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ANAは生き残れるのか?

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ANAホールディングス(ANA)が、2021年3月期第2四半期決算を発表しました。

ANAはコロナの影響によって大幅な赤字になっています。そして、機体数縮小等のコスト削減策のみならず、人件費削減として賃金カット、他社への出向等の策を打ち出しています。

ANAは企業存続が可能なのでしょうか。

今回はANAの決算について確認していきます。

 

決算概要

では、まずはANAの業績の概況をつかみましょう。

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(出所 ANAホールディングス㈱ 説明会資料「2021年3月期 第2四半期決算」)

ANAの2021年3月期上半期(中間決算)は、売上高が前年比72.4%減の2,918億円、営業損失2,809億円、経常損失2,686億円、第2四半期純損失1,884億円となりました。

旅客数は、ANA国際線で前年比▲96%、ANA国内線で前年比▲80%と壊滅的です。国内線需要は戻り始めており、貨物需要は堅調ですが、厳しい状況にあることには変わりありません。

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(出所 ANAホールディングス㈱ 説明会資料「2021年3月期 第2四半期決算」)

2021年3月期の最終赤字は5,100億円と過去最大の赤字を見込んでいます。

最終赤字は2010年3月期(573億円の赤字)以来ですが、当時の赤字額とはケタが違います。

コロナは人の移動を完全に制限してしまいました。通常の災害や景気低迷は、どこかの地域が影響を受けたとしても、違う地域ではヒト・モノの動きは止まりませんでした。

しかし、コロナは全世界で一律にヒトの動きを止めてしまったのです。

ANAは2021年3月末時点での旅客数の前提を、国際旅客:5割、 国内旅客:7割としています。この旅客数がどうなるかによってANAの決算は変動することになります。

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(出所 ANAホールディングス㈱ 説明会資料「2021年3月期 第2四半期決算」)

上表は需要ですが、ANAの計画通りに旅客需要が回復するかは予断を許さないでしょう。そのため、ANAはコスト削減を進めるしかありません。

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(出所 ANAホールディングス㈱ 説明会資料「2021年3月期 第2四半期決算」)

年度で固定費を1,520億円削減し、変動費をコントロールすることで合計5,430億円のコスト削減を計画しています。それでも減収幅が大きすぎて赤字となるのです。

 

資金繰り

大幅な赤字となるANAの資金繰りは大丈夫なのでしょうか。

ANAの場合は、会計上の赤字(資産価格の調整等)というよりは、単純に収入が急減したことによる赤字です。赤字=キャッシュ流出となるはずです。

2020年3月末から2020年9月末までの6ヵ月間におけるANAのキャッシュの流れは以下の通りです。

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(出所 ANAホールディングス㈱ 説明会資料「2021年3月期 第2四半期決算」)

2020年3月末時点では現預金+有価証券(流動資産)で2,386億円ありましたが、2020年9月末時点ではキャッシュが4,522億円となっており、3月末時点よりもキャッシュポジションは改善しています。

しかし、上図の財務キャッシュフローを見ると分かる通り4,695億円を調達しています。短期借入増999億円、長期借入4,357億円、長期借入返済▲426億円、社債償還▲200億円等となっています。

一方で、本業から得られる営業キャッシュフローは▲1,909億円となり、また3ヶ月超の定期・譲渡性預金の増減を除く投資キャッシュフローは▲643億円となりました。営業・投資キャッシュフローの合計額は▲2,552億円となります。

2020年3月末時点の2,386億円のままだと上記資金流出額である▲2,552億円はカバーできませんので、余裕をもって4,695億円の資金を外部から調達してきました。ANAは外部からの資金調達によって資金繰り破綻を回避したのです。

これが上半期のANAの資金繰りの状態です。

 

 

今後のANA

ANAの2020年7~9月の1ヵ月当たり平均現金流出額は約266億円程度(7~9月の営業・投資キャッシュフロー▲799億円÷3ヵ月)となっています。

2020年9月末時点の現預金残高4,522億円÷266億円=17ヵ月です。7~9月は一時的な現金流出抑制(先送り)もあるでしょうが、すぐに資金が尽きるというレベルにはないものと思われます。

そして、ANAは、融資枠として既存の1,500億円に加えて新たに3,500億円のコミットメントライン契約を締結しています。更に、2020年10月末には4,000億円の劣後ローンを借り入れます。

上記2020年9月末時点の4,522億円+劣後ローン4,000億円=8,522億円となり、さらに5,000億円の借入を行うことができます。

これだけ対応していれば、今年度中に資金が尽きることはないでしょう。

しかし、外部からの資金調達がいつまでも続くことはありません。

2020年3月末時点の有利子負債残高は8,428億円でしたが、2020年9月末には13,155億円まで+4,726億円となっています。わずか6ヵ月で有利子負債の残高が5割増加したのです。そして、劣後ローンとは、資本性の資金と説明はされますが、あくまで借入であることには変わりありません。その劣後ローンが2020年10月末で有利子負債残高に加算されますので、2020年10月末時点では17,155億円の有利子負債残高となります。これは2020年3月末から比べると有利子負債残高が2倍になったことになります。さすがに今後も銀行がお金を貸すかは不透明だと思われます。

そのためANAはキャッシュの流出を抑えることをまずは優先し、さらにキャッシュを獲得することを目指していくことになります(当たり前ですが)。

しかし、アフターコロナの局面でも、業務渡航を中心とする「高単価需要(ビジネス客)」は完全には戻らないでしょう。ANAもそのように予想しています。世界はコロナ禍においてWebで面談や会議を行うことができることを確りと認識しました。コスト削減という観点で、そして時間の効率化、感染リスク回避といった観点でビジネス需要は簡単には戻りません。低価格志向で、接触の少ないサービスが好まれる可能性は高いと思われます。

すなわち、ANAには苦手な分野に旅客需要はあるのです。

ANAは、コストを削減し、LCCの第3ブランド立ち上げ、顧客データ資産プラットフォーム事業を収益化する等の「航空事業をコアとしたANAグループ・ビジネスモデル」を作り上げようとしています。この方向性が正しいのか否かは筆者には分かりません。しかし、現段階ではこれ以上の計画は出せないでしょう。

ANAが生き残るには、ヒトが動く(移動する)世界が必要です。ヒトが移動するからこそ、ANAのビジネスは成り立ちます。ヒトの移動がある程度回復するならば、ANAは生き残るでしょう。逆に何年もグローバルにヒトが移動できないのであればANAの生き残りは難しいでしょう(もちろんJALもです)。