売上が減少したからといって人件費も急激に減少させることは出来ません。特に日本においては企業に相応の雇用義務があります。

このように、未だかつていない売上減少の環境下において、固定費のコントロールはなかなか出来ていないのが実情でしょう。

それでも、固定費を当初想定から約1,350億円削減したとしていますので、かなり思い切った策を実施したものと思われます。

 

財務状況・資金繰り

2020年度に巨額の赤字を計上したJALですが、財務状況や資金繰りに問題はないのでしょうか。

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(出所 日本航空株式会社 2021年3月期決算説明会資料)

2020年度末(2021年3月末)時点では、現預金は4,000億円を確保しています。

また、自己資本比率は45%を維持しており、財務体質が一般的案水準から比べて悪いというレベルにはありません。

もちろん巨額の赤字を出したため、キャッシュの流出はありました。

本業から得られるキャッシュである営業キャッシュフローは約2,200億円の赤字(資金流出)、投資キャッシュフローは約900億円の赤字となっていました。

そのため、財務キャッシュフローという外部からの資金調達で約3,900億円受け入れ、結果として約800億円の現預金増加となったのが2020年度です。

多額の借入を行ったため有利子負債が2,400億円増加し、総額が約2倍近くまで膨らみました。

それでも、前述の通り自己資本比率は45%となっており、財務体質が他社と比べて劣る訳ではありません。まだ資金調達余力はあるでしょう。

そして、資金繰りという点では以下の資料が参考になります。

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(出所 日本航空株式会社 2021年3月期決算説明会資料)

この図表にあるようにJALは2021年3月末時点で約4,000億円の現預金と、コミットメントライン枠3,000億円を確保しています。コミットメントラインは、基本的にはいつでも借入を行うことがある借入枠であり、銀行は要請に応じて貸出を行う義務があるものです。そのため、基本的には(銀行が破綻しない限りは)現預金と同様とみなせるでしょう。したがってJALの手元には合計7,000億円のキャッシュがあると見做せます。
一方で、足元(2021年4~6月)における毎月のキャッシュ流出額は100~150億円とされています。

そうすると、7,000億円÷150億円=46ヵ月=3.8年程度は乗り切ることができるという単純計算になります。

コロナの影響がいつまで続くかは分かりませんが、JALの破綻は暫くないと言えるでしょう。