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旧村上ファンド系に狙われた時点で東芝機械はかなり負けている

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旧村上ファンド系の投資会社であるオフィスサポートが東芝機械に対して敵対的買収(TOB)を仕掛けています。

東芝機械は、オフィスサポートの株式買付行為が東芝機械の企業価値を毀損し、かつ株主共同の利益の最大化を妨げると認識された場合には、対抗措置として株主総会による株主の意思確認(普通決議=過半数の株主の賛成) によって買収防衛策を発動するとしています。

それに対してオフィスサポート側は、買収防衛策の発動は特別決議 (株主の3分の2の賛成)によるべきだとしています。

今回は、新株予約権を用いた買収防衛策の発動にかかる意思決定(株主総会の決議等)について簡単に確認し、東芝機械とオフィスサポートの今後の動向についても考察しましょう。

 

買収防衛策とは

買収防衛策には、様々な類型がありますが、一般的なのは、敵対的買収者以外の株主に大量の新株を発行することで買収者の持ち株比率を低下させる方策です。この新株予約権を用いた買収防衛策には、敵対的買収者以外の株主が保有する新株予約権は行使可能であるものの、敵対的買収者が保有する新株予約権は行使できないという内容の「差別的」行使条件を付したものを用いるのが一般的です。これによって、結果的に敵対的買収者の議決権が薄まり、買収防衛の効果が生じることになります。

今回の東芝機械が導入・発動しようとしている買収防衛策は、 新株予約権を無償で割当するものです(東芝機械のプレスリリースによる)。

新株予約権を無償で敵対買収者以外の株主に割り当てをするということは、一部の株主に「有利な株式の発行」を行うことです。これは、表面的には株主平等の原則に反します。 より詳しくいえば、敵対的買収者の財産権を侵害する虜があるということになります。

株主以外の第三者への有利発行を行う際には、既存株主持分の株式の希薄化が生じることから、株主総会の特別決議 (議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議) が必要となります。有利発行を行うにも関わらず株主総会の特別決議を行わない場合、株主は株式会社に対して発行差止めを請求することができます(会社法第 210 条、247 条)。

株主総会の特別決議を経ないで有利発行がなされた場合、取締役は損害賠償責任を負い、著しく不公正な発行価額で株式を引き受けた第三者は会社に対して差額の支払義務を負うことになります。

但し、買収防衛策については、この有利発行という点について次のような判例があります。

 

過去の判例と株主総会決議

旧村上ファンドが関わった、いわゆるブルドックソース事件(最高裁 2007年8月7日決定)では、裁判所は、 新株予約権無償割当ての場合について、「特定の株主による経営支配権取得に伴い(中略)会社の企業価値が毀損され、 会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合」(必要性)には、「当該取扱いが衝平の理念に反し、 相当性を欠くものでない限り」(相当性)、 株主平等原則の趣旨に反するものということはできないと判示しました。

最高裁の判断であるため、この点については争いはありません。

ー方で、新株予約権の無償発行という 「有利発行」の発動については、 会社としての意思決定において論点は存在します。

「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針/2005年5月27日経済産業省・法務省」では、買収防衛策における有利発行については株主総会の決議ではなく、取締役会決議でも適法と認められる場合があることを説明しています。

一方で、通常の有利発行は株主総会の特別決議です。

今回は有利発行(=買収防衛策の発動)を行う際の会社としての意思決定について、どのような考え方が正しいのか、東芝機械とオフィスサポート間で争いとなっています。

 

今後の動向

2020年1月22日にオフィスサポートが東芝機械に送付したレターでは、 臨時株主総会を開催し、「買収防衛策の導入を承認するか否か」「防衛策をオフィスサポートに対して発動すべきか」を付議するように要請し、後者については特別決議を要するとしています。

これに対して東芝機械側は1月24日のリリースで防衛策の発動は普通決議で行うと決定したことを発表しました。

これについては賛否両論あるでしょう。最終的には裁判所の判断となりますが、旧村上ファンド系が、株主価値を毀損するほどの買収者なのかは、判断が微妙ではないでしょうか。

基本的には村上世彰氏は、常に正論を主張します。結果としての行動はグリーンメーラーのようなところがありますが、経営陣が会社資産を効率的に活用していないならば、株主に資金を返せというような主張は株主からすれば、当然といえば当然なのです。

今回の東芝機械とオフィスサポートとの 「争い」は、 オフィスサポート側が先手を打って有利に運んでいるように思います。

オフィスサポート側は買収防衛策が発動された場合には裁判所への差し止め仮処分の申請を行う旨を示唆し、株主総会開催を求めていました。 買収防衛策について、 東芝機械の取締役会ではなく、株主の判断を問うことになったことは、 オフィスサポートにとっては狙った通りでしょう。株主をある程度は味方につけられると想定しているでしょうし、少なくとも買収防衛策の発動が特別決議では決議されないと予測しているはずです。

そもそも東芝機械の買収防衛策は、 廃止したばかりの買収防衛策を実質的に復活させたものであり、完全に「後出し」です。ブルドックソースの事案時と現在は異なり、 買収防衛策は取締役会の保身であるとの認識が機関投資家にも広がっています。東芝機械の取締役会に機関投資家が味方してくれると考えるのは早計です。

今後、オフィスサポートは株主に向けて株主のための方策を発表し、アピールをしてくるでしょう。東芝機械がオフィスサポートの買収を退けるためには、 株主を味方につけなければなりませんが、オフィスサポートは「正論」 で挑んできます。 簡単にはオフィスサポートを「企業価値を殿損する敵対的買収者」 として退けることは難しいのではないでしょうか。

その場合には、ホワイトナイトとして第三者を呼んでくる(すなわちオフィスサポートではない第三者に買収される) ことも東芝機械は視野に入れなければなりません。

このような状況になった段階で、概ね東芝機械は「負けている」のです。

そもそも、最も効果の高い買収防衛策は、 平時から株価を上げ、買収しにくい状況を作りだすことです。

それはすなわち、 株主から経営者が評価されることに他なりません。

それが出来ていないと評価され、 オフィスサポートに狙われた東芝機械は、その取締役会がやるべき役割を果たしていなかったということになるのかもしれません。