銀行員のための教科書

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「日本は原発を動かすということで良いんですよね?」という話

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政府が2030年度時点の温暖化ガスの排出削減目標を7割以上引き上げ、2013年度比46%減としました。

元々の2013年度比26%減から比べると大幅な上積みです。

この目標は本当に実現可能なのでしょうか。そして、この目標は何を意味するのでしょうか。

今回は温暖化ガス排出量を2013年度比46%減とする政府目標について簡単に確認していきます。

 

日本における部門別CO2排出量

まず、日本全体で見た時に、部門別CO2排出量はどのようになっているのかを確認しましょう。目標達成のために、どの分野を削減しなければならないか、という観点が必要でしょう。

<CO2の部門別排出量(電気・熱配分前)の推移>

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(出所 環境省「2019年度(令和元年度)温室効果ガス排出量/全体版」)

発電及び熱発生に伴うCO2排出量を電気及び熱の生産者側の排出として計上する集計方法における部門別CO2排出量が上記グラフです。

日本全体のCO2排出量のうち、発電所を中心とするエネルギー部門は約4割を占めていることが分かります。

すわなち、誤解を恐れずに言えば、日本の温暖化ガス排出量削減目標の達成可否は、発電所から出るCO2をいかに削減できるかに依拠していることになります。 (もちろん工場等の産業部門や運輸部門の削減も大事ではあります)

 

日本における発電電力量

では、日本における発電所はどのような「方式」で発電しているのでしょうか。

以下は発電電力量におけるその燃料毎の推移です。

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(出所 資源エネルギー庁「令和元年度(2019年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」)

2019年度の発電電力量は前年度比2.6%減の10,238億kWhでした。

電源構成を見ると、天然ガスが同226億kWh減となるなど化石燃料火力発電はいずれも減少しています。

原子力は新たに再稼働したプラントがなく同12億kWh減、水力は2年連続の減少となる同14億kWh減でした。

固定価格買取制度による促進効果で太陽光は同63億kWh増、バイオマスは同25億kWh増となっています。

ただ、ここで見て分かることは、太陽光が増えてきたとは言っても、日本は天然ガスと石炭で発電をしているというまぎれもない事実です。

 

日本の電源構成比

日本の発電方式(燃料)による電源構成が以下の図です。 

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(出所 資源エネルギー庁「令和元年度(2019年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」)

電源構成比は、化石燃料全体では76%となり、再生可能エネルギー(水力を除く)全体では10%、これに原子力と水力を加えたゼロエミッション電源全体では24%となっています。

とにかく日本は東日本大震災以降、原子力が止まり、化石燃料で発電してきたのです。太陽光発電等の再生可能エネルギーは全体の1割しかありません。 

以下は2013年度から2019年度までの発電電力量の増減です。 

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(出所 資源エネルギー庁「令和元年度(2019年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」)

2013年度と比較すると、発電電力量は全体では5.6%減となりました。原子力発電が586%増、太陽光が435%増となる一方、石油等は56.6%減、天然ガスは14.3%減となっています。

日本は、東日本大震災前までは天然ガス(全体の29%)、石炭(全体の28%)、原子力(全体の25%)で発電してきました。 

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(出所 資源エネルギー庁「令和元年度(2019年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」)

太陽光、風力、地熱、水力等の再生可能エネルギーによる発電は、まだまだ主力電源にはなりません。

そして、再生可能エネルギーの問題は、発電量が大きく変動することであり、安定的ではなく、そして発電したとしても蓄電できないこと(もしくは蓄電するにはコストがかかり過ぎること)です。

 

所見

火力発電は、足下では、発電電力量の7割以上を占める「供給力」として重要な役割を果たしており、今後も非効率火力発電を減少させつつ、不足する供給力を賄う存在となっていかざるを得ません。脱炭素化に向けた過渡期において、当面は、火力(石炭、天然ガス等)はトランジション(移行)を支える重要な役割を持つことは誰にも否定できないはずです。

2013年度比46%という水準は、重要な電源である石炭火力発電をゼロにして、かつ再生可能エネルギーを大幅に増やしても達成できるか不透明です。以下の記事が参考になります。

日本政府も現行のエネルギー基本計画で、再生エネと原子力の構成比を30年時点で42~46%まで増やすとの目標を掲げている。ただ、自然エネルギー財団の試算では、この計画を達成できてもエネルギー由来のCO2の削減率は13年度比22%にとどまる。再生エネの構成比を45%まで増やし、石炭火力発電をゼロにしてようやく47%減らせるという。 

(出所 日本経済新聞 2021年4月23日「脱炭素「産業革新」迫る 電源構成の組み替え必須に」)

しかしながら、温暖化ガス排出量削減目標実現のために、国内のエネルギー需要の大幅削減という禁じ手を使うことになれば、当然ながらCO2排出量の多い製造業が標的になります。やり方を間違えれば「国内から製造業が消える」、すなわち雇用が国内からさらに失われることだってあるのです。

再生可能エネルギーはこれからも増加しますが、太陽光発電の増加は石炭火力を置き換えるほどには強くなく、洋上風力は2030年頃に稼働し始めると言われています。

したがって、政府が今般発表した2030年度における2013年度比46%の温暖化ガス排出量削減を達成するための現実解は、恐らく原子力発電を再稼働させることでしょう。

筆者は、政府の目標を聞いた際に、「日本は原発を動かす」と政治が強くコミットしたとしか考えられませんでした。それ以外の現実解が見つからないからです。

この点、原発から目をそらすことなく、きちんと議論していく必要があるのではないでしょうか。

エネルギー政策は、日本にとって重要な政策です。ほとんどの政策に優先します。そして、脱炭素の流れは、欧州を発信源としながら、自動車産業を含めた産業間、そして国家間の「戦争」であり、日本はしたたかに戦う必要があります。

日本が大東亜戦争と呼ばれる戦争に突入していった主な要因の一つは、石油というエネルギーを求めたことにあります。エネルギーは今も昔も国家戦略そのものであり、それを獲得するために国家間は戦争をしているようなものです。

脱炭素、温暖化ガス排出量削減「戦争」においても日本が敗戦しないように、現実的な答えを国民の多くと共有することが望まれるものと思います。