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フジテレビは不動産会社になろうとしている~2020年3月期決算~

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フジテレビを傘下に持つフジ・メディア・ホールディングスが2020年3月期の決算を発表しました。

テレビ業界の苦戦が続いていますが、この決算は業績不振業種に典型的な決算内容となっています。そして、フジテレビが、もしくはフジ・メディア・ホールディングスがどのように事業を展開していこうとしているのかが、はっきりと見えてきた決算でした。

フジ・メディア・ホールディングスの決算について今回は見ていくことにしましょう。

 

業績内容

まず、フジ・メディア・ホールディングスの業績の全体像を確認しましょう。

以下がセグメント別の売上と利益です。

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(出所 フジ・メディア・ホールディングス「2020年3月期決算説明資料」)
売上高は▲5.6%、営業利益は▲24.1%と減収減益となりました。

セグメントで見ると、メディア・コンテンツ事業が▲2.1%の減収、都市開発・観光事業が▲19.4%の減収となっています。

尚、同社はメディア・コンテンツ事業売上高と都市開発・観光事業売上高の比率は5:1程度ですが、営業利益ベースでの比率は1:1となっています。

すなわち、フジ・メディア・ホールディングスという企業は、テレビ等のメディア事業が主力でありながらも、利益面では都市開発・観光事業といういわゆる不動産事業の割合が大きいということになります。

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(出所 フジ・メディア・ホールディングス「2020年3月期決算説明資料」)

メディア・コンテンツ事業のセグメントでは、フジテレビが売上と利益の半分を占めることになります。

フジ・メディア・ホールディングスの営業利益全体においてフジテレビは4分の1を占めることになります。

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(出所 フジ・メディア・ホールディングス「2020年3月期決算説明資料」)

フジテレビ単体では売上高は▲4.6%となっています(上表には記載なし)。

そのうち放送事業は▲2.5%となっています。

電通「2019年 日本の広告費」によると地上波テレビの広告費は1兆7,345億円(前年比▲2.8%)となっています。フジテレビの放送事業の減収要因のほとんどは、日本全体のテレビ広告費の減少によって説明できることになります(同業他社に負けている訳ではないということです)。

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(出所 フジ・メディア・ホールディングス「2020年3月期決算説明資料」)

フジ・メディア・ホールディングスの傘下企業で最も利益を上げているのは不動産業を営むサンケイビルです。フジテレビではありません。

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(出所 フジ・メディア・ホールディングス「2020年3月期決算説明資料」)

フジ・メディア・ホールディングスにおいては、フジテレビの設備投資額が、都市開発・観光事業の設備投資額の3分の1程度となっています。

今後の計画も同様であり、フジ・メディア・ホールディングスは、設備投資の面でも不動産業へ傾斜していくことを示しています。

 

テレビというメディアの特性

国内のインターネット広告費は、テレビメディア広告費を超え、2019年に初めて2兆円超えを果たしています。テレビというメディアの凋落が言われて久しいのですが、まさにその通りの結果となりました。テレビというメディアは衰退しているのは間違いありません。

しかし、筆者は、テレビというメディアは、まだまだ生き残る可能性があるのではないかと考えています。

テレビというメディアは、視聴者にとっては受け身なメディアです。ある意味ではテレビの電源を入れ、チャンネルを決めれば、何もしなくても良いのです。「ながら」見ができます。端的に言えば「楽」です。

一方で、インターネットというのは、基本的には能動的にコンテンツを探しに行きます。テレビよりも視聴者(利用者)は自ら動かなければなりません。少なくともテレビよりは疲れます。

このような「受け身」という特性がテレビというメディアにはあるが故に、すなわち、非常に「楽な」メディアであるからこそ、テレビは生き残る可能性があるのではないかと筆者は考えています。

 

所見

フジ・メディア・ホールディングスの決算を見ている限り、同社は不動産業へシフトしていく経営計画を立てています。これは同社がどのように説明しようと、資金の使い方と利益の計上額を見れば明白です。

この不動産業へのシフトは構造不況業種に多い事例です。

繊維業や新聞社等の歴史ある企業で、本業が不振に陥った企業は、不動産業を営み会社を存続させてきたケースが多々あります。

まさにフジテレビも同様に不動産業の割合を強めていこうとしています。会社存続ということを重視するのであれば、この方向性自体は正しいのかもしれません。過去の経験則はそれを示しています。

また、現時点でもフジテレビは本業で利益を計上できています。

その点では、収益面で完全に不動産賃貸業でしかない(すなわち新聞事業では利益が出ない)朝日新聞のような新聞社とは異なります。

フジテレビは、その過去の儲けを不動産に投資して生き残りを図り、現時点ではうまくいっています。コロナにより、テレビという本業も不動産事業も一時的に業績は厳しくなるかもしれませんが、 同社は基本的には生き残っていく確率は高いものと思います。