CLOと呼ばれるローン担保証券への銀行の投資が注目を集めています。
CLOは、Collateralized Loan Obligationの略称で、銀行が事業会社などに対して貸し出しているローンを証券化したもので、ローンの元利金を担保にして発行される債券のことをいいます。
このCLOへの投資が報道されるということは、CLOは「危ない投資」なのでしょうか。また、第二のリーマンショックを起こすような懸念があるのでしょうか。
今回は、CLOへの投資の実態について確認しましょう。
報道内容
銀行のCLOへの投資の概要をつかむには、以下の記事が参考となります。日経新聞から記事を引用します。
大手金融、ローン担保証券残高2.5倍 価格下落リスクも
2019/10/24 日経新聞日銀は24日公表した金融システムリポートで、格付けの低い企業向け融資をまとめて証券化したローン担保証券(CLO)に関する分析結果を示した。国内大手金融機関のCLOの投資残高は2018年度末に12兆7160億円と3年前の2.5倍に拡大した。世界のCLO市場に占める割合は約15%に達した。
国内金融機関は超低金利の環境で運用利回りを確保するため、海外の金融商品への投資を積極化している。とりわけ昨年末までの米利上げ局面では変動金利商品であるCLOへの関心が高まった。6月末時点で8兆円を保有する農林中央金庫をはじめ、ゆうちょ銀行や三菱UFJフィナンシャル・グループといった大手が投資残高を積み増してきた。
日銀の分析によると、日本勢の保有するCLOの大半は信用格付けが最も高く、裏付け資産からの利息収入が利払い額を大きく上回るなど一定の健全性が確保されているという。ただ、リーマン危機並みの経済ショックが発生した場合の試算も示し、CLOの格下げに伴う価格下落リスクの大きさも指摘した。
以上の通り、マイナス金利環境下で運用に悩む金融機関にとって、CLOは運用商品として魅力的であり、特に変動金利であることで金利上昇リスクにも強く、選好されてきました。
また、リーマンショック時にも最も信用力の高い格付AAA部分は棄損しなかったことから、安心感も手伝い人気を保ってきました。
このCLOへの投資残高が増加してきていること等から、金融当局はCLOへ注目するようになってきています。
では、CLOへの投資は危ないのでしょうか。
日本銀行がしっかりとしたレポートを公表していますので、内容を見ていきましょう。
CLOの分析
以下からは日本銀行が公表している金融システムレポートの内容を確認していきます。
(出所: http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr191024.htm/)
(出所 日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」)
まず、上表を見れば分かるように、邦銀全体のCLO投資残高は近年増加しています。足元では邦銀の海外ク レジット投資全体の約20%となっており、グローバルなCLO市場残⾼に対する割合も約15%と相応の⽔準に達しています。但し、邦銀の投資のほとんどは、信⽤格付けが最も⾼いAAA格トランシェ(≒部分)への投資です。
(出所 日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」)
上記スライドは日銀がCLOの現状をマクロ的に分析したものです。
日銀自身が認めているように、AAA格のCLOは利払が滞るような状況にはなく、担保もしっかりと確保していることになります。(だからAAAの格付が取れるとも言えますが。)
さらに、担保の水準はリーマンショック時を上回っており、当時よりはAAA格付のCLOが棄損するリスクは低くなっていることになります。
尚、日銀が指摘しているように裏付けとなるローン資産について平均格付が悪化してきていることは留意すべき点ではあります。但し、裏付けとなるローン資産の平均格付が悪化しても、裏付けとなるローン資産対比でのAAA格部分の割合を減らす等の対応をすれば、AAA格部分のCLOが棄損する確率が上がることにはなりません。裏付けとなるローン資産の平均格付が悪化していることは悪い情報であることは間違いありませんが、それだけでCLOへの投資が危ないということにはなりません。
(出所 日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」)
上記スライドでは、日銀が、近年のCLOの裏付け資産の劣化の可能性を勘案し「デフォルトしたローンの時価評価額(市場売却による回収額)をリーマンショック時の実績の半分と低く⾒積もる」⼀段と強いストレスを追加したケース(上表シナリオ3)であっても、AAA格部分のCLOは元本・利払を棄損しないことがシミュレーションされています。
(出所 日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」)
CLOのAAA格部分の健全性(信用リスク)を先ほどは見てきましたが、CLOは市場で売買される金融商品でもあります。内容が悪くなくても(もしくは変わらなくても)市場価格が下落することは良くあることです。株価が個々の企業の状況が変わらなくても投資家の需給で価格変動するのと同様です。
上記スライドの検証結果をみると、AAA格であってもスプレッド拡⼤により1割程度の価格下落が発⽣するほか、AAA格からAA・A格に格下げされた場合には、2割から3割の価格下落がCLOには発⽣する可能性があります。
全体としてまとめると、CLOのAAA格部分については、ストレス発⽣時の元本毀損や利払い停⽌といった信⽤リスク⾯での頑健性は相応に⾼いと⾒込まれる⼀⽅で、 経済・市場急変時の格下げやデュレーション(債券投資の平均回収期間)の動向次第では、市場価格下落などのリスクに 留意が必要ということが分かります。
個別行の状況
CLOへの投資は農林中央金庫(農林中金)が突出しているとされています。
2019年6月時点の農林中金のCLOへの投資額は8兆円です(農林中金IR資料https://www.nochubank.or.jp/ir/pdf/cap_results31_01_02.pdf)。
2019年3月時点における日本の金融機関のCLO投資残高が12.7兆円程度ですので、農林中金は3分の2を占めていることになります。
これだけ見ると農林中金は大丈夫なのかとも思えますが、農林中金の市場運用残高におけるCLOの比率は13%です。農林中金は108兆円の総資産、64兆円の市場運用残高を誇っており、規模は巨大です。純資産は7.6兆円ですので、CLOが全額損失となったら債務超過に転落しますが、上記の日銀のシミュレーションで見た通り、その可能性は極めて低いでしょう。
また、CLO投資で名前の挙がるゆうちょ銀行は2019年3月末時点で約1.2兆円のCLO投資残高があります。純資産は11兆円、運用資産は206兆円です。
そしてMUFGのCLO投資は2019年3月末時点で2.6兆円です。純資産は17兆円、総資産は259兆円となっています。
すなわち、日本の金融機関におけるCLO投資残高のほとんどは上記3行が占めています。
日銀のCLO投資への注目と警鐘は重要だとは思いますが、金融システム全体の問題というよりは個別行、特に農林中金の問題と言えるのではないでしょうか。
所見
以上見てきたように、CLO投資はAAA格部分に投資している間は、そこまでのリスクがある訳ではありません。
また、日本の金融機関全体で見た場合、農林中金が突出して投資しており、日本の金融システム全体へ及ぼす影響も限定的と思われます。
但し、日銀も指摘しているようにCLOの仕組みにはまだまだ分からないところがあります。
CLOは複数のローンを組み⼊れて証券化した商品ですが、⼀般に証券化商品に期待されるリスク分散効果がどの程度働くかについては慎重な評価を要する(日銀)とされています。ごく少数の企業のローンが数百銘柄に及ぶCLOに組み込まれていることが判明しており、CLO投資のリスク分散効果が⾒た⽬ほど⾼くない可能性を⽰しています。
また、裏付けとなるローンの質の劣化がみられる中、景気後退やクレジット商品価格の⼤幅な調整など、経済・市場環境が急変する場合には、邦銀が保有するCLOのAAA格部分においても、格付けや市場価格が⼤きく低下する可能性があります。
個々の金融機関はCLO投資については日銀の問題意識を踏まえて、リスク評価を精緻に行っていく必要はあるでしょう。
しかし、報道機関や日銀・金融庁が騒ぐほどには、CLOのリスクは高くないというのが筆者の考えです。