老後2,000万円問題、公的年金制度への不信、大企業の早期退職者募集、経団連による日本型雇用の否定等、中長期での生活安定が不安視されているのが、今の日本でしょう。
この不安から脱却するために、もしくは、より良い生活を求めて、宝くじで人生を逆転させたくなることは無いでしょうか。
今回は、根強い人気の宝くじについて考察します。
宝くじはギャンブルなのか?
本題に入る前に、少し考えてみたいことがあります。
それは、宝くじはギャンブルなのか、という点です。まず、ギャンブルの定義を確認しましょう。
<ギャンブル>
文化・法律で「ギャンブル」の言葉が持つ意味が異なるため、現在は、「物やお金など価値あるものを賭ける行為」またはそのような行為を商業化したものは「ギャンブリング」または「ゲーミング」と総称されている。「ギャンブル」は日本語のカタカナ俗語であり、諸外国ではgamblingが用いられ、日本人がイメージするギャンブリング=賭博という狭いとらえ方はされていない。また、ギャンブリング・ゲーミングは、特定の遊びの種類を指すものではなく「賭け事」「お金を賭ける娯楽」及びその行為・習慣を広く指す用語である。例えば、パチンコは、国内法では遊技。世界的には、一部に賭博性を持ったゲームであり、分類上はギャンブリングになる。
(出典 一般社団法人RCPGホームページ)
賭けた(投資した)お金をすべて失うリスクを覚悟しながら、確率(勝率)を信じて一獲千金を狙うというもの
(出典 ロイターニュースサイト)
ギャンブルというのは誰もが分からない未来の事象に対してお金をかけ、確率(運)で勝ち負けがその場で決まるゲームです。
例えば、スロットがいつ当たるかは誰にも分かりません。ルーレットで次に出るのが赤か黒かも誰にもわかりません。
ギャンブルは、複数人以上の人間で、勝負事にお金を賭けて、勝者が一定割合の配分をうけるものです。
ただし、その配分額は賭け金の総額のうち、主催者が賭けをする場の運営料(てら銭)を取った後の金額となります。
賭け金の総額よりも少なくなった残りの金額を、参加者が取り合う仕組みといえます。
確率を考慮すると、賭けを続けていくうちに参加者は必ず損する仕組みです(主催者だけが儲かります)。
すなわち、参加者全体でみれば、ギャンブルは利益より損失の方が大きい「マイナス・サム」のゲームです。
このように考えると、宝くじは立派なギャンブルです。宝くじは、複数人が買い、抽選により当たりが決まり、自治体(主催者)の取り分を除いた額が、当選者に支払われます。いわば、スロットやルーレットと変わりません。
宝くじをギャンブルというとイメージが変わるのではないでしょうか。
宝くじとは
宝くじ(たからくじ)は、日本において当せん金付証票法に基づき発行される「富くじ」です。
元々は神社仏閣の修繕費を集めるために行われた遊びとされています。
この宝くじは、法律によって還元率は50%未満という低さに設定されています。
すなわち、1,000円分の宝くじを買うと、払い戻しは500円未満にしかなりません。
例えば「ドリームジャンボ宝くじ」(第787回 全国自治宝くじ)の当せん金・本数は以下の通りです。(13ユニットの販売となった場合)
- 一等 300,000,000円、13本、総額3,900,000,000円
- 一等前後賞 100,000,000円、26本、総額2,600,000,000円
- 一等の組違い賞 100,000円、1,287本、総額128,700,000円
- 二等 10,000,000円、39本、総額390,000,000円
- 三等 1,000,000円、780本、総額780,000,000円
- 四等 100,000円、26,000本、総額2,600,000,000円
- 五等 10,000円、130,000本、総額1,300,000,000円
- 六等 3,000円、1,300,000本、総額3,900,000,000
- 七等 300円、13,000,000本、総額3,900,000,000円
販売本数1億3千万本、総額390億円の場合で、払い戻し金額は195億円(正確には19,498,700,000円)です。還元率は50%未満なのです。
当選確率では、一等は1,000万分の一となります。
簡単に言えば、当選確率というのは、天文学的な低さの確率であり「間違いなく当たらない」と断言出来るレベルです。
はっきりしていることは、宝くじは自治体だけが儲かるようになっています。宝くじを買うことは、ほぼ間違いなく「損をすること」と同義です。
宝くじで貧乏人から脱却しようとしても、実際には自治体からさらにむしり取られているのです。
ちなみに日本のギャンブルの中で、最も「ぼったくり商品」であるのが宝くじです。
パチンコ・パチスロの還元率は80~85%、競馬が70~80%、ボートレース(競艇)・競輪が75%、オートレースが70%となり、いわゆる典型的なギャンブルの方が、宝くじよりも還元率が高いのです。
所見
宝くじの年間の販売実績額は8,046億円(平成30年度)です。その内訳は、以下の通りです。
宝くじの販売額のうち、38%程度が自治体に納められています。そして、販売に関する経費も14%あるのです。
宝くじには確かに夢はあります。
宝くじの公式サイトで紹介されている平成30年度当選者誕生ペース(10万円以上)は以下の通りです。
- 10万円以上の誕生ペース=1日に853人、2分に1人
- 100万円以上の誕生ペース=1日に42人、34分に1人
- 1,000万円以上の誕生ペース=1日に6人、4時間に1人
- 1億円以上の誕生ペース=1日に0.8人、30時間に1人
このように見ると当選者は続々と誕生しているように感じます。しかし、前述の通り当選する確率はほぼゼロです。飛行機に毎日継続して何百年も乗り続け、航空事故に出会う確率よりも当選確率は低いのです。
また、行動経済学のプロスペクト理論では、微小確率の過大評価という考えがあります。ほぼ確実に当たらない方を過大に評価してしまう人間の傾向(クセ)があるのです。自分だけは宝くじが当たるかもしれないと思ってしまうのも、その一つです。私たちは伝統的な経済学が想定するよりも「合理的ではなく、賢くもない」のです。
宝くじは、そもそも自治体への寄付のような側面が強いものです。宝くじの収益金によって福祉が充実し、生活がしやすくなります。宝くじのそもそもの成り立ちも、神社仏閣の修繕費を集めるところから始まっています。すなわち公共事業のために使われていたのです。
宝くじを買うということは、自治体に追加で納税もしくは寄付をしていることに等しいと言えるでしょう。そこまで納得しているならば宝くじを買うのも良いでしょう。
しかし、我々は「クセとして」宝くじに夢を見がちです。そして、その夢はほぼ間違いなく自分には実現しません。冷静に、そして合理的に考えるのであれば、我々が人生の逆転を宝くじに賭けるには、確率が低すぎるのです。
貧乏人から脱却するには、夢を見ず、宝くじではなく、他のことにお金を使った方が合理的なのです。株式への投資等がまさに合理的と言えるのではないでしょうか。