コロナ禍の環境下、7年近く上昇を続けてきた東京都心のオフィスビルの賃料が下落に転じたと報道されています。
オフィスを中心に投資する上場REITの投資口価格(≒株価)も冴えません。
スタートアップやIT系企業は、在宅勤務への恒常的な移行によりオフィスを解約していると報道されています。
東京のオフィスビル賃料は下落していくのでしょうか。
日本の不動産賃貸市場の中心である東京都心のオフィス賃貸マーケットについて、今回は簡単に見ていきましょう。
東京都心の賃料と空室率
以下は不動産仲介大手の三鬼商事が公表している最新オフィスビル市況2020年9月号のデータです。
(出所 三鬼商事「最新オフィスビル市況2020年9月号」)
東京ビジネス地区全体では、2020年8月時点の平均賃料は22,822円となり、前月比で0.83%の下落となりました。
2014年1月から続いていた平均賃料の上昇が80ヵ月ぶりにストップしています。
この要因はやはり空室率の上昇でしょう。
(出所 三鬼商事「最新オフィスビル市況2020年9月号」)
東京ビジネス地区の平均空室率がコロナ前の約2倍(2020年1月=1.53%→2020年8月=3.07%)まで上昇してきました。
特にスタートアップ、IT系企業が多いとされる渋谷区の平均空室率は4.31%まで上昇しており、これは前年同月比では+2.95%となります。
2020年8月は既存ビルでは大型解約はなかったものの、オフィス縮小に伴う中小規模の解約が相次いだとされています。
東京ビジネス地区の平均空室率は30ヵ月ぶりの3%台まで上昇しました。
平均賃料の下落や空室率の上昇は、アベノミクスで膨らんだ「不動産バブル」が崩壊する兆候なのでしょうか。
東京都心のオフィスビルマーケット予測
実は、東京のオフィスマーケットは大崩れは予想されていません。
以下はオフィスビル総合研究所のマーケット予測です。
(出所 オフィスビル総合研究所「オフィスマーケット予測レポート/2020年第2四半期(4 - 6月期)」)
この図表で使われている空室率は前述の三鬼商事の空室率とは対象が異なります。
オフィスビル総合研究所のデータは、東京都心5区にある1フロア面積50坪以上のオフィスビルを対象としています。
このオフィスビル総合研究所の予測では、空室率が2021年第2四半期が4.1%、2022年同期が4.4%、2023年同期は4.6%とされています。2020年第2四半期は前期比+0.3ポイントの0.9%へ上昇していましたが、今後1年間ではさらに+3.2ポイントの大幅な上昇を見込んでいます。
但し、その後は新規供給が低水準に止まることから空室率上昇に歯止めがかかり、「(仮)虎ノ門・麻布台地区PJ(A街区)」が竣工を迎える2023年第1四半期にかけて、4%台での緩やかな上昇が続くとみられる(オフィスビル総合研究所)としています。
(出所 オフィスビル総合研究所「東京オフィスビル市場の分析と展望《 四半期統計 》2020年8月」)
上記図表ののように2021年と2022年は、新規のオフィスビルの供給量が少ない時期に該当します。
空室率の上昇はオフィス賃料に影響しますが、今後しばらくは新規の床供給は少ないということになり、これはオフィスマーケットに対してはプラスの影響となるものと思われます。
そのためオフィスビル総合研究所は、以下のように東京都心5区のオフィスの賃料を予測しています。
空室率が4%台で緩やかな上昇を続けることから、賃料は23,000円/坪台後半での横ばい傾向を続けた後、緩やかな低下へ向かうと予測する。空室率が8%を上回ったリーマン・ショック後に比べて、賃料へのマイナス影響は限定的な水準に止まるとの見方に変わりはない。2021年第2四半期以降、ネット・アブソープション(筆者註:吸収「需要」)は概ねプラスを維持しており、オフィス需要が拡大に転じることも賃料水準への下支えとなる。
(出所 オフィスビル総合研究所「オフィスマーケット予測レポート/2020年第2四半期(4 - 6月期)」)
リーマンショック時には空室率が8%を上回りました。
当時からすると東京都心には大規模ビルの竣工が相次ぎ、オフィスビルの総床面積は拡大しています。しかし、それでも空室率は4%台に留まるというのがオフィスビル総合研究所の予測です。
所見
以上、東京都心におけるオフィスビルマーケットの現状と予測について確認してきました。
空室率が大幅に上昇することによりオフィスビルマーケットは厳しい状況が続きますが、賃料の下落が軽微に留まるのであれば、「不動産バブルの崩壊」というような事象は発生する可能性は低いのではないかと思われます(そもそも大規模な不動産バブルが発生しているかは怪しいところですが)。
日本のオフィスマーケットの中心は東京です。
この東京のオフィスマーケットの動向は、全国へ影響を及ぼします。
今後も先行指標としての東京のオフィスマーケットには注目していきたいと思います。