銀行員のための教科書

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日銀の金融システムレポートで指摘されている主な3つのリスクについて

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日本銀行(日銀)が2020年4月の金融システムレポートを発表しています。

⽇銀は、⾦融システムの安定性を評価するとともに、安定確保に向けた課題について関係者とのコミュニケーションを深めることを⽬的として、⾦融システムレポートを年2回公表しています。

今回の金融システムレポートにおいては、わが国の⾦融安定上、注視しておくべきリスクとして以下3点が挙げられています。

①国内外の景気悪化に伴う信⽤コストの上昇

②⾦融市場の⼤幅な調整に伴う有価証券投資関連損益の悪化

③ドルを中⼼とする外貨資⾦市場のタイト化に伴う外貨調達の不安定化

今回はこの金融システムレポートで挙げられているリスクについて、簡単に確認しておきましょう。

 

注視すべき3つのリスクについて

まず、金融安定に関して日銀が注視すべきと考えている3つのリスクについて、確認しておきましょう。

第⼀は、国内外の景気悪化に伴う信⽤コストの上昇である。実体経済への影響が⻑引くと、 ⾜もとの資⾦繰り逼迫が信⽤⼒の問題に転化する企業が国内外で増えていく可能性がある。 また、近年、わが国の⾦融機関は、低⾦利⻑期化のもとで、国内ではミドルリスク企業向け貸出や不動産賃貸業向け貸出、⼤型M&A関連など⾼レバレッジ案件向けの貸出を、海外ではエネルギー関連を含む相対的に信⽤⼒の低い企業への貸出を積み増してきた。これらのセクターは景気悪化に対し総じて脆弱と考えられる。第⼆は、⾦融市場の⼤幅な調整に伴う有価証券投資関連損益の悪化である。近年、⼤⼿⾏等は海外クレジット投資を、地域⾦融機関は多様なリスクを抱える投資信託等を積み増してきている。第三は、ドルを中⼼とする外貨資 ⾦市場のタイト化に伴う外貨調達の不安定化である。近年、⾦融機関は、海外貸出・有価証券投資を積み増すとともに、顧客性預⾦などの安定調達基盤を拡充してきているが、なお市場調達に依存する部分は⼩さくない。外貨調達の不安定化は、海外投融資の巻き戻し等を通じて、海外関連損益の悪化につながる可能性がある。

(出所 日本銀行/金融システムレポート2020年4月抜粋)

ではこの3点について、以下でポイントを見ていきましょう。

 

不動産業向け貸出

コロナ禍は、テナントの破綻・撤退等をもたらし、不動産業界を今後揺るがしていく可能性があります。国内で最も過熱してきたと思われるのが不動産融資です。以下で不動産融資の状況について確認しておきましょう。

不動産業向け貸出は、前年⽐3%程度と、引き続き全産業向け(同2%程度)を上回る伸びとなっており、残⾼は過去最⾼⽔準を更新している(図表Ⅱ-3-5)。⾦融機関の融資姿勢の慎重化から伸び率はひと頃に⽐べ鈍化しているが、⼤⼿⾏を中⼼とする不動産投資信託向け(REIT、中⼩企業に分類)、地域⾦融機関を中⼼とする中⼩不動産業向けの増加が続いている(図表Ⅱ-3-6)。もっとも、2020年3⽉以降、幅広い経済活動が停滞するもとで、不動産賃貸市場の需給悪化や賃料収⼊減少等への懸念も窺われつつある。

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住宅賃貸業向け貸出は中⻑期にわたる安定賃料収⼊を前提としているため、⻑い⽬でみて⼈⼝や世帯数の減少による空室率上昇、貸倒れ増加が⾦融機関収益を下押しするリスクがあるが、新型コロナウイルスの感染拡⼤が、不動産市場の需給緩和や賃料収⼊の減少等を通じてそうしたリスクを早期に顕在化させることがないか、留意が必要である。⼤⼿⾏による商業⽤不動産向け貸出の伸びについては、⼤都市圏を中⼼に新しく建設されたオフィスビルや、物流網の整備・インバウンド需要に⽀えられた物流施設・ホテル・店舗等の堅調な実需が背景にあったが、最近では、オフィス取引額の減少など、市場の飽和感を⽰唆する動きも散⾒されていた。感染拡⼤後は、ホテル需要が急減するなどの影響が表れており、今回のショックを契機に、先⾏きの不動産市場の需給環境や成⻑性に対する投資家の⾒⽅に⼤きな変化が⽣じないかについても、注視する必要がある。

 

ヒートマップは、各種の⾦融活動指標のトレンドからの乖離度合いを⾊で識別することに よって、1980年代後半のバブル期にみられたような過熱感の有無を⽰すものである。これを みると、全 14 指標のうち 12 指標が過熱でも停滞でもない「緑」となっている(図表Ⅲ-4‐1)。⼀⽅、前々回のレポート以降、「不動産業向け貸出の対GDP⽐率」が過熱を⽰す「⾚」 となっている(図表Ⅲ-4-2)。また、今回は、前回レポート時点では「緑」だった「総与信・ GDP⽐率」が、1991年初以来はじめて「⾚」へと転化した(図表Ⅲ-4-3)。これは、直接的には分⺟に当たるGDPの動き(海外経済の減速に、消費税率引き上げや⾃然災害の影響が加わったことなどによる 2019 年 10〜12 ⽉期の⽐較的⼤幅な減少)によるものであるが、より本質的には分⼦に当たる総与信が、それ以前から趨勢的に、GDP対⽐で⾼めの伸びを続けていたことが影響している。

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(出所 日本銀行/金融システムレポート2020年4月抜粋)

以上のように不動産業向け貸出は過熱感があったものでした。

コロナ禍の影響によって、この貸出がどのようになっていくのかは注目されるところです。特に地方銀行による不動産業および個人向けの貸出に留意が必要でしょう。

 

海外クレジット商品への投資

銀行の有価証券投資関連損益について、スポットが当たっているものの一つが海外クレジット商品への投資です。

わが国⾦融機関全体の海外クレジット商品への投資残⾼は、近年、幾分伸びが鈍化しつつも増加を続けている(図表Ⅱ-3-10)。業態別には、⼤⼿⾏等の投資残⾼が⼤半を占めている。もっとも、2020年3⽉以降は、海外クレジット市場の⼤幅な調整が続くもと、 いずれの先も新規投資を抑制している。

邦銀全体の海外クレジット投資残⾼を格付け別にみると、証券化商品については、CLOを含め保有銘柄のほとんどが AAA 格トランシェとなっているほか、債券についても、90%程度が投資適格級(BBB格以上)となっており、全体としては質の⾼いポートフォリオとなっている(図表Ⅱ-3-11)。もっとも、債券の約40%は投資適格級の中で最も質が低いBBB格となっているほか、基本的に⾮投資適格級(BB格以下)のローンを裏付けとするバンクロー ン・ファンドも⼀部で保有されている。ポートフォリオのそうした部分については、海外の景気悪化や格下げ、クレジット市場の調整の影響を受けやすいと考えられる。 

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(出所 日本銀行/金融システムレポート2020年4月抜粋)

邦銀の海外クレジット商品への投資は、CLOへ焦点が当たっていますが、むしろ相応に金額が大きい「BBB格の社債投資」の方がポイントとなるかもしれません。

 

大手行の外貨調達の安定性

最後に大天候の外貨調達の安定性について見ておきましょう。

邦銀の外貨調達は永く課題でした。そして現在も課題です。

しかし、以下の通り大手銀における外貨の運用と調達のギャップは縮小してきています。

邦銀は、⼤⼿⾏を中⼼に、海外業務拡⼤を背景に外貨の要調達額を⼤幅に増加させてきたことから、ストレス下での外貨流動性の確保は極めて重要な課題である。⼤⼿⾏では、外貨資⾦については円資⾦に⽐べ市場性資⾦の調達割合が⾼いものの、近年、顧客性預⾦や社債等の安定性調達の⽐重を着実に⾼めてきており、⼀定期間、市場調達が困難化しても、資⾦不⾜をカバーできる流動性準備を確保している。

⼤⼿⾏の外貨バランスシートにおける、貸出⾦(あるいはそれに海外クレジット投資を加えた低流動性資産)と、顧客性預⾦・中⻑期円投・社債(TLAC債を含む)といった安定性調達との差額である「安定性ギャップ」をみると、近年、ギャップは着実な改善傾向にある(図表Ⅲ-3-1)。もっとも、顧客性預⾦には、ストレス時に流出しやすい⾦融機関預⾦など、粘着性が相対的に低い預⾦が含まれている点に留意が必要である。

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(出所 日本銀行/金融システムレポート2020年4月抜粋)

対応は着々と進んできました。但し、今回のコロナという危機を乗り切れると考えるのは時期尚早かもしれません。

まだまだ、邦銀は外銀からの調達を必要としており、邦銀の要因ではなかったとしても(すなわち外銀の要因だったとしても)資金調達が目詰まりを起こす可能性はあります。

 

所見

以上、日銀の金融システムレポートの概要を見てきました。

日本の銀行システムは現段階では安定しており、リーマンショック時よりも基盤は強固になっているものと思われます。

しかし、日銀が挙げるようなリスクは大きくなってきており、本業の収益力が低い中では、思わぬ痛手を被る可能性は十分にあります。何といってもコロナ禍は、誰しもが経験したことのない事象です。ここまで全世界的に経済活動がストップしたことは、かつて無かったでしょう。その中でどのようなリスクが発現するかは分かりません。

筆者としては、特に海外の社債と日本国内の不動産に注目しています。