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それでもレオパレスは「存続する」可能性が高い~2019年4~9月決算~

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レオパレス21の2019年4~9月決算(2020年3月期第2四半期決算)が発表されました。

同社は入居率の低下により2期連続の大幅赤字となると予想しています。

レオパレス21は企業としての存続は問題ないのでしょうか。

今回はレオパレス21の企業存続について簡単に考察してみます。

 

報道記事

レオパレス21の2019年4~9月決算(2020年3月期2Q決算)については以下の記事がまとまっていますので引用します。概要をつかむことが出来るでしょう。

レオパレス、入居率低下で通期赤字304億円見通し 信頼回復へ道のり険しく

2019年11月08日 時事ドットコムニュース

 賃貸アパート大手のレオパレス21は8日、2020年3月期の連結純損益が304億円の赤字に転落する見通しだと発表した。昨年春に発覚した施工不良問題への対応コストが膨らみ、大幅な赤字は2年連続となる。入居率の低下に歯止めがかからず、全国で約3万棟規模に上る物件改修は来年以降も続く見通し。信頼回復への道のりは険しい。
 レオパレスの物件をめぐっては、屋根裏の延焼を防ぐ壁の未設置といった施工不良が相次いで判明。約3万9000棟に上る全物件の調査を10月末にほぼ終え、法令違反の疑いのある約1万3000棟を含め8割近くで何らかの不備が見つかった。同社は耐火などの改修・補修を進めているが、20年3月期だけで改修費など100億円を特別損失として計上。工事の進捗(しんちょく)次第では来期にも追加損失が発生する恐れがある。
 信用が失墜し、10月末時点の物件入居率は採算ラインとされる80%を割り込み、79.49%まで低下。空き室が目立ち、主力の賃貸事業の苦戦から本業のもうけを示す営業損益も280億円の赤字となる見通し。建築現場での人手不足もあり、来期以降も綱渡りの経営が続くことは必至だ。

レオパレス21は自社施工の全物件を調査し約4分の3に何らかの問題が見つかりました。そのため物件の入居率は低迷し、赤字となっています。 また改修工事は当初の見通しから遅れ、いまだに終了していません。そのため、主力の不動産賃貸事業(サブリース事業)は本業のもうけを示す営業利益が▲280億円の赤字となる見通しです。

このような状況ならばレオパレス21は企業として存続できるのでしょうか。

以下でもう少し詳しく見ていくことにしましょう。

 

決算のポイント

レオパレス21の2020年3月期2Q(中間決算)のポイントは以下の通りです。

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(出所 レオパレス21/2020年3月期第2四半期プレゼンテーション資料)
上のスライドの通り、2019年3月期2Qと比べて減収、営業・経常利益赤字転落、当期純利益の赤字幅拡大となっています。このスライドで分かることは、売上総利益率が急減してきていること、販管費(≒コスト)の削減ではカバーできず赤字となっていることです。

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(出所 レオパレス21/2020年3月期第2四半期プレゼンテーション資料)

このスライドはセグメント別業績ですが、レオパレス21は賃貸事業の比率が非常に高いことが分かります。賃貸事業一本足に近いため、賃貸事業の動向が同社の存続可否を左右します。

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(出所 レオパレス21/2020年3月期第2四半期プレゼンテーション資料)

このスライドはレオパレス21のバランスシートです。

2019年9月末時点では688億円の現預金を保有しています。

一方で、短期(1年内に返済を迫られる)の社債・借入金は72億円、短期リース債務は48億円です。短期的に資金繰りに窮する可能性は低いと言えます。また短期・長期合わせた社債・借入金・リース債務合計は420億円です。これは2019年9月末時点の現預金残高を下回っており、同社は現時点では実質的に無借金企業です。

企業の倒産は借金を返済できなくなり起こることが多いため、現時点ではレオパレス21の倒産の可能性は低いでしょう。

しかし、赤字等により会社からの現金流出が続けば企業存続は不透明になります。現時点の現金(キャッシュ)の流れはどのようになっているのでしょうか。

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(出所 レオパレス21/2020年3月期第2四半期プレゼンテーション資料)

このスライドで分かるように本業(営業活動)では大幅な赤字(=現金流出)が起きています。しかし、2019年4~9月には固定資産の売却を主因に現金を獲得し、現預金の残高減少を抑制しています。

レオパレス21のキャッシュの流れを見るポイントは、(資産売却に頼らないのであれば)本業の収益の推移がどのようになっていくかということになります。

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(出所 レオパレス21/2020年3月期第2四半期プレゼンテーション資料)

レオパレス21のアパートを利用している法人の契約数は大幅に減少しています。同社は安定的な経営を目指して法人契約の割合を高めることを目標としてきたものと思います。ところが、法人の契約は、法人の活動(生産や工事等)の繁閑により増減します(一方で、個人や学生は比較的安定)。今回のような施工不良問題があると法人は個人よりも敏感に反応しそうとのイメージもあるかもしれません。

しかし、上のスライドを見る限りは、契約全体に占める法人・個人の割合は変わっていません。

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(出所 レオパレス21/2020年3月期第2四半期プレゼンテーション資料)

尚、法人契約では業種別に見ると建築業だけは前年同期比で横ばいになっています。(2019年3月と9月末を比較すると建設業の契約戸数はむしろ増加しています)

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(出所 レオパレス21/2020年3月期第2四半期プレゼンテーション資料)

レオパレス21はアパートオーナーからアパートを一括で借り上げ、入居者に転貸する「サブリース」事業を営みます。このサブリースで、同社はオーナーに対して一定期間「家賃を保証」しています。入居率が極端に低下すると、レオパレス21が入居者から受け取る家賃収入が、オーナーに支払う借り上げ賃料を下回る「逆ざや」になります。

レオパレス21の賃貸事業の10月の入居率は79.49%まで低下しました。アパートオーナーへの支払いが入居者からの家賃収入を上回る「逆ざや」のメドとなる入居率は80%とされており、この80%を約9年ぶりに下回りました。入居率は、施工不良問題が表面化して以降、15カ月連続で前年実績を下回っています。これは、物件調査と改修工事のため入居者の募集を停止している物件が多いためと説明されています。改修工事が完了し、入居者の募集が開始されれば賃借需要は強いため、入居率は改善するとレオパレス21は主張しています。

では、本当に物件の賃借需要は強いのでしょうか。

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 (出所 レオパレス21/2020年3月期第2四半期プレゼンテーション資料)

このスライドはレオパレス21の主張を裏付けるデータです。このスライドが正しいのであれば、法人契約戸数が減少しているのも、実際には新規募集を取り止めているからだという会社側の主張と一致します。

今後の注目点は、改修工事が完了した際に、本当に入居率が改善していくのかを見ることになります。

入居率が改善していけばレオパレス21の業績は改善していくでしょう。また、入居率が改善しないのであれば、レオパレス21のブランド力、入居者募集力は完全に棄損していることになります。こうなると、レオパレス21の業績回復は見込みづらく、徐々に現金の流出が続き、事業継続は難しくなるでしょう。

 

今後の留意点

レオパレス21はリーマンショック後の業績悪化時にアパートオーナーに対して借り上げ賃料減額交渉を行い、業績を立て直した過去の「実績」があります。この強引とまで言われた賃料減額は、裁判等を引き起こしています。

また、テレビ東京「ガイアの夜明け」では2017年12月、スクープ第1弾として、レオパレスのサブリースをめぐる契約トラブルの実態を放送しました。

「30年間の賃料保証」などのうたい文句で、賃貸アパートの個人オーナーや相続税対策を考えている人などとサブリース契約を交わしていたが、途中で反故に。「契約から10年超のアパートは契約を解除」「10年未満は家賃収入の大幅な減額を求める」という内容だ。

つまり「30年保証と言ったけれど10年に短くする」「払うと約束したが、やはり払えない」という、個人オーナーたちとしては受け入れらない内容だった。この一方的な契約変更は「終了プロジェクト」という名称で組織的に行なわれていたことが明らかになった。

(出所 テレ東プラス https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/business/entry/2019/019191.html

このTV番組が一連のレオパレス21への追及の第一弾でした。 

レオパレス21は、業績が悪化し資金繰りが急激に悪化した場合には、上記のようにオーナー宛の借り上げ賃料の減額を行うという選択肢があります。減額すれば、コストが下がる訳ですからサブリース事業の逆ざやは解消されます。

但し、レオパレス21は、2021年3月までオーナーへの支払賃料は減額を求めないと説明しています。現在の現預金水準からすると2021年3月までは会社として耐えられると判断しているのでしょう。筆者もあと1年半程度は持ちこたえられる可能性が高いと考えます。

しかし、その後は分かりません。特にオーナーへ借り上げ賃料の減額交渉を行うようであれば、レオパレス21の衰退は決定的になるでしょう。もう誰もがレオパレス21が賃料を保証するということを信用しなくなります。そうすれば、サブリース事業自体は成り立ちません。

短期的には入居率、中期的にはオーナー宛の借り上げ賃料の減額の有無がレオパレス21の今後を見ていくうえでのポイントとなるのです。