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コロナ禍の中、正社員を解雇する「整理解雇の四要件」を確認しておく

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コロナ禍の中、雇用に影響が広がっています。

総務省の発表では2020年3月の宿泊・飲食サービス業の就業者は14万人減となっています。

このまま外出自粛、営業自粛が続けば、更に就業者数が減少することは避けられません。また、緊急事態宣言が解除されてもコロナ前に戻るのは、長い時間がかかるかもしれません。

中部圏社会経済研究所(中部社研は失業者数が標準ケースで185万人、リスクケースで300万人以上増加するとの推計を発表しました。

そこで、改めて疑問が沸きます。

日本の社会は「正社員の雇用は守られている」とされていますが、それは本当でしょうか。

今回は、正社員を解雇することが可能なのかについて見ていきましょう。

 

中部社研の推計

厚生労働省は5月21日の参院厚労委員会で、新型コロナウイルス関連の解雇や雇い止めが5月20日時点で9,569人に上ることを明らかにしたと報道されています。政府が緊急事態宣言を発令した2020年4月から、企業などの休業に伴い職を失う人が急増し、1万人に迫っています。

そのような中で中部社研はコロナ影響による失業者が標準シナリオで185万人、リスクシナリオで300万人になるとの推計を発表しています。

中部社研の推計は以下の記事をご参照下さい(筆者の別ブログです)。 

www.doyoulike-banker.site

 

解雇についての法律

では、日本では簡単に解雇ができるのでしょうか。

終身雇用という言葉はどうなったのでしょうか。

労働契約法16条は、解雇は客観的合理的理由と社会通念上の相当性を欠く場合には、権利を濫用したものとして無効とする、と規定しています。

この規定は、判例法理(簡単に言えば裁判の事例)の形で存在していた解雇権濫用法理と呼ばれる解雇制限法理が明文化されたものです。

【解雇権濫用の判断枠組み】

労働契約法16条の下で解雇が有効になるためには、解雇について「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」の存在が必要になります。

労働契約法16条は、それまで判例法理の形で存在していた解雇権濫用法理をそのまま条文化したものであるため、これらの文言の解釈に当たっては、解雇権濫用法理に関する従前の判例法理が先例としての意義を有し続けています。

法律の条文だけでは具体性がありませんので、次に判例によって積み重ねられた先例を確認しましょう。

【解雇の「客観的合理的理由」】

解雇が認められる「客観的合理的理由」とはどのようなものでしょうか。判例で成立してきた客観的合理的理由は以下の通りとなります。

 

  • 労働者の労務提供の不能による解雇(簡単に言えば、怪我や病気により働けないこと)
  • 能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如による解雇(ただし、会社側は繰り返し改善のための指導等を行う必要あり)
  • 職場規律違反、職務懈怠による解雇(一気に解雇ではなく、降格のように段階を経るべき等の観点もあり)
  • 経営上の必要性による解雇
  • ユニオンショップ協定による解雇(労働組合からの脱退、ただし、制限あり)

 

これだけでも、現在の日本では、会社が従業員を解雇するのは法律・判例上難しいことが分かるでしょう。

コロナ禍の中での解雇という観点では、上記の客観的理由のうち「経営上の必要性による解雇」に該当するか否かがポイントになります。

【解雇の「社会通念上の相当性」】
さらに、解雇には「社会通念上の相当性」が必要となります。この判断においては、当該事実関係の下で労働者を解雇することが過酷に過ぎないか等の点が考慮されます。

解雇という処分をする事案の内容・程度が厳し過ぎないか、他の一般的な事案や処分と比較しても、充分な妥当性があるか、ということも判断に入るということです。

ここまでみてきた通り、解雇を行うのは相当なハードルがあることが分かるのではないでしょうか。

以下ではさらに上記の経営上の必要性による解雇、すなわち整理解雇についてもみていきます。

 

整理解雇の四要件

コロナ禍の中で売上が急減し、資金繰りが厳しい場合等のように、人員のリストラがどうしても必要になる場合もあるでしょう。

しかし、このような整理解雇でも4つの要件が必要とされており、安易な解雇は厳しく規制されています。

①人員整理の必要性(特定の事業部門の閉鎖の必要性等)
②解雇回避努力義務の履行(希望退職者の募集、役員報酬のカット、出向、配置転換、一時帰休の実施など、解雇を回避するためにあらゆる努力を尽くしていること等)
③被解雇者選定の合理性(選定が客観的・合理的であること等)
④手続の妥当性(労使協議があること等)

この四要件をみると、整理解雇を行うには、会社存続の危機がある等の相当な理由があり、加えて、様々な方策を行った後でなければ認められないことになります。

コロナ禍は確かに会社存続の危機でしょう。

それでも、政府は雇用調整助成金等で雇用を維持しようとしています。

会社は解雇を回避するためにあらゆる努力を尽くす必要があります。

これから、勤めている会社の整理解雇が始まることが万が一にもあるならば、上記整理解雇の四要件を経営に突き付けることも必要ではないでしょうか。何事もあきらめないことは必要だと筆者は考えています。

 

所見

会社の整理解雇は、まさにコロナ禍のような時に認められます。

まさに会社存続の危機です。

しかし、そのような時だったとしても上記の整理解雇四要件は重要です。

会社にとってみれば、整理解雇の必要性があり、解雇の回避を行ったもののそれでも解雇せざるを得なくなり、解雇者の選定は合理的で、労使協議等の手続がしっかりと果たされていなければ、整理解雇は認められません。

この四要件を我々個人は忘れないようにしたいと思います。