銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

JR北海道は持続不可能であることを示した2020年3月期決算

f:id:naoto0211:20200512190740j:plain

新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、JR各社の業績が悪いと報道されています。

JRの中で最も業績が悪いのは北海道旅客鉄道(JR北海道)です。

(内容に救いが無いのはJR四国の方かもしれませんが、絶対額ではJR北海道が厳しい決算状況です)

今回は、JR北海道の業況について簡単に確認してみましょう。

 

JR北海道の業績

JR北海道の業績については、まず単体決算で確認しましょう。

f:id:naoto0211:20200512164635j:plain

f:id:naoto0211:20200512165201j:plain

(出所 北海道旅客鉄道「JR北海道グループ2019年度決算」)

JR北海道の単独決算は、非常に厳しいの一言に尽きます。

875億円の収入に対して、コストは1,397億円かかっています。営業利益で▲521億円と規模に比して巨額の赤字を計上しています。

この本業赤字を国から注入してもらった経営安定基金6,822億円(2020年3月末時点)の運用益でカバーするというのが、民営化当初のJR北海道の「ビジネスモデル」でした。

しかし、マイナス金利政策導入以降は、基金の運用も難しくなり、結果として本業の赤字はカバーできなくなっています。

単体決算では、特別利益で最終黒字化していますが、これは2020年3月期から始まった国や北海道、関係自治体によるJR北への財政支援などで、特別利益186億円を計上したことが寄与したものです。

JR北海道は本業は非常に厳しいですが、一方で関連事業は相応に貢献しています。

f:id:naoto0211:20200512165635j:plain

(出所 北海道旅客鉄道「JR北海道グループ2019年度決算」)

このように駅ビルやホテル業は相応の利益を確保しています。

コロナ禍の中で特にホテル業は暫く苦戦を強いられるでしょうが、観光地である北海道だけに、中長期的に見れば収益を確保できるでしょう。

ここが同じ非上場のJRであるJR四国とは異なるところです(JR四国は他の事業が全く育っていません)。

f:id:naoto0211:20200512171552j:plain

(出所 北海道旅客鉄道「JR北海道グループ2019年度決算」)

JR北海道の資金繰りは綱渡りになっていく見込みです。

JR北海道は連結で1,506億円の借入があり、このうち1,403億円が外部からの借入です。

但し、借入のうち1,256億円は国からの無利子の借入です。手厚いバックアップがここにもあります。

2020年3月末の現預金残高は186億円ありますが、心もとない水準です。

2020年3月期では本業で稼いだキャッシュ(営業CF)は+67億円でした。

但し、設備修繕等の投資CFは▲322億円です。

2021年3月期に同じような資金繰りが続くとすれば、借入を行わなければ資金がショートします。コロナの影響もあるため、実際には営業CFが更に減少するでしょう(マイナスかもしれません)。

国や地方自治体の支援がなければ、低金利環境下ではJR北海道のビジネスは維持できないことは明白です。

 

所見

JR北海道は民間企業としては、持続不可能と思われます。

北海道自体も少子化により人口は減っていくことは間違いありません。

海外からの観光客が増加すれば、沿線人口の減少の影響を緩和することは可能かもしれませんが、通勤・通学の鉄道網をどうするかという課題の根本的な解決にはなり得ません。

以下はJR北海道の長期的な業績推移です。

f:id:naoto0211:20200512175751j:plain

(出所 北海道旅客鉄道「JR北海道グループ2019年度決算」)

JR北海道は民営化以降、何とか赤字を減らそうとしてきましたが、足元では経常利益段階でも赤字となっています。

今の形でのJR北海道の存続・持続は厳しいと言わざるを得ないでしょう。

「民間」の「ビジネス」として鉄道網を考えるのか、それとも「公共インフラ」としてとらえ国民(道民)の費用負担で鉄道網の維持を考えるのか、その岐路に来ているのではないでしょうか。

筆者のような財務屋の経験則でしかありませんが、赤字路線は国や地方自治体が補填しても結局は廃止されてきました。一時的に公的負担で持ちこたえたとしても、維持できるだけの需要がなければ、結局は支援の意味が無いということになります。

JR北海道は、鉄道で黒字路線はありません。以下は路線別の収支についての参考資料です。

f:id:naoto0211:20200512184248j:plain

(出所 北海道旅客鉄道「平成29年度 線区別の収支とご利用状況について」)

2020年3月期の決算で更に浮き彫りになったことは、JR北海道が国の抜本的な支援がない限り、存続は難しいということです。

北海道の鉄道網をビジネスとするのか、それとも公共インフラとするのか、そろそろジャッジが必要になってくるものと思います。