新型コロナウィルスはホワイトカラーが当たり前としてきた「仕事はオフィスでする」「オフィスに通うために通勤する」という概念を壊そうとしています。
オフィスは現時点ではどのような状況にあり、そしてどのようになっていくのでしょうか。
簡単に考察してみましょう。
足元のオフィス環境
日本においてオフィスのマーケットは非常に好調です。
以下はCBREが2020年4月に公表した2020年1Q(1~3月)のオフィスレポートからの抜粋です。
■ 東京23区
今期のオールグレード空室率は対前期比-0.1ポイントの0.6%と、2019年Q1につけた過去最低値に並びました。しかし、2020年3月以降、新型コロナウィルス感染拡大の影響がオフィス市場にも徐々に現れています。移転や新設の意思決定が延期されているほか、契約がキャンセルとなるケースもわずかながら見られ始めました。一方で、IT関連企業をはじめ、業容拡大に伴う拡張や新設に関するニーズそのものは相変わらず多くみられます。今期は、メーカーをはじめとする大手企業の自社ビル建て替えに伴う移転、ならびに金融機関の集約・立地改善などによりまとまった空室が消化されました。竣工を控えるグレードAビルのリーシングも堅調です。2020年に20万坪弱、2021年は約5万坪の新規供給が予定されていますが、推定されるテナント内定率は2020年3月末時点でそれぞれ9割超、6割超となっています。
しかし、感染拡大はQ2にピークを打つという想定のもと、賃料は今後、緩やかな下落に転じると予想されます。
■ 大阪
今期(Q1)の大阪オールグレード空室率は対前期比-0.1ポイントの0.7%と低下しました。オールグレード賃料は14,610円/坪と対前期比+3.3%上昇しました。今期も空室率低下、賃料上昇のトレンドは継続しています。しかし、2020年3月以降に本格化した新型コロナウィルス感染拡大の影響がオフィス市場でも見られ始めています。今後、テナントの動きが鈍化する可能性は高まっているといえます。とはいえ、大阪では、2020年、2021年の新規供給がいずれも1万坪に満たない低い水準にとどまります。また、需給が極めて逼迫する中、深刻なスペース不足に陥っていたテナントが直ちに減床するとは考えにくく、現時点では、空室率は低水準で横ばい、賃料上昇のトレンドは継続するとみられます。しかし、借り急ぐテナントは減少すると思われるため、賃料の上昇率は鈍化するでしょう。
(出所 CBRE「ジャパンオフィスマーケットビュー 2020年第1四半期」
現在の不動産マーケットの状況は上記のようなものでしょう。
一言でいえば「足元は絶好調。今後には少しだけ不安がある」ということになります。
オフィスに対する動き
では、足元が好調なオフィスマーケットですが、コロナ禍でどのような影響が出ているのか、具体的な事例を見てみましょう。
もうオフィスは不要 新興勢がコロナ解約、遠隔に転換
2020/04/29 日経新聞新型コロナウイルスの感染が拡大する中、スタートアップ企業がオフィスを解約する動きが広がっている。事業環境の悪化に備え固定費である賃料を減らす狙いだ。こうした企業はデジタルネーティブ世代の社員が多くテレワークが容易な面もある。従来の若い企業はオフィスの移転・増床で成長してきたが、新型コロナは企業とオフィスの付き合い方の変化を浮き彫りにしている。
地域情報サイトを運営するマチマチ(東京・渋谷)はJR渋谷駅付近のオフィスの解約を17日に通告し、3カ月後に退去する。2019年末にも1億円を調達しており今後2年は手元資金で事業を続けられるが、「少しでも会社存続の可能性を高めるため」(六人部生馬代表)に解約した。賃料がなくなると費用の1割を削減できる計算だ。
3月下旬から十数名の従業員はテレワークをしており、エンジニアやデザイナーは在宅勤務で成果が高まっているという。当面はオフィスを持たず、退去後はシェアオフィスなどに登記を移す。
ブロックチェーン(分散型台帳)開発のLayerX(レイヤーX、東京・中央)は19年11月に入居したばかりの、100坪強のオフィスを解約すると決めた。
ニュースアプリのグノシーの創業者でもある福島良典最高経営責任者(CEO)は「新しい働き方に対応してオフィスのあり方を考え直すため、いち早く意思決定した」と話す。デジタルネーティブ世代の経営者にとってテレワーク移行は「デジタル化を進める立場として自然な決断だ」(福島氏)という。
近年はスタートアップが資金を集めやすい環境が続き、各社は優秀な人材の獲得と、勤務環境を整えるためオフィスに資金を振り向けてきた。ある独立系ベンチャーキャピタル(VC)幹部は「調達した資金の多くがオフィスや採用に流れている印象だった」と話す。だが新型コロナで潮目は変わった。資金調達も厳しくなる見通しだ。
08年のリーマン・ショックもスタートアップに打撃だった、当時はオフィスの縮小が目立った。今回は解約の動きが出ているのが特徴だ。PwCコンサルティングの野口功一パートナーは「過去10年の技術の進化がスタートアップにとってテレワークを普通にした」と指摘する。(以下略)
足元では、スタートアップが企業存続の可能性を高めるために、固定費削減の一環としてオフィスを縮小していく動きが出ているようです。
これは企業経営としては王道ともいえるものであり、さらに技術がテレワークを可能にしているという状況にあるためです。
今後のオフィスのあり方
今後のオフィスのあり方は、どのようなものになるでしょうか。
これは日本でいえば緊急事態宣言後の経済活動の解除をどのように行うかにも影響されるでしょう。比較的早い段階で、人々の移動を解禁してしまえば、これまで通りの通勤・オフィス勤務が継続する可能性はあります。
コロナ禍の中でのWeb会議等を用いたテレワークには様々な課題も見えてきているでしょう。やはり面前でのコミュニケーションの方が、伝わる情報量は多いのです。
しかし、それでもテレワークは始まってしまいました。人は一旦便利なものを手に入れたならば、簡単には手放しません。新たな技術が進展しないのは「人間が面倒くさがり」だからですが、今回はウィルスがその壁を崩しました。
テレワークはどのような形だろうと拡大していくことは間違いないでしょう。これは、働き方改革、共働き、育児、介護等において有効です。
このテレワークの普及は、オフィスのあり方に大きな影響をもたらします。以下の記事は非常に面白い視点で書かれたものです。
リモートワークの普及は、自宅とオフィスの関係性にも大きな影響をもたらします。これまで自宅は「消費」する場所、オフィスは「生産」する場所というのが常識でしたが、在宅勤務が普通になれば、自宅のオフィス化が進んでいきます。それにより、オフィスは改めてその存在価値を問われることになります。
「わざわざオフィスに行かなくてもよい時代に『行きたくなる』オフィスとは何か?」という新たな問いに対する答えを提供する必要があるのです。これは、仕事が捗るといった従来の要素だけではなく、好きな人に会える、おいしい料理やカフェが楽しめる、リラックスできる、マッサージが受けられる、アートが鑑賞できるなど、人々を惹きつける新しい要素をオフィス空間の中に持ち込む必要があるということでもあります。
米Fast Company誌は2019年6月に”More people are working remotely, and it’s transforming office design“と題する記事の中で、リモートワークの普及がオフィスデザインにも影響すると述べていましたが、まさに自宅がオフィス化するのと同じように、オフィスの自宅化も進むのではないかと見ています。つまり、言い換えるとオフィスは「消費」されるようになり、企業はお金を払ってでも来たいと思えるようなオフィス体験を従業員にどのように提供していくかが問われるようになる、ということです。この変化をよりマクロな視点でとらえると、自宅とオフィスの境目は曖昧になり、効率化と規模拡大のために生産(働く)と消費(暮らす)を切り離してきた従来の経済のあり方を根本から問い直す、象徴的な変化となるのではないかと思います。
そもそも、考えてみれば大規模な工業化が進む前の家内制手工業の時代は「生産」も「消費」も自宅で行っており、両者は切り離されていませんでした。昔は当たり前だった働きかたにテクノロジーが実装されたことで、「古くて新しい」働きかたが実現できるようになっただけのことです。(出所 https://ideasforgood.jp/2020/04/21/profit-to-prosperity/)
まさに、オフィスは自宅化が進み、自宅はオフィス化が進むのでしょう。
リアルの利便性では、都心立地のオフィスにはまだまだ優位性があります。劇的な変化は簡単には訪れないでしょう。
しかし、徐々にではあったとしても、オフィスの自宅化は進むのです。
我々は、今まで以上に「人間らしい」仕事のやり方、暮らしを取り戻すことになっていくのではないでしょうか。