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いいかげんにネットでの株主総会開催を認めては?

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経済産業省が、法務省とともに、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、株主総会の運営上想定される事項についての考え方をまとめ公表しました。

今回はこの考え方について確認するとともに、株主総会の開催方法について少しだけ考えてみたいと思います。


経済産業省のQ&A

新型コロナウイルスの感染が拡大する中において「より安全に企業が株主総会を開催するため」に、経済産業省では、法務省とともに、株主総会の運営上想定される事項についての考え方を「株主総会運営に係るQ&A」としてまとめました。

この内容を確認しておきましょう。

Q1.株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかけることは可能ですか。(A)可能です。
 感染拡大防止策の一環として、出席を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。
 なお、その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます。

Q2.新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、会場に入場できる株主の人数を制限することは可能ですか。
(A)可能です。
 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。現下の状況においては、その結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能と考えます。

Q3.Q2に関連し、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能ですか。
(A)可能です。
 Q2の場合における会場の規模の縮小や、入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも、可能と考えます。
 なお、事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えます。

Q4.発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能ですか。
(A)可能です。
 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。

Q5.新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能ですか。
(A)可能です。
 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも、可能と考えます。
 具体的には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。

(出所  経済産業省/株主総会運営に係るQ&A)

ここで挙げられている事項は確かに実務上は企業が判断に迷うところもあるかもしれませんので、ガイドラインとしては適切なものとも考えられます。
しかし、そもそもなぜ株主総会はリアルに実施する必要があるのでしょうか。

 

なぜ株主総会はリアルに開催されるのか

経済産業省は 2020年2月26日に、企業がハイプリッド型バーチャル株主総会を実施する際の法的実務的論点、及び具体的取扱いを明らかにする「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定し公表しています。

「ハイブリッド型バーチャル株主総会とは」

取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会 (リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会をいう。

(出所 ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド)

そもそも、なぜリアルの株主総会が必要かというと会社法上、株主総会の場所を定めなければならないとされており、現行の会社法下においては解釈上、ネットは場所に含まれないとされているためです。

【会社法】
第二百九十八条 

取締役(前条第四項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主。次項本文及び次条から第三百二条までにおいて同じ。)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主総会の日時及び場所

(以下略)

そして、 解釈としては以下が出されています。

第197回国会 法務委員会第2号(平成30年11月13日)において、小野漸厚政府参考人(法務省民事局長(当時))から、「実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容するかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、 解釈上難しい面があるものと考えております」との見解が示されている。
(出所 経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施がイド」 2020年2月26日策定)

これらの法律および法解釈により株主総会はリアル、すなわちきちんとした場所を確保して開催しなければならないとされているのです。

 

所見

筆者は、株主総会の運営上想定される事項についての考え方をまとめた経済産業省の「株主総会運営に係るQ&A」を読んだ時に若干なりとも何かの冗談かと思いました。

このQ&Aでは、株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかけることは可能とされています。入場制限することも時間の短縮も可能です。

これでは、株主総会を開催する意味はあるのでしょうか?

ドイツではネット配信のみの株主総会を認める法案が2020年3月25日に下院議会を通過したと報道されています。

オーストラリアの当局はネットのみの株主総会を一時的に認める措置を発表しています。

日本では、法務省が合理的な期間内であれば株主総会開催の延期を認めており、 経済産業省はハイブリット型バーチャル総会の実施ガイドも出しています。

そして、今回のように新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、株主総会の運営上想定される事項についての考え方も発表しました。

しかし、そもそもは、日本でもネット上というバーチャルのみでの株主総会の開催を可能とすることが必要なのではないでしょうか。

一時的な措置であったとしても法的対応を行うことが、株主および企業の役員従業員の健康・安全を守ることにつながります。

法律を改正するなら、今こそやるべき時ではないでしょうか。もともとバーチャル株主総会について議論はなされてきたのです。論点はしっかりと共有されているはずです。

本質的な解決策を筆者としては望みたいと思います。