フジテレビを傘下におさめるフジ・メディア・ホールディングス(フジHD)は、2022年3月期の純利益が前期比2.2倍の218億円になる見通しだと発表しました。従来予想の174億円(前期比72.1%増)から上方修正しています。
売上高は前期比横ばいの5,201億円(従来予想は前期比2%減の5,097億円)、営業利益は同69%増の275億円(従来予想は同32.7%増の216億円)、経常利益は同58.8%増の354億円(従来予想は同13%増の252億円)と、それぞれ予想を引き上げました。
広告市場がコロナ禍から回復傾向にあるほか、不動産市況が堅調なことを背景に、足元の事業が堅調なことが業績予想の上方修正の要因としています。
少し薄日が差してきたフジHDの2022年3月期中間決算について、今回は確認していきたいと思います。
決算概要
では、フジHDの2022年3月期第2四半期(2021年4~9月期)決算の概要を確認しましょう。以下のスライドは、決算概要数値です。
(出所 フジHD「2022年3月期第2四半期決算説明資料」)
売上高こそ減収となっていますが、利益が急増しています。
通期の業績予想(従前)に対する進捗率を見ても、コロナ新規感染者数が減少し、人の流れが戻ってきている中で広告も回復してくることが容易に予想されることから、業績が強含みであることは間違いないでしょう。
フジHDは何の会社なのか
全体としてのフジHDの業績は回復傾向にあります。
但し、フジHDのセグメント(事業)別の業績を見ていくと少し違う景色が見えます。
(出所 フジHD「2022年3月期第2四半期決算説明資料」)
このスライドで分かるように、メディア・コンテンツ事業は上半期では減収となっています。ただし、営業利益が倍増していますので、これは収入が増えない中でコストを削減したことが容易に想像できます。
そして、メディア・コンテンツ事業以上に増収・利益上昇させたのが都市開発・観光事業です。
フジHDはマスメディア企業と認識されていますが、2021年4~9月で見ると、メディア・コンテンツ事業の営業利益は62億円であるのに対して、都市開発・観光事業の営業利益は57億円です。都市開発・観光事業というのは、簡単に言えば不動産業です。
フジHDの稼ぎの半分は不動産業なのです。
フジテレビは儲かっているのか
更にフジHD傘下の最大企業はフジテレビ(正確にはフジテレビジョン)です。
以下はメディア・コンテンツ事業の会社別業績です。
(出所 フジHD「2022年3月期第2四半期決算説明資料」)
フジテレビの売上高は、メディア・コンテンツ事業の約半分を占めています。
ところが、フジテレビの営業利益は11億円弱です。
これはフジテレビの売上高の6%程度しかないBSフジの営業利益とほぼ同じです。
フジテレビの利益率の低さは既に異常なレベルに来ています。
次に都市開発・観光事業の会社別業績です。
(出所 フジHD「2022年3月期第2四半期決算説明資料」)
サンケイビルは売上高ではフジテレビの4分の1程度です。しかし、利益で見ると6倍強に達しています。
フジHDにおける稼ぎ頭はフジテレビではなく、サンケイビルです。
通期予想
では、2022年3月期の通期業績予想はどのようになっているのでしょうか。
(出所 フジHD「2022年3月期第2四半期決算説明資料」)
このスライドのように、業績は従前予想から上方修正されました。そして、その要因として地上波テレビ広告収入については、スポット広告が大幅に増加を予想されています。コロナ禍が落ち着き、企業が広告を増加させていることが分かります。
2022年3月期のセグメント別業績予想は以下です。
(出所 フジHD「2022年3月期第2四半期決算説明資料」)
メディア・コンテンツ事業がかなり強含んでいることが分かります。ただし、同事業では利益は大幅に増加しますが、前回予想比では売上高を下方修正しています。スポット広告は強くとも、ネットタイム・ローカルタイム広告が弱いというところでしょう。
今後のフジHD
フジHDの中間決算実績および業績予想を見てきました。
全般的に言えば、不動産で半分稼いでいること、フジテレビの業績は上期においては貢献が低いこと、ただし、下期には盛り返すと予想されていると言えます、
但し、フジHDの設備投資計画を見ると、フジHDが進んでいく今後の方向性が分かります。
以下はフジHDの設備投資計画と減価償却費です。
(出所 フジHD「2022年3月期第2四半期決算説明資料」)
これを見ると驚くのではないでしょうか。
2022年3月期も2023年3月期も、フジテレビの設備投資計画と都市開発・観光事業への投資計画には大きな差があります。フジテレビの設備投資が173億円に対して、都市開発・観光事業の設備投資が709億円ですから、都市開発・観光事業=不動産事業への投資をフジテレビへの投資の4倍行うということをフジHDは表明している訳です。
減価償却費で見ると、フジテレビが都市開発・観光事業を上回っていますので、過去においてはフジHDはフジテレビに設備投資を重点に行い、都市開発・観光事業への設備投資はフジテレビを下回っていたことが分かります。
設備投資額は、企業が注力すべきと考えている分野が何かを知る一つの指標になります。フジHDの動きは、間違いなく「メディア企業を続けながらも、不動産業を強化します」と宣言しているのに等しいのです。
フジテレビを中心としていたフジHDが、メディア企業から不動産企業に移行しつつある状況を我々は見ているのかもしれません。