新型コロナウィルス感染症拡大防止への対応として、上場企業の株主総会への株主の来場禁止が容認されると報道されています。
株主総会という場に、株式会社の所有者である株主が来場を禁止されるということは、本当に問題ないのでしょうか。
非常事態とは言え、少し冷静に考察してみたいと思います。
報道内容
まずは報道内容を確認してみましょう。
株主総会「来場禁止」も容認 経産省が指針
2020/05/11 日経新聞新型コロナウイルスの感染拡大で企業決算のとりまとめが遅れていることを受け株主総会に株主の来場を禁止することができるとの指針を経済産業省がまとめた。招集通知などに記載し、議決権を事前に行使するよう促すことを提案する。
2020年3月期決算の企業の株主総会が6月末に集中して開催されるのを前に、経産省がQ&Aを公表した。企業が「株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合」は、招集通知や自社のウェブサイトなどに記載し、株主に理解を求めるよう促した。
これまでも「株主が出席していなくても開催が可能」としていたが、表現を強めた。出席人数を絞っても、密集する状況が生まれると判断した。
企業には事前の議決権行使を案内したり、インターネット上で出席扱いにする措置を設けたりすることを促す。株主の来場を一切禁止しても、株主総会の会場を現実の場に設定する必要は残る。(以下略)
これが直近の報道内容です。
経済産業省のQ&A
では、経済産業省のQ&Aに実際にどのような説明が記載されているのか、確認しましょう。
※令和2年4月28日、お問い合わせを踏まえ、Q2回答の第3パラグラフを追加する修正を行いました。 Q2.会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催するこ とは可能ですか。(A)可能です。 Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。
現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます。
なお、株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。(出所 経済産業省Webサイト https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kabunushi_sokai_qa.pdf)
上記の強調したところが今回の追加部分です。
筆者としては、この文言が「株主総会への株主の出席を禁止」しても良いとしているようには解釈できません。
日経新聞では、他の情報ソースもあるのでしょうが、経済産業省のQ&Aをもって、株主総会への株主来場禁止を可能としていると報道しています。
所見
チッソ株主総会決議取消事件最高裁判決(最判昭和58.6.7)という判決があります。
本判決では、予想外に多数の株主が総会に出席すべく参集しており、このような場合になされる入場制限自体、及び一部の株主が入場不可能である状況下の株主総会において、いかなる措置がなされるべきかが問題となりました。
結局、会社が株主に対して会場に入場させず、株主総会に出席させないことは、通常は株主総会の招集手続または決議方法の瑕疵となり、総会の取消事由になるものと思われます。(ご参考 判例研究 http://ypir.lib.yamaguchi-u.ac.jp/sc/metadata/1060)
今回の株主総会への株主の出席(来場)禁止は、この判決との兼ね合いで問題があるのではないかと筆者は考えます。
その観点でも、日経新聞の記事は、表現として誤解を招くものと思われます。
経産省は、本来的には「株主の来場がない株主総会を開催したいと考えているので、株主は理解して欲しい」との案内をすることは問題ないと、示しただけではないでしょうか。どこにも来場禁止をOKとするとは記載されていません。
また、会社法上、株主総会の場所を定めなければならないとされており、現行の会社法下においては解釈上はインターネットが場所に含まれないとされているため、株主総会の会場は株主が来なかったとしてもリアルにセットしなければなりません。
チッソ株主総会決議取消事件を勘案すると、株主総会の会場に株主が来場した際には、可能な限り議決権行使を受け付ける対応した方が良いでしょう。手続きの瑕疵で株主総会の決議が取り消されかねません。コロナ禍の状況であろうとも、株主の権利の行使を妨げるのは、かなり問題があるものと筆者は考えます。