銀行員のための教科書

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メガバンクの店舗削減計画を簡単にまとめてみる

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メガバンクが店舗を削減すると相次いで発表しています。

メガバンクの来店者数は大幅に減少しています。インターネットバンキングの普及や、コンビニでの公共料金支払いの充実により、我々も銀行の店舗に行くことはほとんどなくなったのではないでしょうか。

そして、メガバンクは(そしてほとんど全ての銀行は)、低金利環境下で収益減少に苦しんでいます。固定費の削減は不可避です。

今回は、メガバンクが2020年3月期決算と同時に発表した店舗削減策について確認したいと思います。

 

報道内容

まず、全体感をつかむために直近の日経新聞の記事を引用します。

三菱UFJ銀、23年度までに店舗4割削減 17年度比 
2020/5/20 日経新聞

三菱UFJフィナンシャル・グループは20日、2023年度までに三菱UFJ銀行の店舗数を17年度末比で約200店舗減らす方針を示した。19年に公表した計画では17年度末の515店のうち35%にあたる180店を減らす計画だったが、40%減に変更した。営業経費が高止まりしているなかで、店舗業務の削減により運営コストを引き下げる。
窓口数や取扱事務を減らした軽量店舗は積み増す。従来は23年度までに70~100店としていたが、130~140店とする。来店客自身が操作する専用端末やテレビ電話などを通じた手続きを主体とする。操作などを案内する係は置くものの、店に必要な行員数は減る。

インターネットバンキングやATMを通じた取引の増加を受け、新しい店頭サービスの浸透を図る。一方、全ての店頭取引を担う従来型の店舗は約170店とする。従来は約250店を計画していた。三井住友銀行も22年度までに4分の3にあたる300店舗を軽量店に置き換えると公表した。 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59337230Q0A520C2EE9000/

この記事にあるようにメガバンクは店舗数の削減のみならず、人手をかけない店舗運営を志向しています。

それでは、各メガバンクの計画を確認しましょう。

 

MUFGの計画

まずは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)です。

2017年度対比で人員は▲6,000名、▲40%の店舗削減計画を発表しています。

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(出所 三菱UFJフィナンシャル・グループ「2019年度決算 投資家説明会」 2020年5月20日)

 MUFGの資料説明は分かりやすく、店頭での業務取扱の割合が減少してきていること、そしてネット・アプリに移行していっていることが分かります。

但し、住所変更とキャッシュカードの再発行については、課題を抱えているようです。

人員は自然減で対応するようですが、そもそも2017年比であり既にかなりの数が減少しているはずです。また、現在はいわゆる「バブル世代」という大量採用世代が出向・転籍となる時期です。何もしなくとも、採用数を絞れば、かなり人員は減少します。そのため、業績が改善しなければ、踏み込み不足という指摘を投資家から受ける可能性はあるでしょう。

 

SMFGの計画

三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の計画は以下となります。

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(出所 三井住友フィナンシャルグループ「2019年度決算 投資家説明会 2020年5月19日」)

個人(リテール)業務の今後の展開について分かりやすいのはSMFGでしょう。

拠点を減らすというよりは、全体の4分の3を軽量店に置き換え、個人のコンサルティングに軸足を置いていく、としています。

要は、余計な事務は店頭では受けず、事務要員も削減し、個人の資産運用等の相談に乗るビジネスにしていくと表明しています。

業務量は2,200名分減少し、国内では6,500名の人員削減を3年でやる、としています。MUFGよりも元の人員数が少ない分、スピード感も含めて踏み込んだ印象です。

  

みずほFGの場合

みずほフィナンシャルグループの計画は以下の通りです。

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(出所 みずほフィナンシャルグループ「2019年度決算 会社説明会 2020年5月20日」)

みずほは今まで約500の拠点を400拠点へ削減する方針を発表していましたが、それを上積みすると発表しています。

みずほの戦略は、恐らくSMFGよりは周回遅れで、店頭事務をまずはセンターに集約化していっています。SMFGのような個人コンサルティングに特化した軽量店を目指すような改革は、その先でしょう。

どうしてもみずほFGの戦略はSMFGと比べてスピード感が遅いと評価されますが、店舗戦略も同様ではないでしょうか。

 

所見

各メガバンクが発表した店舗削減計画は、正しい方向性ではないかと筆者は思います。

但し、この改革も過渡的なものにならざるを得ないでしょう。

大量の預金と金融商品等を保有する高齢者は、今は銀行の良いお客様でありメインターゲットとなるお客様でしょう。しかし、人は永遠には生きられません。そして相続を受けるのは主に大都市に住む子供たちです(よって、メガバンクよりも地方を地盤とする地銀の方が大きな影響を受けます)。

これから資産を持つ・受け継ぐ世代はインターネット、デジタルに親しんだ世代です。例えば、対面型の証券会社ではなく、冷静にコストを比較してインターネット証券を使う世代なのです。

銀行の店頭に、それも9:00~15:00までの間に、多大な時間を拘束されに来る顧客は減少していくでしょう。

ただ、現時点においては、銀行の強みは現金の取り扱いがあることだと筆者は認識しています(特に地銀ですが)。まだリアルの店舗に意味はあるのです。

これからの銀行が個人(リテール)分野で目指す方向性は、究極的にはスマホのアプリ等を入り口としたインターネットバンキングへの移行と、圧倒的なコスト競争力の獲得です。知名度とマーケティングとアプリの使いやすさが勝負を分けます。

この点ではメガバンクの方が知名度がある分、地銀よりは有利です(あくまで既存の銀行同士の話でしかありませんが)。

イメージ戦略もあるので、ある程度の店舗は残す必要はあるでしょうが、その業務のほとんどをネットに移行していかなければ銀行は他業態、フィンテック企業等とは戦えない時代が来ます。

誰が、高い手数料を銀行に支払って、投資信託等の金融商品を店頭で買うでしょうか。そんなに個人は暇ではなく、金融知識に乏しい(少しネット検索すればアドバイスは山ほどあります)訳でもありません。

銀行員が個人に本当に役立つアドバイスが出来るかも微妙です。銀行員は、基本的には単なる投資商品の売り子と化しているのではないかと筆者は思います。

まだまだ銀行の店舗戦略は紆余曲折をたどるでしょう。