銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

若い世代を動かすSDGsとESG金融とは

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ESGという用語をお聞きになったことがあるでしょう。

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったものがESGです。

ではSDGsという用語はどうでしょうか。近時はSDGsが使われることが多くなってきました。

環境については、スウェーデンの環境活動家であるグレタ・エルンマン・トゥーンベリ氏が注目を集めているのが記憶に新しいでしょう。筆者にとっては若い世代が「環境という軸ならば世界的に団結出来る」ことが分かり、非常に衝撃を受けました。

このように「ESG」や「SDGs」は人を団結し、動かす力を持っています。

今回はESG、SDGsと金融のつながりについて簡単に確認していきましょう。

 

SDGsとは

現在、世界的な潮流として、SDGs/ESG金融に関する取り組みが推進されており、わが国でも、同様の動きが徐々に拡大してきています。

SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略です。

「持続可能な開発目標」と訳され、2030年までに、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会などの諸目標を達成するための国際連合が主導する活動です。

17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。 SDGsは発展途上国のみならず、先進国が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本国としても積極的に取り組んでいることが公表されています。

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(出所:国連広報センターWebsite)

留意するべきはSGDsは決して環境を守るだけの活動ではありません。

現時点でも問題である貧困や飢餓、健康といった問題を解決するだけではなく、貧困等から脱するために教育を重視し、性の不平等からの脱却も目指しています。

そして、決してSDGsは発展途上国の問題を解決することだけを目標としていません。「働きがいと経済成長の両立」を一つのゴールとしているのはその表れです。クリーンなエネルギーを使い、住み続けられる町づくりを目指し、気候変動には具体的な対策を行っていかねばなりません。

このSGDsが策定された背景は、以下の国際的な課題認識です。 

我々は、持続可能な開発に対する大きな課題に直面している。依然として数十億人の人々が貧困のうちに生活し、尊厳のある生活を送れずにいる。国内的、国際的な不平等は増加している。機会、富及び権力の不均衡は甚だしい。ジェンダー平等は依然として鍵となる課題である。失業、とりわけ若年層の失業は主たる懸念である。地球規模の健康の脅威、より頻繁かつ甚大な自然災害、悪化する紛争、暴力的過激主義、テロリズムと関連する人道危機及び人々の強制的な移動は、過去数十年の開発の進展の多くを後戻りさせる恐れがある。天然資源の減少並びに、砂漠化、干ばつ、土壌悪化、淡水の欠乏及び生物多様性の喪失を含む環境の悪化による影響は、人類が直面する課題を増加し、悪化させる。我々の時代において、気候変動は最大の課題の一つであり、すべての国の持続可能な開発を達成するための能力に悪影響を及ぼす。世界的な気温の上昇、海面上昇、海洋の酸性化及びその他の気候変動の結果は、多くの後発開発途上国、小島嶼開発途上国を含む沿岸地帯及び低地帯の国々に深刻な影響を与えている。多くの国の存続と地球の生物維持システムが存続の危機に瀕している。

(出所:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030アジェンダ(仮訳)) 

SDGsは、我々人類が長期的に生存していけるように目標が作られています。筆者の理解でしかないかもしれませんが、 有限の地球環境・資源を可能な限り維持させること、そして、国・性別・世代間等での争いが起きることを回避することを目的にしているのです。

先進国と発展途上国、男性と女性(もしくは男性・女性とLGBT)、高齢者と若年者、富裕層と貧困層(もしくは富裕層と一般層以下)、経営者と従業員等、現在の世界には分断が見られます。

その一つの例が、グレタ・トゥーンベリ氏が代表するような若者の環境活動への取組です。現在、政治・経済を司っている(支配している)高齢者は、経済のために地球を壊しても困らないが、現在の延長戦上での経済活動・経済発展がもたらすであろう地球温暖化等は若者が受け継ぐ地球の環境を壊し、若者の生存を危うくすると訴えているのです。これは正論です。

この若者の環境問題への取り組みは、大きなうねり・団結となっています。筆者は若い世代がここまで全世界的に団結出来るとは思いませんでした。しかし、考えてみれば人間にとって必要である衣食住のベースは地球環境の確保です。最も重要な基礎なのです。そして、異常気象が続いているように感じられる現在は危機感を覚えるに十分なのでしょう。

なお、SDGsに対する日本政府の取組については、以下の資料が公表されています。SDGsとは非常に広い領域に渡ることが分かるでしょう。

<ご参考:日本政府の取組> 

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/2001sdgs_gaiyou.pdf

 

ESG金融とは

ESG金融とは、企業分析・評価を行ううえで長期的な視点を重視し、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)情報を考慮した投融資行動をとることを求める取り組み(出所:日本銀行「SDGs/ESG金融に関する金融機関の取り組み」)です。

これもSDGsを達成するための枠組みの一つと言えるでしょう。SGDsが目指すものも、ESG金融が目指すものも、究極的なゴールは人類の持続的な存続という点で同様です。

気候変動については金融システムも無視することは出来ません。

2015年9月、FSB・カーニー議長は「気候変動は、①物理的リスク、②賠償責任リスク、 ③移行リスクの3つの経路を通じて、金融システムの安定を損なうおそれがある」と講演しています。

<物理的リスク>
現在の保険負債への影響と、財を損傷したり、貿易を混乱させる洪水や暴風雨などの気候・天候関連事象から生じる金融資産価値への影響

<賠償責任リスク>
気候変動の影響から損失を受けた当事者が、彼らがそれに責任を負うべきとする者からの補償を求める場合に、将来発生し得る影響

<移行リスク>
低炭素経済への移行に伴い生じ得る金融リスク(資産価値の再評価による損失発生リスク)

これは非常に分かりやすい指摘でしょう。

以下にあるようにESG「投資」においては、石炭関連企業についての投資から撤退する動きがあります。温室効果ガスを排出する化石燃料への投資・関連事業を行っている企業等は世界の機関投資家の投資対象から外れる可能性が出てきているのです。

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(出所 環境省「ESG金融懇談会 参考資料集」平成30年7月27日(金)) 

ESG金融の領域は広大ですが、その中で現状では以下のような動きが出てきています。 まだまだ実効性に乏しいとも思えますが、今後も拡充されていくことは間違いないでしょう。

<地域資源の活用>
・「再生可能エネルギーを軸とした新産業の創出」という経営戦略のもと、風力発電事業会社を設立し、同事業に参入。これにプロジェクトファイナンスを供与。

<プロジェクト ファイナンス>
・グリーンファイナンス推進機構が出資する再生可能エネルギー事業(風力、バイオマス、地熱・温泉熱等)に対し、地元金融機関として協調融資。

<寄付型 私募債/ローン>
・社債発行手数料/金利の一部(例えば、発行額の0.2%相当額)を、発行企業/借入企業が指定する学校教育支援、児童福祉支援、就労支援、医療・健康保健支援、環境保全、地方創生などに取り組む学校や施設、自治体等の団体に寄付・物品寄贈する私募債の引受/融資。

<環境格付私募債>
・環境保全に積極的に取り組む企業に対し、独自の環境格付(CO2排出量の削減、環境配慮製品・サービスの実績、リサイクル、コンプライアンス等により評点化)に基づき、金利を優遇する私募債を引受。

<利子優遇融資>
・成長が見込まれる創造的事業や、持続可能な社会づくりに貢献可能な社会的課題の解決につながる事業(中小企業・個人)、ESG/SDGsに取り組む法人・個人に対し、金利を優遇して融資。

<震災対応融資>
・震災発生に備えた事業継続対策(BCP)等に取り組む事業者、被災した事業者や農家等に対し、金利を優遇して融資。震災発生時に元本の全部又は一部を免除する融資。

・罹災者に対し、住宅の新築・修繕等にかかる資金を金利を優遇して融資。

<ESG投資信託>
・ESG課題等への取り組みを通じて企業価値の向上が期待される企業の株式に投資する投資信託商品の取扱い。自行が受け取る信託報酬や販売手数料等を社会課題の解決に取り組む団体等に寄付。

<グリーンボンド>
・再生可能エネルギー・省エネルギー事業など、地球環境への貢献が期待されるプロジェクトに資金使途を制限した債券の発行や引受。

<寄付型預金>
・子育て支援、環境保全、災害復興、スポーツ振興などに取り組む団体等に対し、預金元本の一部を自行が寄付したり、預金者が受け取る利息の一部を寄付する預金。

<ポジティブ・インパクト・ファイナンス>
・国連環境計画金融イニシアティブの「ポジティブ・インパクト金融原則」に即した資金使途を特定しない事業会社向け融資。

(出所:日本銀行「SDGs/ESG金融に関する金融機関の取り組み」)

また、環境という観点ではメガバンクが以下の方針を出してきています。

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 (出所 環境省「ESG金融懇談会 参考資料集」平成30年7月27日(金)) 

SDGsとESG金融は今後は無視できない潮流となっていきそうです。

そして、それを積極的に後押しするのは、「自分達自身の存続が脅かされている」若い世代となるでしょう。

 

まとめ

以上、SDGsとESG金融について見てきました。両者とも目指すゴールは「人類の存続」と言って良いでしょう。

近年、全世界的に認識が共有されてきたのは「地球という環境には限界がある」ということです。当たり前と言えば当たり前でしょう。しかし、この共通認識は、若い世代を団結させることになりました。若い世代にとっては「生存権」の主張と言えます。

この動きは、投融資の概念をリスク・リターンの二次元から社会的インパクトを加えた三次元へ拡張し、新たな投融資合理性を構築することを迫ってもいます。

金融機関は人類の存続、地球環境の維持のみならず、SDGsが目指す様々な社会課題に配慮していかなければ、大きな損失を抱えることになるでしょう。

石炭火力発電所の建設に融資していても、石炭での発電は認められなくなるかもしれません。

ダイバーシティを無視する企業は、取引先から取引を忌避されるようになり急激に業績が悪化するかもしれません。

水産業は漁獲量の大幅な制限という問題に直面するかもしれません。

児童労働によって安い賃金で製品を製造させていたアパレル企業は、不買運動にさらされるかもしれません。

SDGsとESG金融は、金融の世界を変えるだけでなく、企業の行動をも変えようとしています。

このような動きは、金融機関にとっては儲かる領域が減少し、マイナスのインパクトをもたらすのでしょうか。

この問いに対しては、現時点では何とも言えません。

但し、SDGs達成に向けての資金が大きく不足していること自体は間違いありません。そこに金融機関にとっての新たなビジネスチャンスがあることも想定出来ます。今後のSDGsそしてESG金融の動きが金融機関にとって(そして投資家にとって)は、非常に無視できないものになるでしょう。

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(出所 環境省「ESG金融懇談会 参考資料集」平成30年7月27日(金))