新型コロナウィルス感染拡大および国、地方自治体の外出自粛要請を受け、日本全体として消費が落ち込んでいます。当然、飲食店や小売店舗等への影響も大きい状況にあります。
そのような中で、大手デベロッパー (不動産会社) が飲食店等のテナントの賃料支払いを猶予や減免するとのリリース・報道がなされています。
今回は、このテナント賃料の猶予・減免について確認する共に、 今後の影響について考えてみたいと思います。
公表内容、報道内容等
テナント貸料の猶予等については国土交通省の要請から始まっています。
まずは、同省の要請を確認しておきましょう。
新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、飲食店等のテナントの賃料の支払いについて柔軟な措置の実施を検討するよう要請しました。
令和2年3月31日 国土交通省リリース
新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、 飲食店をはじめとする事業者の中には、事業活動が縮小し、入居するビル等の賃料の支払いが困難となる事案が生じていることから、不動産関連団体を通じて、新型コロナウイルス感染症の影響により、 貸料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討頂くよう、要請をしました。(以下略)。
これを受けて、イオンや三菱地所等が賃料の減免や一時猶予に動き出しています。
イオンモールがテナント賃料減免 3月と4月分、専門店支援
4/2(木) 共同通信
イオンモールは2日、 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全国のイオンモールにテナントとして入る専門店の売上高が減少した場合、3月と4月分の賃料を減免すると発表した。外出自粛の影響で売り上げが急激に落ち込んだ専門店を支援する。5月以降も減免を続けるかどうか状況を見て改めて検討する。
イオンモールと専門店は入居時の契約で 「月間最低保証売上高」を定める。通常は、専門店の売り上げが最低保証売上高を下回ると賃料が割高になるが、3、4 月は最低保証を下回っても割高にならないようにする。1カ月間休業し、売上高がゼロの場合は賃料が免除される。
以下は三菱地所のニュースです。
「丸ビル」などテナント貸料を一時猶予 三菱地所 新型コロナ
2020年4月7日 NHK News Web大手不動産会社の三菱地所は、 「丸ビル」や 「新丸ビル」 などに入るテナントのうち、 売り上げが大きく落ち込んでいる店舗の賃料の支払いを猶予するなどの対応を取ることにしています。
三菱地所は東京 千代田区にある「丸ビル」や「新丸ビル」 を所有し、これらのビルのオフ
イス以外のフロアは飲食店やショップなどが入っています。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で平日はこうした店舗の営業時間を短縮し、 週末は臨時休業とする措置を取っているため、 売り上げが落ち込むなどの影響が出ているということです。
このため会社は、貨料の支払いが困難になっている店舗を対象に支払いを一定期間猶予す
るなど、売り上げが落ち込んだ店舗の経営を支援することにしました。
テナントの賃料の扱いをめぐっては、流通大手のイオンやJR東日本系列のルミネも売り上げが落ち込んだ店舗を対象に、契約内容に応じて賃料を減額する対応を取っています。
このように大手デベロッパーは、 賃料の減免や支払猶予に踏み込んでいくことになるでしょう。
但し、これらの報道・リリースの対象は、あくまで商業ビル部分のテナントに対しての賃料減免、 支払猶予だと思われます。
賃料減免、支払猶予の背景
この動きは、大手デベロッパーにとっては宣伝効果が高いと言えます。「あのデベロッパーがオーナーのビル」に入居しているから「安心」だとなり、 将来的にはブランドの強化につながるでしょう。
この賃料の猶予や減免は、 一見すると大手デベロッパーが 「善意」で実施しているように感じられます。おそらく、報道を受け、読者の皆さんも対応した大手デベロッパーに良い印象を持たれることでしょう。
但し、この飲食テナントに対する賃料猶予や減免は、どちらかといえばビジネスジャッジに近いものと思われます。
三菱地所が運営するようなオフィスビルであったとしても、飲食店等の商業テナントを入居させるのはオフィステナントへの満足度向上の観点があります。また、グレードの高い飲食テナントが入居していることは、そのビルの価値を高めます。
せっかく入居してもらった飲食テナントが抜けないように、今回のような猶予・減免対応を行っているものと推察できるのです。
一方、賃料の猶予・減免が可能であるのは大手に限られるものと思われます。通常のオーナーからすれば、銀行への返済、利息支払があることもあり、国土交通省から要請されたとしても、簡単に猶予・減免に応じられないのです。
但し、賃料の猶予・減免をしなければテナントが退去してしまう、倒産してしまうということになれば、不動産のオーナーとしても何らかの対応をせざるを得ないでしょう。
コロナショック後は、 平常時に戻ったとしても、景気が悪化していることは容易に想像がつきます。テナントが一度退去したならば、新たなテナントを見つけるのは難しくなっている可能性が高いでしょう。
そのため、一部の不動産オーナーは、 賃料の猶予・減免に応じざるを得ない局面が来る可能性が高いものと思われます。
今後の動向
今回の一連の動きは、あくまで商業テナント(飲食や物販等)に対するものと思われます。
但し、この動きは商業テナントだけにとどまらないものと筆者は考えます。
通常のオフィス、賃貸レジ (マンション、 アパート等)でも、早晩、テナントから賃料の猶予・減額の要請が出てくるでしょう。 既に事例が出てきたのですから。
この影響は広範囲に渡る可能性があります。
上場REITのみならず不動産の私募ファンド、私募REIT等へも影響が出てくる可能性があります。 これらは、 いわゆる不動産のスキーム案件ですので、銀行からの借入にキャッシュフローを維持するための「条件」が設定されていることが一般的です。 テナントからの賃料の猶予・減免は、 この「条件」に抵触する可能性があり、その場合は、銀行から返済を求められる可能性が排除できません。
この場合、借入人は簡単に猶予・減免を行うことはできないでしょう。 一方で、テナントが抜けて不動産スキーム案件の収益が低下してしまうと、銀行は貸出を回収できなくなってしまうかもしれません。
いずれにしろ、不動産業や銀行業にとっては、 今回の動きは対岸の火事ではありません。不動産業や銀行業のようなストック商売は、コロナショックの影響を現在はあまり感じていないかもしれません。しかし、賃料の猶予・減免事例が発生したからには関係ないとはいえません。
尚、日本全体ではどの程度の賃料が支払われているのでしょうか。
2018年度法人企業統計調査によれば不動産業の状況は以下の通りとなっています。
【不動産業(全規模) 】
- 337,934社
- 売上高 47 兆円
この数字には、不動産賃貸業だけではなく、不動産仲介や戸建・マンション分譲の売上が入この数字には、不動産貨貸業だけではなく、 不動産仲介や戸建マンション分譲の売上が入っていますのであくまで参考となります。
【全産業(金融保険業含む)・全規模】
- 2,881,052社
- 動産・不動産賃借料 28兆円
この数字は動産も入っていますが、 主に不動産賃借料となっているのではないかと思われます。リース業界の売上高は9兆円程度と見込まれますので、 少なくとも法人では20兆円近くの賃料が不動産オーナーに支払われていると想定されます。
また総務省の平成30年住宅・土地統計調査によれば「民営借家」は日本で1,529万5千戸存在します。(他に公営借家等もありますが、今回は民営借家だけを見ることにします。)
この平均家賃が仮に月5万円(年間60万円)だったと仮定すると、9兆円強の賃料が支払われていることになります。
すわなち、日本全企体では 30 兆円弱が不動産の賃料として不動産オーナーに支払われている可能性があります。
この全てが影響を受ける訳ではありませんが、 不動産の賃料は日本全体で非常に大きなキャッシュの流れです。特に地方銀行は個人の相続対策としてのアパート投資に多額のローンを出してきました。
不動産の賃料支払に目詰まりが起きると、不動産価格の下落に加え、 金融不安につながる可能性も否定はできません。
今回の大手デベロッパーの賃料猶予・減免は、非常に大きな影響をもたらす可能性があるのです。