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旅行業界最大手JTBすら急激なリストラに追い込まれるコロナの怖ろしさ

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旅行業界最大手のJTBが2020年4~9月の決算を発表しました。

中間決算は驚くほどの巨額赤字となり、今年度の経常損益が過去最大の1,000億円の赤字となる見通しも公表しています。

加えて、早期退職の拡充等によって国内外で全社員の20%程度に当たる6,500人を削減する方針も発表しています。

JTBといえば大学生の就職人気ランキングの上位を維持してきた企業です。コロナはJTBにどのような影響を与えているのでしょうか。

今回はJTBの2021年3月期2Q決算の内容について見ていきます。

 

決算概要

では、JTBの中間決算の概要を確認しましょう。以下が2020年上期(4~9月)の業績です。

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(出所 JTBグループ 2020年4月~9月期 連結決算概要)

売上高は前期の2割弱です。2割「減」ではなく、「8割強減少」しています。

経営危機というレベルを超えているような減収幅です。

そのため、本業の利益である営業損益は▲711億円という巨額赤字、最終損益は▲782億円という赤字になっています。

部門別にみても国内旅行が多少マシなだけで、全ての部門が壊滅的な減収幅となりました。

この赤字を受け、純資産は737億円(2020年3月末比▲835億円)となり、自己資本比率は11.4%(2020年3月末比▲12.9ポイント、2020年3月末=24.3%)まで低下しています。

2021年3月期通期では経常損益が過去最大の▲1,000億円という赤字を見込んでいます。自己資本比率は更に低下するでしょう。

 

資金繰り

次に、JTBの資金繰りを見ていくことにしましょう。

赤字だったとしてもキャッシュがあれば企業は存続できます。

2020年9月末における現預金は3,182億円となっています。

2020年4~9月における本業でのキャッシュ流出額(営業キャッシュフローの赤字)は229億円でした。これが通年続くとすれば▲500億円弱のキャッシュ流出です。

一方で、2020年4~9月の販管費は1,043億円です。全てがキャッシュアウトとなる費用ではない(例:減価償却費)とはいえ、JTBには年間で2,000億円近いコストが発生することもまた事実です。

現在の現預金水準は、しばらくは企業存続に問題ない水準とは言えますが、このままの売り上げ状況が続けば、1~2年では資金繰り問題に直面するでしょう。

尚、JTBは、2020年上期(4~9月)は短期借入の増額328億円、及び長期借入の増額502億円等を調達しています(財務キャッシュフローは+815億円)。

すなわち、全体的に見れば借入を大幅に増加させたことで、コロナ対応として現預金を確保していることになります。但し、自己資本比率が急低下しており、財務内容が脆弱な水準に入ってきていますので、銀行からの追加融資を引き出すのは簡単ではなくなってきているものと思われます。

 

今後の動向

資金繰りに一定の目途をつけたJTBは、今の環境がしばらく続くことを前提にコスト削減策に乗り出しました。

早期退職の拡充や2022年度の新卒の採用を見合わせるなどして、前年度平均で国内外合わせて2万9,000人在籍していた従業員を、来年度には2万2,500人に削減する方針を明らかにしました。国内で2,800人、海外で3,700人の合わせて6,500人を減らし、これによって全従業員の約20%を削減する計画となります。

また、国内の店舗のうち115店舗を統廃合で削減(インターネットでの販売強化)、冬季賞与をゼロとするなどして従業員の年収を3割削減する等を打ち出しました。

役員報酬や賞与の削減とあわせ、2021年度末までに700億円の人件費抑制の効果を見込み、店舗削減など一連の構造改革とあわせ、2021年度には営業損益の黒字化をめざすとしています。

旅行業界最大手のJTBは財務内容も悪くありませんでした。そのJTBが急激にここまでのリストラに追い込まれるなんて、さすがに去年の今頃は誰も想定していなかったでしょう。

現時点では、コスト(キャッシュ流出)を削減すること、そしてコロナ環境が続くのであれば増資もしくは更なる借入を模索すること(資金を外部から確保すること)が、JTBにとって重要です。コロナは外部要因であり、なかなかJTBに対応策は見つからないと思われます。

 

(筆者は来年こそは海外旅行に行きたいと考えています。人生何が起こるか分からないですし、行ける時があるのであれば先送りするのはやめようと思います。以下はJTBをちょっとだけ応援しようかと思ってリンク貼ったものです)