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ソフトバンクGがエヌビディア株下落をヘッジしたカラー取引とは?

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ソフトバンクグループが2019年3月期3Q(2018年4~12月)決算を発表しました。

この決算では、投資先の株価下落により厳しい決算が予想されていましたが、デリバティブ取引によりある程度損失を回避していたことが発表されました。

今回は、ソフトバンクグループが行っていたデリバティブ取引について簡単に確認しましょう。

 

決算概要

まずは、ソフトバンクグループの決算の概要を掴みましょう。以下で新聞記事を引用します。

ソフトバンクG、逆風下の最高益 2018年4~12月期
2019/02/06 日経新聞
 投資グループに変身したソフトバンクグループ(SBG)が6日、株安の逆風下で最高益決算を発表した。2018年4~12月期の連結決算(国際会計基準)は最終的なもうけを示す純利益が1兆5383億円と前年同期比5割増えた。投資先の株価下落で損失が発生したがデリバティブ(金融派生商品)取引を駆使し補った。

(中略)
 営業利益も62%増の1兆8590億円と過去最高。けん引役が17年に立ち上げたいわゆる「10兆円ファンド」、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)だ。ファンドの事業利益は8087億円と前年同期比3倍に拡大した。
 発表前の投資家の見立ては逆だった。事業環境は米利上げや米中貿易摩擦の荒波の中。10~12月に進んだ株安でファンドが足を引っ張り、全体の利益を押し下げる構図が予想されていた。
 代表例がファンドの主要投資先、米半導体大手のエヌビディアだ。18年12月末の株価は9月末の半分に下落。時価総額は約10兆円減少した。SBGにも数千億円規模の損失発生が予期された。
 ところが蓋を開けてみるとファンド事業は10~12月も1763億円の利益を上げた。エヌビディアの評価損は4473億円に達したが、未上場のベンチャー企業の価値増大の勢いが上回り補った。SVFの出資先約70社の多数は人工知能(AI)関連のベンチャー企業が占める。
 さらに今回、効果を発揮したのがデリバティブによる「保険」だ。
 SBGはアリババ集団やエヌビディアなど主要投資先に対し、一定以上の値上がり益を放棄する代わり下落時に強さを発揮するデリバティブ取引を組み合わせていた。営業外損益の段階ではデリバティブ取引関連が巨額の利益を生み、株式評価損の相当分を相殺した。
 SBGは1月、エヌビディア株を全株売却。結局、全期間を通じてみれば巨額の利益を得て投資を回収した。

(以下略)

ソフトバンクグループは今や投資会社です。

そして、運営するファンドでは、主要投資先として米半導体大手のエヌビディアがありました。このエヌビディアの18年12月末の株価は9月末の半分に下落しておりソフトバンクグループにも数千億円規模の損失発生が予想されていました。

しかし、決算発表ではエヌビディア等の株価下落インパクトがかなり薄まっていることが判明しました。

この要因についてはソフトバンクグループの決算発表資料でかなりのページを割いて説明されています。

2018年10~12月にかけての株価下落によりエヌビディア株式評価損は▲40億ドルとなっています。

しかし、「カラー取引」というデリバティブ取引により、利益が29億ドル発生し、ネットでの損失は▲11億ドルとなっています。

この取引の効果もあり、エヌビディア株式への投資は多額の利益をもたらしました(株式は既に売却済)。

では、ソフトバンクグループが行ったカラー取引とはどのようなものなのでしょうか。

 

カラー取引

カラー取引は、通常は金利や通貨についての取引を指すことが多いでしょう。ただし、今回は株式を対象としています。

基本的には、カラー取引とは、キャップ(上限を設ける)とフロア(下限を設ける)の売り買いを組み合わせたデリバティブ取引をいいます。

金利の場合、キャップの買いにフロアの売りを組み合わせ、金利の上限と下限を同時に設定します。金利の下限が設定されることで、一定以上の金利低下メリットは放棄することになりますが、一方で当初に支払うオプション料(プレミアム=いわゆる保険料)は、フロアの売りによるオプション料の受け入れで相殺され、通常のキャップの買いに比べてコストが安くなるというメリットがあります。

金利の低下が想定内に収まるのであれば、金利上昇リスクの有効なヘッジとなるのです。

 

一方で、今回のソフトバンクグループにおけるカラー取引は株式を対象としています。

詳細な仕組みは分かりませんが、基本的には以下の取引となっているものと想定出来ます。

まずはプットオプションの買いがベースにあるということです。

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(出所 金融広報中央委員会「知るぽると」)

今回の取引の基本は、オプション取引を用いて現在保有している資産の値下がりリスクに対処することが主です。株式を保有していて将来値下がりが予想される場合には、市場の株価が将来値下がりしたときに利益が出るプットオプションを買い、リスクヘッジする取引は一般的です(この場合、保有株式の値下がりによる損失をプットオプションでの利益が埋め合わせる形となります)。

この取引をベースに、更にコストを抑えるためにコールオプションの売りを組み合わせます。この取引はゼロ・コスト・オプションと呼ばれますが、カラー取引とも言われます。

イメージ図は以下の通りです。


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(出所 金融広報中央委員会「知るぽると」)

プットオプションの買いで支払うプレミアム(いわゆる保険料)と、コールオプションの売りで受け取るプレミアムが同額であれば、2つが相殺されて実質的にプレミアムのコストをかけずにすみます。

これがコストをあまりかけずに、株価が値下がりしたときに利益を得られる取引です。

ただし、この取引にもリスクはあり、予想に反し株価が上昇すると、損失が発生し、この損失は株価上昇につれて無制限に拡大することになります。

 

なぜソフトバンクグループはこのようなカラー取引を行っていたのでしょうか。

筆者はソフトバンクグループのファンド規模が大きいことが要因だと考えます。

ファンドが大株主であるため、株式を一度に売りたくても、マーケットで取引される株数に比して売却株数が多いため、株価の下落要因になります。

そのため、デリバティブ取引を駆使して最初に下落リスクを回避し、後からマーケットに影響を与えない範囲で実際の株式を売却していったのでしょう。

 

以上ソフトバンクグループが行ったカラー取引の基本的な概念です。実際にはソフトバンクグループともなると、より複雑な取引をしているとは思いますが、基本的には上記の考え方に沿っているでしょう。