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在宅勤務の常態化は企業のコスト削減に有効〜富士通の事例〜

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富士通が国内全従業員に在宅勤務を推奨することになりました。

これに伴い、オフィスの削減がなされると富士通から発表されています。

今回はこのオフィスの削減に焦点を当て、在宅勤務のコスト削減効果について、簡単に考察してみたいと思います。

 

新聞記事

まずは、日経新聞新聞の記事を引用します。今回の富士通の動きの概要がつかめると思います。

富士通、3年で国内のオフィス半減へ 在宅勤務前提に
2020/07/03 日経新聞

 富士通は国内のグループ会社を含めたオフィススペースを今後3年メドに半減させる。新型コロナウイルス感染拡大を受け、オフィスへの出勤率を最大25%に抑える働き方を始めたが、在宅を継続する。出社を前提とした働き方の見直しが広がる可能性がある。
 富士通は全国の支社や出先のオフィススペースを段階的に減らし、3年後をメドに現状の5割程度に減らす。オフィスは自社保有より賃貸が多い。賃貸契約の一部を解除することで、賃料を削減する。
 富士通は新型コロナ感染拡大を受け、国内で働く約8万5千人の全社員を対象に在宅勤務を推奨した。工場を除くオフィスでは、出勤者を通常の25%までにおさえる。業務をオンライン前提に全面的に変える方針を打ち出していた。
 富士通は在宅勤務を機能させるための人事制度作りも急いでいる。コアタイムを設けない「スーパーフレックス制度」を既に採用しており、時間に縛られず柔軟に働ける仕組みを整えた。業務が明確で人事評価がしやすい「ジョブ型雇用」を幹部社員だけでなく、一般社員にも広げる。
 海外でもツイッターが世界で働く約5100人の全社員を対象に、期限を設けずに在宅勤務を認める方針を打ち出している。国内で動画投稿サイトを運営するドワンゴも全社員約1000人を原則、在宅勤務にする方針を表明している。
 新型コロナの感染拡大の第2波懸念が高まる中で、各企業で在宅勤務を定着させようとする動きが広がりつつある。都心などのオフィス需要が低下する見方も出ている。

もう一つの記事も引用します。

富士通がオフィス半減発表、在宅勤務支援に月額5千円
2020/07/06 日経新聞

 富士通は6日、国内のグループ会社を含めたオフィススペースを2023年3月末までに半減させると正式発表した。全国で約60カ所の事業所を保有、約380カ所を賃貸契約しており、計約120万平方メートルのオフィス面積を3年かけて縮小する。全社員を対象にした月額5千円のテレワークに伴う補助金なども新設し、在宅を原則とした働き方にシフトする。
 富士通では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国内で働く約8万人を対象に在宅勤務を推奨してきた。現在も工場を除くオフィスへの出社率を最大25%に抑える取り組みを進めており、今後、通勤を前提とした働き方や制度を改める。
 オンラインで6日に記者会見した富士通の平松浩樹執行役員常務は「時間や場所にとらわれない働き方を進める」と強調。働く場所や時間を社員が柔軟に選択できるようにする。
 全国の固定的なオフィスを順次縮小し、自宅などで柔軟に働けるようにする。具体的には、全国の各エリアごとに中核オフィスやサテライトオフィスを設け、全席をフリーアドレスにする。コアタイムを設けない「スーパーフレックス制度」の対象を国内グループの全社員に拡大する。
 職務を明確にすることで成果を評価しやすくなる「ジョブ型」雇用は現在、幹部社員が対象だが、今後は一般社員にも拡大。評価制度や社内システムも合わせて働き方の見直しを進める。在宅勤務の環境整備にかかる費用として、全社員に月額5千円を支給する。テレワークや出張で対応が可能な単身赴任者は、単身赴任を解消する。

 

 

不動産賃料の削減効果

富士通の動きは、働き方改革にとどまらず、企業のコスト削減にも大きな効果をもたらします。

富士通の有価証券報告書を見ても不動産貨料をどの程度負担しているのかは、いまいち良く分かりません。

しかし、以下のように試算することはできます。

  • 日経新聞の記事にある80,000名の従業員のほとんどが在宅勤務へ移行
  • 従業員一人当たりのオフィススペースは、一般に言われている一人当たり3坪を賃借していると仮定(この仮定は少し無理矢理です。オフィスは120万㎡と報道されていますが、一人あたり4.5坪程度になりますので、3坪を超える余剰部分を保有していると仮定)
  • オフィススペースの賃料は月1万円@坪と想定(地方の支社、支店も含めて)
  • 以上を前提とすると、80,000 名×3坪×1万円=24億円が1カ月の支払賃料
  • このうちの50%を削減するため、12億円×12カ月、ー年間144億円の費用間減効果

解約不能オペレーティング・リース契約において費用として認識した1年以内のリース料が258億円であり、富士通グループのリース取引は、主に、事業所の賃借契約から構成されているとされているため、年間の賃借料支払はリース料程度であると想定されます。

例えば、上記の リース料258億円の50%は129億円ですので、上述の144 億門の費用減効果という試算を近い数値となります。

 

通勤定期代の削減効果

次に、在宅勤務移行に伴い通勤定期券代の支給廃止を富士通は行います。

通勤手当の支給水準は、厚生労働省「就労条件総合調查」(2015年)によれば月額11,462 円(調査産業計)となっています。

富士通の社員の平均支給水準がこの厚労省の調査と同じ水準だと仮定すると、80,000名✕11,462円=月額9.2億円、年間110億円となります。

出勤者を25%以内に抑えるとの方針と報道されていますので、年間110億円✕25%=27.5億円の費用はそのまま個別に支給されると想定します。

この通動定期券代の支給廃止により、富士通は82.5億円のコスト削減になると試算できるのです。

尚、代わりに月額5,000円の在宅勤務の環境整備費用補助の支給が始まります。

この費用は80,000名✕5,000円=月額4億円、年間 48億円です。

よって、合算すると、定期券代支給廃止▲82.5億円−在宅動務手当48 億円=▲34.5億円の費用削減効果となります。

さらに、テレワークと出張で従来業務に対応できる単身赴任者の自宅勤務への切り替え方針をも富士通は発表しています。

これによる費用削減効果は不明ですが、単身赴任手当、別居手当は支給平均が月額40,000円程度とされています。単身赴任者の削減数によっては、相応の削減効果が見込めます。

 

まとめ

在宅勤務を常態化することは、従業員へのメリットもあり、かつ採用に有利です。

さらに、富士通の事例に見るように、企業にとってはコスト削減効果も高いのです。

大手企業のみならず、中堅中小企業まで、この動きは続いていく可能性は捨てきれません。

筆者は、日本の人事制度のみならず、人事の運用(特にマネージャーのマネジメント手法とその能力)では、ジョブ型雇用は失敗に終わりかねないと考えています。しかし、富士通のように様々な企業が在宅勤務に挑戦していくならば、日本は変わるかもしれません。

コスト削減という観点で、在宅勤務に取り組む企業のインセンティブは十分にあるのです。

これからの動きに注目していきたいと思います。