日本では「IR」の導入についての動きが加速してきています。
IRとは、カジノのほかホテルや劇場、国際会議場や展示会場などのMICE施設、ショッピングモールなどが集まった複合的な施設のことです。英語でのIntegrated Resortの頭文字の略がIRです。日本では統合型リゾートとも呼ばれています。
ラスベガスやマカオ、シンガポールのような集客施設を作り、国際観光推進に役立たせたいとの考えからIRは導入が検討されてきました。
IRは統合型リゾートですが、その核となるのはあくまでカジノです。カジノの収益により他の施設の維持がなされるのです。
では、カジノはなぜ儲かるのでしょうか。
今回は、カジノにおける代表的なゲームであるルーレットを題材にカジノの収益について簡単に確認しましょう。
ルーレットとは
ルーレットとは、赤と黒、および緑に色分けされたホイールの中にカジノディーラーが球を投げ込み、投げ込まれた球が「色・数字・グループ」のどこに落ちるかを予想して賭けて遊びます。
プレイヤーは、ディーラーが投げ込んだ球がどの箇所に落ちるかを事前に予想し、テーブルの数字が書かれているレイアウトにチップを置きます。
チップを置いた箇所に球が入ればプレイヤーの勝ちとなり、賭けた場所によって配当が付きます。
外れた場合は賭けたチップは全て撤収されます。
アメリカンタイプは、ホイールの中が1から36の数字に 0と00を加えたもの(回転盤を均等に38区分)、ヨーロピアンタイプは1から36の数字に0を加えたもの(回転盤を均等に37区分)となっています。
例えば、数字を的中させれば、賭けた金額の35倍が支払われ、賭けたチップも戻ってきます(=的中させれば36倍になって戻ってくる)。
これが簡単なルーレットのルールです。
ハウスエッジ(控除率)という仕掛
ルーレットにおけるStraight-Up(ストレート・アップ)=1点賭けとは、1つの数字に対して賭ける方法で、36個の数字と0を含んだ全てに対して賭けることができます。
ルーレットの賭け方の考え方は基本的に同じなので、今回はStraight-Upを前提に事例を考えます。
1点賭けは当たる確率が極めて低いため、当たると高配当が期待できます。
その配当率が上述の通り36倍となっています。
1から36の数字のうち1つを当てる確率は36分の1ですから、非常に公平なルールのように思えます。
しかし、ルーレット(アメリカンタイプ)の場合には、1から36の数字に「0」と「00」を加えた38個が母数になります。
すなわち、当たる確率は38分の1であるのに対して、配当(支払)は36倍なのです。
これはどのように考えれば良いのでしょうか。
以下、「プレイヤーがラッキーセブン(7)に1ドル」を賭ける事例(アメリカンタイプ)を考えてみましょう。
<事例>※小数点以下第3位四捨五入
- プレイヤーは、「7」が当たった場合、配当35ドル+賭け金返金1ドルの合計36ドルを獲得
- 7以外が出る確率は37/38(37÷38)であり、プレイヤーは賭け金1ドルを没収される
- 以上を計算式として表すと以下
- 7が出た場合は、1/38(当たる確率)×35(配当)=0.92
- 7以外が出た場合は、37/38(外れる確率)×▲1(賭け金没収)=▲0.97
- 0.92+(▲0.97)=▲0.05
- すなわち、1ドルを賭けると、賭け金の▲5%(▲0.05×100)の損失が発生し、0.95ドルが戻ってくる可能性が高い(期待値)
以上のように、当たる確率と配当との間には約5%の差があるのです。
この「賭けるといくら損するか」、賭け金に対して期待される損失割合をハウスエッジ(控除率)と呼びます。
これが、カジノの利益の源泉なのです。
カジノは有利なルール(配当)を定めることによって利益を計上しているのです。
大数の法則という理論
以上で試算したハウスエッジ(控除率)は、あくまで「理論上の確率」です。
しかし、サイコロを6回振って6回とも1が出ることがあるように(理論上はサイコロを6回振って1が出る確率は1/6)、理論上の確率通りに世の中は動きません。
よって、運の良い人はカジノで勝てるのです。
これは裏返すと、カジノ業者(胴元)も負けることがあるということです。
しかし、カジノ業者が「運が悪く倒産した」等の話題はあまり聞かないでしょう。むしろカジノ業者は「安定的に」利益を計上しているようです。
なぜ、カジノ業者は安定的に利益を計上できているのでしょうか。
それは、大数の法則によるのです。
大数の法則とは、簡単に言えば「サイコロを何回も、無限に振っていけば、出る数字は理論上の確率に近づく」ということです。
カジノは、プレイヤー(賭ける人)単位で見ると負けたり、勝ったりしています。
しかし、多数のプレイヤーが多数の賭けを行うことによって、カジノが勝つ確率は理論上に近づいていくのです。
カジノが、巨大で、24時間営業、入場料無料、宿泊料金無料等のようにしているのは、このためです。
全ては、大数の法則を働かせるために、多数のプレイヤーと多数の賭け回数を生み出すためなのです。
これがカジノが利用している大数の法則です。
なお、大数の法則を利用しているのはカジノだけではありません。
金融業は大数の法則を利用してきた業界の筆頭でしょう。
例えば、生命保険会社が販売している死亡保険は、一定数の集団(被保険者の集団)が存在することが前提となっています。その集団のうちの「誰が死亡するか」ということは問題ではなく、その集団のうちの「何人が死亡するか」をある程度予測できれば、死亡保険は成立します。
銀行も集団のうち何社が破綻するかを過去の実績等から予測し、金利を決定することで事業を成り立たせています。
所見
カジノは、実は利用者にとっては「親切な」ギャンブルです。
カジノにおけるルーレットの事例のようにカジノは5%程度しか胴元である運営事業者が持っていかないのに対して、競馬・競艇・競輪・オートレースは約25%が胴元の取り分となってしまっています。なお、宝くじ・TOTO(サッカーくじ)では約50%が胴元に取られます。パチンコは正確な数字が把握できませんが15%程度が胴元の利益と思われます。
カジノは良心的です。カジノは薄利多売で収益を上げるビジネスモデルなのです。
しかし、アインシュタインは「そこから金を盗みでもしない限り、ルーレットテーブルで勝つことなど出来はしない」との言葉を残したようです。
カジノもギャンブルである以上、利用者全体としては勝つことは出来ません。
筆者は個人的には他のギャンブルよりはカジノの方が「良い」と考えています。
何事も確率で測るのはロマンがないとは思いますが、カジノの方がマシなのです。
皆さんはどのように考えるでしょうか。
「それでもあなたはカジノに行きますか?」