銀行員のための教科書

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不動産賃貸事業者に対しての包囲網が敷かれつつあるのでは?

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新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い日本の経済活動は停滞しています。

もちろん店舗や飲食店へも大きな影響を与えています。

そして、筆者の感覚でしかありませんが「事業者にとっては固定費である家賃の負担が重い」というニュアンスの報道が増えてきているように感じます。

まさに事業を継続する、雇用を守るには、家賃が邪魔というイメージです。

そのような中で国交省が家賃の減免・猶予に動き出しました。

そもそも、国交省は2020年3月末にビル賃貸事業者に対し、新型コロナの影響で賃料の支払いが難しい入居者には支払い猶予など柔軟な対応を検討するよう要請していましたが、更に実効性のある施策を出してきたというところです。

今回はこの国交省の施策について確認していきましょう。

 

全体像

まずは、国交省が発表したテナント支援策について概要を確認しましょう。以下は日経新聞からの引用です。

賃料減免・猶予なら税や社保料1年間猶予 国交省
2020/4/17 日経新聞 

国土交通省は17日、ビル賃貸事業者が新型コロナウイルスで経営に影響を受けた入居者の賃料を減免・猶予した場合、国税や社会保険料などの納付を1年間猶予すると発表した。外出自粛の影響で飲食店や小売店の売上高は激減しており、家賃負担が重くのしかかっている。賃貸事業者への支援を通じて家賃負担の軽減を促していく。
同日付で不動産関連団体に通知する。国交省は3月末にビル賃貸事業者に対し、新型コロナの影響で賃料の支払いが難しい入居者には支払い猶予など柔軟な対応を検討するよう要請した。ただあくまで要請どまりで、より実効性の高い対策を求める声が上がっていた。
今回の措置ではビル所有者が新型コロナの影響で収入などが減った入居者の賃料を減免・猶予した場合に、国税や地方税、社会保険料の納付を1年間猶予する。国交省によると、例えば3月期決算の企業では、5月が納付期限となっている法人税の納税を猶予することが可能になるという。
通知には個人のビル所有者がテナントの賃料を減額した際にも損金算入を認めることも盛り込んだ。この措置はすでに減額された賃料にもさかのぼって適用するという。

(出所 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58171140X10C20A4MM0000/

これが今回の「テナント支援策」としての不動産賃貸事業者への 支援の概要です。

それではこの支援策について、もう少しくわしく見ていくことにしましょう。

 

不動産賃貸事業者への支援策

不動産賃貸事業者(不動産所有者)がテナント(入居者)の賃料支払を減免・猶予した場合の支援策については、以下の図表が纏まっているでしょう。

f:id:naoto0211:20200418114529j:plain(出所 国土交通省「新型コロナウイルス感染症に係る対応について(補足その2) 」)

これを詳細に説明したのが以下の文書です。こちらも引用しておきます。

1.テナントの賃料を免除した場合の損失の税務上の損金算入について【既に実施中】

(1) 法人・個人が、新型コロナウイルス感染症の影響により賃料の支払いが困難となった取引先に対し、不動産を賃貸する所有者等が当該取引先の営業に被害が生じている間の賃料を減免した場合、次の条件を満たすような場合等には、その免除による損害の額は、寄附金に該当せず、税務上の損金として計上することが可能であることが明確化されました。

① 取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、又は困難となるおそれが明らかであること

② 実施する賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など) を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること

③ 賃料の減額が、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいいます。)内に行われたものであること

(2) また、取引先等に対して既に生じた賃料の減免(債権の免除等)を行う場合についても、同様に取り扱われます。

(3) なお、本取扱いを受ける場合、新型コロナウイルス感染症の影響により取引先に対して賃料を減免したことを証する書面の確認を税務署より求められる場合があります(中略)。

2.国税・地方税・社会保険料の猶予措置について

(1) 新型コロナウイルス感染症により国税・地方税・社会保険料を一時に納付することが困難な場合は、個人・法人の別、規模を問わず、申請することにより、原則として1年間、納税が猶予されます。(延滞税も軽減)【既に実施中】

(2) なお、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する税・社会保険料については、新型コロナウイルスの影響により令和2年2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね 20%以上減少している場合かつ、一時に納付することが困難と認めら れるときは、無担保・延滞税(延滞金)なく、1年間納付を猶予することができるようになります。 この場合、不動産所有者等がテナント等の賃料支払いを減免した場合や、 税・社会保険料の納付期限において、書面等により賃料支払いを猶予中の場合も収入の減少として扱われることとなる見込みです。【関係法令成立後実施】

3.固定資産税等の減免措置について【関係法令成立後実施】

(1) 新型コロナウイルス感染症の影響により事業等に係る収入に相当の減少があった場合、中小事業者、中小企業者が所有し、事業の用に供する家屋(建物)及び償却資産(設備等)の令和3年度の固定資産税及び都市計画税が、事業に係る収入の減少幅に応じ、ゼロ又は1/2となります。

(2) 具体的には、令和2年2~10月の任意の連続する3ヶ月の事業に係る収入が前年同期比30%以上50%未満減少した場合は1/2に軽減、50%以上減少した場合はゼロ(全額免除)となります。

(3) この場合、不動産所有者等がテナント等の賃料支払いを減免した場合や、 書面等により一定期間、賃料支払いを猶予した場合も収入の減少として扱われることとなる見込みです。

(以下略)

(出所 国土交通省Webサイト https://www.mlit.go.jp/common/001341221.pdf

この施策は、簡単に言えば「テナントの資金繰りを、不動産賃料の猶予や減免で支援していこう」という国の施策の一環です。そのために、不動産賃貸事業者に支援策を出しているだけなのです。

言葉を換えると「国は、不動産事業者の資金を使って、テナントを支援していく」ということなのです。

 

所見 

これらの支援策を前提に、テナントへの賃料支払猶予や減免を行うか否かは、不動産賃貸事業者の選択ですが、猶予や減免をしない不動産賃貸事業者は「国賊」と言われかねないように筆者には感じられます。

民間同士の取引に国が口を出さないことは、日本における経済活動の前提です。今回の国交省の公表もあくまで判断は民間同士に任されています。

しかしながら、国も経済を維持していくためには、様々な事業者を破綻させないことが重要だと強く認識し、民間同士の経済活動にも注目しているのでしょう。

営業が出来なくなった事業者が破綻を免れるためには、営業が出来ない時でも発生する固定費をどうにかしないといけません。固定費の中で大きな位置を占めるのは、やはり家賃でしょう。家賃を支払わなくてすむならば、様々な事業者の資金が尽きる時期を後ズレさせることができます。さすがに従業員をリストラして、人件費という固定費を下げるような施策は国としても取る訳がありません。それは企業も一緒です(通常は)。一度、従業員を解雇してしまえば、簡単には戻ってきません。特に人の能力に依存している事業者では、致命傷になりかねません。

すなわち、おおげさかもしれませんが、コロナショックのダメージを緩和し、コロナショックからの経済回復を左右するのは、この不動産賃料の猶予や減免が行われるかと言えるのです。

不動産賃貸事業者は、ストックビジネスで(寝ていても)賃料が入ってくるため、コロナショックでは大きな影響を受けないようなイメージがあるかもしれません。

しかし、少なくとも商業テナント相手にビジネスをしている不動産賃貸事業者には大きな影響が出てくることになりそうです。

不動産賃貸事業者は、テナントからの家賃がしばらく入らないことも覚悟し、場合によっては銀行からの資金調達を行っておくことも必要となるでしょう。

(なお、銀行への借入利息や元本返済の支払も不動産賃料と同じような話だと思います。家賃の方が通常は負担が重いため、先に不動産に焦点が当たっているだけではないでしょうか。)