銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

「飛び恥」という考え方は、合理的ではなく、人類の争いの種にもなり得る

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「飛び恥」という言葉をご存じでしょうか。

このコンセプトの発祥の地はスウェーデンです。

航空機は大量のCO2(二酸化炭素)を排出し、地球環境を悪化させることから、 空の旅をやめようという動きが欧州で見られるようになってきています。

今回は、この「飛び恥」の動きについて簡単に考察しましょう。

 

「飛び恥」とは

「飛び恥」とは、日本でヒットしたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の略語である「逃げ恥」にかけた「飛行機に乗るのが恥ずかしい」の略語です。

移動に航空機を利用し、CO2を排出することで地球温暖化を促進してしまうことを避けようとする心持ちをスウェーデン語では「Flygskam」と言うそうです。英語では「Flight shame」もしくは「Flying shame」です。

確かに飛行機は大量のCO2を排出しているように思えます。

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ氏が、航空機での移動を避け、船で移動したことは大きな話題となりました。

トゥンベリさんは9月、米ニューヨークで行われた国連気候行動サミット2019(UN Climate Action Summit 2019)に参加。その後、COP25が開催されるはずだった南米チリに向かっていたが、反政府デモの激化により会場はマドリードに変更。トゥンベリさんは、燃料を大量に消費する飛行機を避けて海路で欧州に戻ることを選び、20日間かけてヨットで大西洋を横断した。

(出所 AFP  https://www.afpbb.com/articles/-/3257962?cx_amp=all&act=all

これは環境に優しい良い活動のように思えます。

では、航空機の移動で排出されるCO2とはどの程度のものなのでしょうか。

 

日本における事情

2017年度における日本のCO2排出量(11億9,000万トン)のうち、運輸部門からの排出量(2億1,300万トン)は17.9%を占めています。自動車全体では運輸部門の86.2%(日本全体の15.4%)となっており、そのうち旅客自動車が運輸部門の49.8%(日本全体の8.9%)、貨物自動車が運輸部門の36.5%(日本全体の6.5%)を排出しています。

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 (出所:国土交通省/運輸部門における二酸化炭素排出量 2019年4月23日)

上記の試算は、旅客輸送において、各輸送機関から排出される二酸化炭素の排出量を輸送量(人キロ:輸送した人数に輸送した距離を乗じたもの)で割り、単位輸送量当たりの二酸化炭素の排出量を試算すると上図のようになります。 

すなわち、確かに航空機は輸送量当たりでは大きなCO2を排出しています。

航空機は鉄道の約5倍のCO2を排出しているのです。

しかし、上図を見れば分かるように、自家用乗用車は、鉄道の約7倍のCO2を出し、自動車こそが日本全体では大きなCO2排出原因となっていることが分かります。

航空機は運輸全体の4.9%に過ぎず、日本全体のCO2排出原因の1%にも満たないのです。

データだけで見れば、地球環境を保全するために避けるべきは航空機ではなく、自家用自動車です。

これは残念ながら明白な事実です。

 

所見

「飛び恥」が一過性のムーブメントで終わる可能性は否定できません。

前述の通り、CO2の排出を抑制するならば、自家用車を規制した方が効果的だからです。

しかし、プラスチック製ストローがスターバックスで使用廃止となるように、理屈ではない動きが出る可能性はあります。大きな流れとなる可能性もあるのです。

筆者としては「飛び恥」の動きには反対したいと考えています。もちろん、筆者は世の中の動きについていけておらず、頭が固いのかもしれません。

しかし、「飛行機で移動することが恥である」という考え方は、「他地域や、他国に行くな」「違う文化、文明の人と接触するな」「他の文化、文明(例えば建築物)を知らなくて良い」という考えに繋がりかねません。

人類は飛行機という空間を飛び越える文明の利器を持つことによって、互いの距離を近くし、相互に理解を図ってきました。

海外を旅し、他国の人や政治・文化・生活状況を知ることで、自国の状況を客観的に理解できるようになります。

異文化・異文明が混じり合うことで、個人が影響を受け、文化も発展していきます。

知っている人がいるからこそ、素晴らしい建築物があるからこそ、その国と争いたくない、戦争したくない、破壊したくないという考えが芽生えます。

例えば、嫌韓という動きはありますが、一方でK-POPや韓流ドラマは好きという方はいるでしょう。韓国の政府は嫌いでも、文化やファッションは好きだと思い、韓国に旅行する方もいるでしょう。実際に現地を体験することは、テレビや本では知り得ない多くの情報に接することになり、お互いを知り、良いところも悪いところも認識出来るようになります。少なくとも、顔の見えない、知らない他人ではなくなるのです。

移動を止めるということは、自国優先の保護主義に繋がり、将来の戦争の種にだってなり得るのです。

地球環境を守り、人類の生存環境を維持していくことは重要です。

しかし、飛行機で移動することを止めることが、地球環境の保全を図る唯一の方策ではありません。自家用車を禁止した方が効果的であることは間違いないのです。

ファッションではない、合理的で冷静な議論が必要なのではないでしょうか。

「飛び恥」という言葉には、良いイメージがあるかもしれませんが、悪い結果をもたらす懸念が含まれていると筆者は考えています。