アパレル大手の三陽商会の業績苦戦が続いています。
コロナ禍の中で、百貨店や商業モールは休業となり、売上が急減したアパレル業界は、レナウンが破綻しています。緊急事態宣言が解除されたとしても、コロナの影響が続くと他アパレルも存続できないところが出てくるでしょう。
また、アフターコロナの世界では、リモートワーク・在宅勤務が増加することが想定されます。クールビズの普及、ビジネス服のカジュアル化で、一部のアパレル企業が破綻・業績悪化に陥ったように、人の行動が変わるのです。
今回は、未曽有の危機に陥ったアパレル業界において、その中でも業績が苦戦している三陽商会の状況を確認してみたいと思います。
かつてはバーバリー(Burberry)のライセンスを有し、国内有数のアパレルにおける優良企業であった三陽商会は、現在どのような状況なのでしょうか。
三陽商会の2020年2月期決算
では、三陽商会の2020年2月期決算の状況を見ていきましょう。
<売上高>
<営業利益>
(出所 三陽商会Webサイト/財務ハイライト)
三陽商会は1970年の契約締結後、45年間に渡って人気を集めた英バーバリーのブランド使用を2015年6月に失いました。
その後、業績は赤字が続いています。
尚、2020年2月期は14ヵ月の変則決算となっています。
(出所 三陽商会「第77期決算説明会資料」)
2020年2月期業績は、売上が計画通りにいかず、売上総利益(粗利益)が落ち、販管費は計画と変わらずとなり、やはり赤字でした。
(出所 三陽商会「第77期決算説明会資料」)
2020年2月期は、1月~9月までは業績が堅調でしたが、10月以降は台風、消費増税や暖冬の影響で業績が苦戦したとしています。
尚、三陽商会の販売チャネルは百貨店が6割を超えています。
EC全体では市場トレンドを上回る前年比125%を達成し、自社ECはブランドECサイト 立ち上げにより前年比129%の成長を遂げたとしていますが、EC・通販での売り上げは全体の1割強でしかありません。
(出所 三陽商会「第77期決算説明会資料」)
販管費の状況としては、希望退職で人件費を減少させましたが、新ブランド立上・出店・販促に資金を投入し、結果として販管費はほぼ横ばいです。
以上の通り、2020年2月期決算は赤字となっています。
三陽商会のB/Sから見た資金繰り
では、ここまで赤字を継続している三陽商会は資金繰り面で大丈夫なのでしょうか。
まずは資産と負債の状況を見ていきましょう。
(出所 三陽商会「第77期決算説明会資料」)
三陽商会の2020年2月末の現預金は前期末と比べて▲51億円の129億円となっています。
受取手形・売掛金が▲24億円となっている一方で、棚卸資産は141億円で前期と比べて▲5億円しか減少していません。
また投資有価証券が▲50億円となっており、苦しい業績状況の中、投資有価証券のキャッシュ化を図ったことが伺われます(時価下落の影響も一部あるでしょうがコロナショックよりは前の決算期末ですので、大きな影響はないモノと想定します)。
負債側では手形・買掛金が▲20億円となっています。受取手形・売掛金よりは減少していませんので、売上が苦戦していることが見て取れます。
また借入金は長期借入金が減少し、短期借入金が80円増加しています。これは長期借入金の返済期日がこの1年以内に到来するので短期借入金として表記されているものと思われます。実態は変わっていませんが、借金の期日到来が近くなったということです。
全体を総括すると、三陽商会は売上減少・赤字の影響が資産・負債に表れてきています。
受取手形・売掛金が販売不振で減少し(三陽商会は決算期変更による季節性の変動としていますので、その要因もあるでしょう)、一方で商品在庫の額は変わりません。
キャッシュ化しやすい投資有価証券も減少しています。投資有価証券を売却したにもかかわらず、赤字のため現預金は減少しています。
これは業績不振企業に典型的なバランスシートの動きです。
販売不振で商品在庫の水準は変わらず、キャッシュが足りなくなり、売りやすいモノから売るのです。有価証券が売れなくなると、次に売るのは間違いなく不動産です。
これからの三陽商会
では、これからの三陽商会はどのような動きをするのでしょうか。
三陽商会は、2021年2月期において、コロナ影響を織り込んだシミュレーションを公表しています。
(出所 三陽商会「第77期決算説明会資料」)
このSIM1(シミュレーション1)の見通しは、新型コロナウイルスの影響が上期3~8月継続する前提となります。
売上高前年比は、3月55%(実績)、4~5月25%、6月50%、 7~8月70%、下期9月以降は平常時計画通りとしています。
SIM2は、新型コロナウイルスの影響が1年間継続する前提 です。 売上高前年比は、3月55%(実績)、4~5月25%、6月50%、 7~2月70%としています。
いずれの計画であったとしても販管費の絶対額を大きく減少させることで業績立て直しを図るということが中心となります。
但し、SIM1では粗利益率が2020年2月期よりも改善しています。コロナ影響が残る中で、利益率を改善させることが出来るかは非常にハードルが高いと言えそうです。
以下は三陽商会が発表した再生プランのうち、販管費と人事制度改革の項目です。業績不振に陥ると企業は同じような動きをします。特に人事制度に年功型賃金を無くし、業績連動評価という名の給与削減策を入れるところなどは、他社のコピーなのではないかと思うぐらいです。
(出所 三陽商会「第77期決算説明会資料」)
尚、三陽商会は、資金繰り懸念、あえて言えば倒産懸念を持たれていることを十分に認識しているのでしょう。以下のように資金繰りに問題がないことを決算説明でもアピールしています。
(出所 三陽商会「第77期決算説明会資料」)
このような内容を説明するということは、逆説的ですがマーケットから大きな懸念を持たれているということです。
所見
三陽商会は40億円の資金調達と仕入抑制・販管費削減等の30億円、不動産等の資産流動化での60億円で、1年間コロナの影響が継続しても問題ないとしています。上記の仕入抑制の30億円は販管費の削減だと考えると、以下のような試算ができます。
- 2020年2月末時点の129億円の現預金
- 合計100億円のキャッシュ増加要因(+40億円の借入、+60億円の不動産売却)
- 販管費265億円が全てキャッシュアウトする(仮定)
- 129億円+100億円-265億円=▲36億円(①)
- 2020年2月期売上高688億円×25%(4~5月の前年比売上高想定)=172億円
- 172億円×40%(粗利率)=69億円(②)
- 69億円(②)ー36億円(①)=+33億円
上記は筆者の頭の中の簡単なシミュレーションを文字にしただけです。
簡単に言えば、三陽商会は1年間では倒産する可能性は低いと思われます。
4~5月の売上水準が1年間継続したとしても、不動産(銀座?)が売却できれば問題ありません。銀座の物件は高値を欲張らなければ、キャッシュ化は可能でしょう。また、投資有価証券はまだキャッシュ化できる余地があります。
しかし、このような経営不振企業の常ですが、資金化のための「売るモノ」が無くなってきています。