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LINEの2019年決算とZホールディングスとの統合の真の勝者

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LINEの2019年12月期決算が発表されました。

大幅な赤字決算となっています。

日本国民の大多数が使用しているLINEに何が起こっているのでしょうか。

そして、Yahooを傘下に持つZホールディングスと統合する背景はどのようなものでしょうか。

今回はLINEの決算について簡単に考察しましょう。

 

決算概要

まずは、LINEの2019年12月期決算についての概要を確認しましょう。

以下は日経新聞の記事の引用となります。

LINEの前期、468億円の最終赤字 戦略事業の先行投資が重荷
2020年1月29日 日経新聞

LINEが29日発表した2019年12月期(前期)の連結決算(国際会計基準)は、最終損益が468億円の赤字(前の期は37億円の赤字)だった。スマートフォン決済サービス「LINEペイ」など戦略事業の開発やマーケティング費など先行投資が重荷となった。

売上高にあたる売上収益は10%増の2274億円だった。広告の増加がけん引した。一方、営業損益は389億円の赤字(前の期は161億円の黒字)だった。

広告サービスなどを含むコア事業の売上収益は10%増の1967億円、営業利益は19%増の315億円だった。戦略事業の売上収益は7%増の307億円だった。営業損益は665億円の赤字と、前の期の349億円から赤字幅が広がった。

(以下略)

簡単に言えば、本業は好調ながら、戦略事業(LINEペイ等)の費用がかさみ大幅な赤字になっているということになります。

 

決算のポイント

日本国民の生活に密着しているLINEですが、実際の決算がどのような状況にあるかを普段意識してLINEを使っている方は少数でしょう。

LINEは前述の通り赤字であり、更なる飛躍を目指してYahooを傘下に持つZホールディングスとの経営統合を選択しました。

LINEの決算のポイントは以下となります。

  • 本業の収益(売上)は1割伸びているが、成長は鈍化している
  • 本業は広告の好調で増益となっており、本業の利益は確保している
  • 利用者数は増加しているものの、多額にマーケティング費用をかけている効果が無いのか、インドネシアでは逆に減少している
  • 赤字要因は、人件費の増加+127億円、マーケティング費用増加+127億円、外注費の増加+100億円、減価償却費の増加+116億円等、新規事業等を推し進める中でのコスト増加であり、一般的に言えば前向き
  • ただし、コスト増が現時点では収益に結びついていない
  • 大幅赤字となっても現預金が2,173億円あり、企業の存続には問題ない(尚、将来償還しなければならない社債が1,428億円あり)

以上がLINEの決算状況です。

筆者からすると、成長が想定以上に鈍化しています。様々な事業を立ち上げてきた割には、LINEの経営陣は株主の期待を裏切ってきたとも言えます。

そして収益面だけから見るとLINEペイは短期的には完全に失敗ではないでしょうか。当初から競合他社との我慢比べであったことは間違いありませんが、勝ち残ったとしても収益化の道筋が見えません。

 

経営統合について

筆者はLINEという企業の経営陣は、圧倒的なユーザー数という事業基盤があるにも関わらず、その基盤を収益に結びつけることが出来なかったと認識しています。

本業の成長が鈍化していく中、新たな事業であったLINEモバイル等の事業は実質的に切り離し、LINEペイも利用者だけが得をする形で赤字を出しています。結果論でしかありませんが、株主の成長期待に応えてはいないのです。

それでもLINEの株式時価総額は1兆3千億円程度あります。成長性を株主は期待しているということでしょう。

一方で、経営統合の相手先であるZホールディングスの時価総額は2兆1千億円程度です。

これだけの時価総額の開きがあるにも関わらず、両社は対等で統合することで合意しました。

LINEは赤字ですので株式の評価は難しいですが、強いて使うならばPSRが参考とはなります。

 

PSR(Price Sales Ratio)=時価総額 ÷ 売上高

PSRとはPriceto SalesRateの略で、日本語では株価売上高倍率といい、時価総額(株価×発行枚数で表すマーケットにおいての価値)を年間の売上高で割ったものです。売上高の増加が株主価値につながりやすい新興の成長企業の株価水準を判断する指標と利用されることがあります。売り上げの同じ2社を比較したときは、PSRが高いほど株価は割高といえます。従来のPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)などの指標との併用が一般的です。

(出所 東海東京証券 証券用語集)

このPSRで見ると、LINEは5.7倍に対してZホールディングスは2.1倍です。

LINEの方が成長性を評価されている、言葉を換えれば「割高」ということになります。

株式時価総額の観点から見ると、両社の経営統合については、LINEが有利な統合条件です。

それだけZホールディングスはLINEと一緒になりたかったということでしょう。

 

所見

LINEの決算は、成長が鈍化しており、戦略事業も現状ではうまくいっていません。LINEペイを続けていれば会社の屋台骨が揺らぐ可能性もあったでしょう。LINEの経営陣は、事業を成長させキャッシュを生むという観点ではうまく経営出来ていません。

一方で、LINEとZホールディングスとの経営統合の条件を見れば、LINEの経営陣は非常に良い条件を勝ち取ったと筆者は考えます。

LINEからするとLINEペイでの競合との消耗合戦を回避出来るでしょうし、基盤はあるけれども収益化出来ない現状を、収益化実績がありツールを持つZホールディングスとの協働で改善出来る可能性が出てきます。

ZホールディングスにとってもLINEの顧客基盤自体は喉から手が出るほど欲しかったのでしょう。

LINEの経営陣は、Zホールディングスに実質的には高値で自社の株式を売ることに成功しました。今までの経営施策がうまくいかなかったことを挽回する一手だったと思います。

今回の経営統合の勝者は間違いなくLINEの株主です。そもそもLINE「単独でも割高」だった株式を、価値の高いZホールディングスとの「対等」統合とすることが出来たからです。

一方でZホールディングスの経営陣と株主は高い買い物をしたLINEとの相乗効果を発揮しなければ対等統合の意味がありません。中長期的には良い統合となる可能性は当然にありますが、目の前の事象だけを見れば割高な買い物をしたということになるでしょう。