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レオパレスをレノ(旧村上ファンド系)が狙う理由

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レオパレス21(以下レオパレス)と大株主であるレノ(いわゆる村上ファンド)が対立しているようです。

そもそも、レノは何故レオパレスの大株主になったのでしょうか。

レオパレスの一連の問題事象は悪質です。株式市場、法人契約先、実際の入居者等から悪いイメージを持たれていることは間違いなく、入居率の低迷によって業績も株価も悪化しています。

それでもレノが投資するならば、何らかの意味があるはずです。

今回は、レオパレスをレノが狙う理由について簡単に考察してみましょう。

 

対立内容

まず、レオパレスとレノとの対立の状況およびレノの投資理由について、確認しておきましょう。以下日経新聞の記事を引用します。

レオパレス、「村上系」大株主と対立の行方
2020/01/10 日経新聞

 レオパレス21と大株主の投資会社レノ(東京・渋谷)の対立が先鋭化している。経営再建について主に水面下で意見交換をしてきたが、昨年末に話し合いが決裂。レノがレオパレスの全取締役解任を求める事態になった。大株主3社が発行済み株式の4割強を握るなか、レオパレス経営陣の次の一手に注目が集まっている。
 昨年12月27日の午後2時半すぎ、レオパレスからレノに連絡があった。「プレスリリースの公表はなくなりました」。レオパレスは「事業提携や再編を含む抜本的改革の検討を始める」という内容の発表を予定していた。内容はレノの提案を取り入れたもので、レノに関与する投資家の村上世彰氏は「こんな対応はひどいじゃないか」と、周囲に漏らしたという。
 その約1時間後、レノはレオパレスの全取締役の解任を求め臨時株主総会の開催を要求。レオパレス経営陣とレノの対立は決定的になった。
 昨年からレオパレス株を買い始めたレノ。「ビジネスモデルは素晴らしい。施工不良問題が片付けば(業績や株価は)回復する」とみている。施工不良問題が拡大した後も株を買い増し、発行済み株式総数の14.46%(昨年12月11日時点)を持つ大株主となった。

(以下略)

レノがレオパレスに投資した理由は、明らかにはされていませんが上記記事ではビジネスモデルの優秀性が挙げられています。

 

旧村上ファンドの投資スタイル

レオパレスをレノが狙う理由をもう少し掘り下げてみましょう。

旧村上ファンドやレノを率いる村上世彰氏の投資スタイルはどのようなものでしょうか。

今までの投資実績や生涯投資家(著者:村上 世彰、2017年6月20日発刊)の記載を基にすると以下の投資スタイルとしているものと筆者は考えています。

  • 基本はバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資
  • 成長のための投資に必要な資金より多額の剰余金を手元に持つ企業は、自己株取得や配当で還元する、MBOをする、事業を切り離して解散するなどの手段で、株主及び低すぎる株価に対して、何かしらの対応をすべきであり、そのような提案を企業に行う

これが村上氏の投資に対する基本的なスタンスであるでしょう。

では、レオパレスはこの基準に合致しているのでしょうか。

 

レノがレオパレスに投資した理由

レノがレオパレスの大株主となったことが判明したのは2019年5月です。レオパレスの集合住宅の施工不良問題が表面化した後に6.24%を新規保有し、買い増しを続けました。一時的に保有割合を低下させていましたが2019年12月に再度買い増しています。

2019年5月にレノの投資が明らかになった際には、レオパレスのネットキャッシュ倍率は1.4倍程度でした。

ネットキャッシュとは、企業の手元流動性(現預金+有価証券)から有利子負債を差し引いた金額です。いわゆるキャッシュリッチの度合いを示すと言えるでしょう。

ネットキャッシュ倍率とは、株式時価総額をネットキャッシュで割った率です。このネットキャッシュ倍率が低いほど、キャッシュリッチとして蓄えた現預金が有効に活用されていない企業として、M&Aなど企業買収の候補にもなりやすくなります。

「ネットキャッシュ倍率1倍割れ」ということは、(あくまで机上ではありますが)その全株式を買えば、買収額より高いキャッシュを得ることができる水準であるということになります。ネットキャッシュ倍率が1倍に近いということは、かなり割安ということが出来ます。

また、レオパレスはホテル事業にも進出しており、ホテルの土地建物を保有していました(2019年10月に国内ホテル4物件中、3物件を売却することを発表)。ホテル資産の換価性も勘案した実質的なネットキャッシュ倍率は更に低かったでしょう。

まさに「保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資」していたことになります。

 

今後の動向

2019年5月にレノがレオパレス株式を購入していることが判明するまでは、レオパレスの株価は200円程度まで低迷していました。2020年1月時点ではレオパレスの株価は350円を超えており、レノは現時点でも相応の含み益を有しているものと思われます。

一方で、2020年1月10日時点での株式時価総額は947億円、それに対して2019年9月末時点のネットキャッシュは382億円(リース債務は有利子負債に含まず)であり、ネットキャッシュ倍率は2.5倍程度となっています。2019年3月時点では845億円あった現預金が、2019年9月時点では688億円と157億円減少しています。これは家賃保証をしているアパートの入居率が低下したことによる本業の赤字でキャッシュが外部流出(レオパレスからアパート所有者に渡されている)ためでしょう。

PBRも1.69倍であり、決して割安とはいえない株価水準となってきています。

そして、何よりも重要なのはレオパレスは本業で赤字=キャッシュの外部流出が続く見込みであることです。アパートの入居率は損益分岐点とされる80%を下回ったままであり、12月も低下しました。

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(出所 レオパレス21 投資家情報/月次データ https://www.leopalace21.co.jp/ir/finance/getsuji.html) 

このままではキャッシュの外部流出は止まらないでしょう。

レノとしては、投資収益確保のために相応の手を打たなくてはならないと考え、「全取締役解任の提案」等、株価が反応して上がるような施策を打ってきたものと考えられます。

では、レノはレオパレスへの投資で最終的に収益を得られるのでしょうか。

現在は株価が上昇しています。しかし、レノのような大口投資家が株を売却しようとすると株価は下落してしまうことが一般的です。

そのため、株価上昇の道筋をつけてから、株式市場を通さずに他の投資家に売却するか、投資先の企業に自社株買いで買い取らせるのが、レノのような投資家の常とう手段です。 

筆者は、現時点の会社状況では、レノが保有しているレオパレス株式を引き取るような投資家は現れないものと考えています。また、レオパレス自体も本業でキャッシュ流出が続くため、自社株買いを行うという選択肢は取らないでしょう。

従って、このままだとレノの投資はあまり良くない結果を迎える可能性もあるかもしれません。キャッシュの流出が続き、株価が下落する可能性があるということです。

レオパレスが保有する資産は、換価性が高そうなホテルはほとんど売却してしまいました。他に保有する不動産は有価証券報告書を見る限りは、ほとんどがレオパレスのアパートではないかと思われます。すなわち、自社の問題が発生している不動産ですので、レオパレスが簿価として計上しているような価格で購入する投資家は存在しないでしょう(大幅なディスカウントで購入する先があるかも不明です)。

レオパレスが保有している資産を売却してキャッシュを作り、それを配当等で株主に還元させることによって株価を上昇させ、レオパレス株式を売り抜くようなことは、レノにとっては難しいのではないかと思われます。(尚、投資有価証券は147億円ありますので、その内容次第ではキャッシュに換価できるかもしれません。)

それでも、レノは最終的には(時間がかかったとしても)投資が回収できると考え、レオパレスへの投資を行ってきたのでしょう。

レオパレスを存続させ、収益を生み出す奥の手が存在するからです。

それは「アパートオーナーに約束している借り上げ賃料の引き下げ」です。

レオパレスは、2021年3月までオーナーへの支払賃料は減額を求めないと説明していますが、逆に言えば、それ以降は分からないということです。

レオパレスがオーナーへの支払賃料の減額を求めれば、その段階でレオパレスのアパート事業は「終了」するでしょう。新たな契約者は現れず、縮小が続くだけになります。しかし、アパートオーナーが積極的に解約しない限りは、レオパレスとのサブリース契約は存続してしまい、しばらくはレオパレスには最終テナントからの家賃とオーナーへの支払賃料の差額が収益として残ります。

レオパレスはリーマンショック後にオーナー宛の賃料引き下げを大々的に行い、黒字体質に転換しました。

レオパレスのアパート入居率が回復しない場合には、「同じことを行えば良い」とレノは考えているのではないでしょうか。