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相場下落時には「自分は非合理」と認識すべし~貧乏人から脱却できない理由~

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新型コロナウィルスの感染拡大により株式市場が不安定になっています。

2月3日の休暇明けの株式市場はどこも大荒れとなる可能性があります。

相場が荒れている時には、投資家は様々なことを思い悩むものです。

今回は、相場下落時に「ヒト」はどのような行動を取りがちなのか、行動経済学で研究されてきたことについて簡単に考察してみましょう。

 

行動経済学とは

行動経済学とは、心理学の研究を応用し、人間の心理や感情的な側面をベースに分析される経済学です。従来の伝統的な経済学では、人間は常に合理的な行動を取ると仮定されていました。一方、行動経済学では、人間は必ずしも合理的な行動をするわけではないことを前提にしています。

従来の経済学は、人間は経済的合理性に基づいて行動し、自己利益を追求する性質を持つという前提の下で成り立ちます。これは経済をモデル化しやすくするためです。

ところが、我々「ヒト」は合理益な行動ばかりをする訳ではありません。

行動経済学の中には、メンタルアカウンティング(Mental Accounting)という概念があります。これは、人がお金に関して何か意思決定をする際に、様々なことを勘案して合理的に判断するのではなく、狭いフレームの中で決定してしまうことをいいます。お金を稼いだ方法や、お金を使う目的によって無意識に、非合理にお金の重要度を分類してしまう傾向を我々は持っているのです。

少し例を出しましょう。

競馬の最終レースでは大穴へ掛ける人が統計的に多いとされています。これは、人が1日の負けという小さなフレームで収支を見ており、1日の損を取り戻そうとして投機的な行動に出ているとされています。

また、普段は100円ショップを活用し、様々な節約を10円単位、1円単位で意識している人がいたとします。そのような「合理的な」人でも、家を買う時には、まだ使えるはずの自動車を買い替えたり、同じ性能なのに数万円高いエアコンをカッコよさそうという理由だけで購入したりします。

そして、給料として稼いだお金は大事に使いますが、ギャンブルや投資で稼いだお金は、派手に使ってしまうという例もあります。

本来、お金に色はありません。どんな方法で入手したとしても、どんな使い道だろうと、お金の価値は変わりません。しかし、人間は心の会計として、お金を色分けしてしまいます。人間は非合理なのです。

このような研究をしてきたのが行動経済学です。

 

行動経済学から学ぶ相場下落時の非合理

上記で紹介してきた行動経済学に「プロスペクト理論」というものがあります。これは、「人は、利益を得る場面では確実さを優先し、損失を被る場面では回避(先送り)を優先する」という理論です。

一つの例を考えてみましょう。

  • 選択肢A:100万円が無条件で手に入る。
  • 選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。

上記2つの選択肢はどちらが価値が高いと感じるでしょうか。

答えはどちらも価値は同じです。

  • 選択肢A:100万円×100%=100万円
  • 選択肢B:200万円×50%=100万円

経済学が仮定する合理的な人だったならば、上記の結論を出した上で、その通りに行動するでしょう。

しかし、筆者ならば(理屈は分かっていても)上記の選択肢A=確実に100万円が手に入る選択肢を選んでしまいます。

このプロスペクト理論では「人は『もうかる喜び』より『損する苦痛』のほうがはるかに大きい」とも言えます。選択肢Bを選んで実際に「200万円」(100万円ではない)が手に入らなかったら非常に後悔するでしょう。選択肢Aである確実な100万円を選んだ際には「追加の100万円を得られる可能性を捨てている」のにです。

このプロスペクト理論が指し示している株式市場における「人の傾向」は、以下です。

  • 利益が得られそうだと危機回避的な安定志向になり、すぐに利益を確定しようとする
  • 損失が出そうだと危機追求的なリスクテイク志向になり、損失を先送りしようとする

投資においての鉄則は、損は少なく、利益は多くです。(これは商売一般にも該当するでしょう)

ところが、人間の性向は「利益は小さく、損は多く」になりがちなのです。「人は投資に向いていない」と言えるかもしれません。

株式相場に向き合う上で、我々が認識しておく必要がある「人の傾向」は経済行動学によると主に以下となります。 

  • 自信過剰:自分の運用能力に自信を持ちすぎ、過剰に取引して損をしてしまう。
  • 後悔回避:後悔するのが嫌で、損切りが出来ない。
  • 損失回避:利益と損失では同じ金額でも損失の方が大きく感じるため、損失を先送りしてしまう。
  • 主観確率:めったに起こらないことなのに自分だけには「本来の確率よりも頻繁に起こる」と思ってしまう。

このような人間としての傾向を把握していれば、株式相場の下落時にどのように行動すべきか、判断の軸が出来るのではないでしょうか。

尚、以下は筆者が強く影響を受けたダニエル・カーネマン氏の著作です。行動経済学を分かりやすく学ぶには最高だと思います。個人的には必読だと思っています。 

 

所見

行動経済学が明らかにしてきたように、我々は、投資では「損をする行動を取りがち」であることは間違いありません。これは人間の脳の傾向とも言えます。普通に(思う通りに)行動すると、我々は高い確率で損をするのです(もしくは儲けが少ないのです)。
この非合理な行動を排除するためには、どうすれば良いのでしょうか。我々は、どうやったら「投資の貧乏人」から脱却できるのでしょうか。
筆者は、投資する前に「損失確定のライン」を事前に設けておくことが非常に効果的ではないかと考えています。(もちろん「利益確定ライン」も設けておけると良いでしょう)
行動経済学から導かれるのは、損失を先送りする人間の傾向です。
相場下落時には、損失を限定できず、いつまでも株を持ち続け、塩漬けにしてしまった経験はないでしょうか。 相場は必ず戻るとは限りません。期待だけで売買するのは傷口を広げることになる可能性があります。
例えば、100円の株価が90円に下落(=▲10%)したとします。では、この株式は、次に10%上昇すれば問題ないでしょうか。90円の10%は9円です。下落した段階から10%上昇しても元の株価に戻ったことにはなりません。(11%上昇しても99円です)
一度、相場で大きなダメージを受けると復活するのは非常に厳しい(その時点から非常に高い上昇率が求められる)と言えます。これは、いくら非合理な人間であったとしても、マーケットで勝ち残りたいのであれbあ、何とか回避しなければなりません。
筆者がジャック・D・シュワッガーの著作であるマーケットの魔術師シリーズ(名著です)を読んで気付いたのは、伝説のトレーダー達の投資戦略は様々であったとしても「損切り」の重要性については比較的共通していたという認識です。

我々は未来を見通すことは出来ません。しかし、足元の損失は限定出来ます。

損切りのラインを決めておくことこそ、相場下落時に意識すべきことなのではないでしょうか。

もちろん、自らの資産における投資の割合、投資に対する時間軸によって、損切りの水準は個々に変わるでしょう。自らを不合理と認識した上で、少しでも冷静に相場に向き合いましょう。