銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

CLO自体が「悪」なのではなく、とにかくリスクを避ける傾向が「悪」

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レバレッジド・ローンや、それを証券化したCLO(Collateralized Loan Obligation=ローン担保証券の略)の残高増加が注目されています。特に邦銀が投資家として存在感を示しており、金融庁も邦銀の投資動向に注目しているようです。

上記環境下、日本銀行が「米国クレジット市場の最近の動向について」レポートを出しました。

今回は、このレポートの内容等を確認しながら、CLOの動向について考えてみたいと思います。

 

報道内容

まずは、レバレッジドローンやCLOの残高増加がどのように問題とされているか、金融当局の問題意識について確認しておきましょう。

ダラス連銀総裁:企業債務は米経済のリスクになり得る-景気下降なら
Bloomberg Jeanna Smialek
2019年3月5日 23:00 JST

  • 企業と政府の債務増大すれば米経済は一段と金利に敏感になる可能性
  • 政府債務拡大すればインフラ支出など投資能力低下を意味する

米ダラス連銀のカプラン総裁は成長が鈍化した場合、米経済へのリスクになり得るとして、米企業債務に警告を発している。 
  カプラン総裁は5日に発表した小論文で、「米非金融セクターの企業債務の対国内総生産(GDP)比率は、前回のピークだった2008年末を上回っている」と指摘。景気が下降すれば、こうした融資を巡る問題は「金融状況の悪化に拍車を掛け」得るし、「米経済成長の鈍化を一段と深刻にする可能性もある」と説明した。 
  企業の債務増加に警告を発したのはカプラン総裁が最初ではない。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は2月27日の議会証言で、借り手が既に高債務者であるレバレッジド・ローン(高リスクローン)市場の信用リスクが景気下降時に、システム全体に及び得るリスクではないものの、マクロ経済的なリスクを引き起こしかねないと指摘した。

  小論文の中でカプラン総裁は米レバレッジド・ローン市場を詳説。市中銀行から高債務企業への融資が増加しており、ローンはしばしば、リスク分散のためローンを束ねた証券化商品であるローン担保証券(CLO)を通じて銀行以外の投資家に販売されていると説明した。いわゆるシンジケーテッド・レバレッジド・ローン残高は18年末には1兆2000億ドル(約134兆円)に達した。08年時点では6000億ドルだった。 
  カプラン総裁は「CLOは現在、こうしたシンジケーテッド・レバレッジド・ローンの最大の受け入れ先であるため、CLO組成が混乱すればレバレッジド・ローンが銀行のバランスシート上に残る可能性は高まり得る。そうなれば、今度はストレスがかかる時期に銀行の与信能力が制限されかねない」と説明した。 
(以下略)

以上の通り、米国では企業債務の比率が金融危機(リーマンショック)前を上回っている状況にあり、レバレッジド・ローンは2倍まで残高が拡大しています。

 

レバレッジド・ローンとは

一般に、借り手が BB 格以下の投機的格付け(投資適格はBBB以上)であるローンを指します。

通常は、複数の金融機関(銀行・機関投資家)によるシンジケートローンとして組成されるものを指し、相対取引によるローンは除くことが多く、上記の記事でも「シンジケーテッド」(=シンジケート)レバレジッド・ローンの残高で比較されています。

なお、シンジケートローンとは、複数の金融機関が協調(=シンジケート)して借り手に(通常は)同じ条件で貸出を行うことをいいます。

 

日本銀行のレポート内容

日本銀行は日銀レビュー「米国クレジット市場の最近の動向について(2019年3月)」を発表しました。

要旨としては以下の通りです。

本稿では、米国クレジット市場の現状評価を行うにあたり、レバレッジドローン・CLO市場やBBB格社債市場など、低格付け企業の債務の動向に焦点を当て整理を行った。いずれの市場でも、総じてみれば緩和的な金融環境などを背景に、これまで借り手優位な資金調達が続いてきた。その結果として、低格付け企業の債務残高が増加し、クレジットの質の低下を示唆する動きがみられている。こうしたなか、先行き何らかのショックが生じ、企業の格下げやデフォルトが増加に転じる場合には、企業部門全体のバランスシート調整圧力が高まる可能性には留意する必要がある。

この日銀レビューについて、ポイントを以下挙げます。少し長いかもしれませんが引用します。

  • 投機的格付け企業の資金調達ニーズは、良好な資金調達環境となるなか、米国内での M&A 案件の増加などから、旺盛な状況が続いてきた。企業の資金需要が全体として増加するなか、資金調達手段としては、2015 年以降は HY (ハイイールド)社債よりもレバローンを通じた調達が増加している。これは、投資家にとって、米国の政策金利引き上げ(2015年 12 月以降)に伴う金利上昇リスクに対応する観点から、変動金利商品であるレバローンが HY社債(筆者註=固定金利)よりも選好された点などが主な要因として指摘されている。
  • BB 格以下の投機的格付けの企業のレバレッジは上昇傾向にあるほか、レバローンを活用した企業買収においても、レバレッジの高い案件が増加している。加えて、機関投資家向けのレバローンのうち、第二抵当権付きローン実行額も増加しているほか、コベナントライト・ローン(筆者註=一般に、借り手に課されるコベナンツ(レバレッジの上限や特定資産の売却・譲渡の禁止等を規定する財務制限条項など)が緩和あるいは免除されているローンを指します)の比率も上昇しており、デフォルト発生時のローン保有者の回収率が過去対比で低くなる可能性も指摘されている。(※筆者註=ICE Data Indices が算出する HY 社債指数の構成銘柄のうち、財務指標を取得可能な企業=投機的格付企業のレバレッジ(純債務/EBITDA)の中央値は2008年の2.5倍程度から4.0倍弱まで上昇していることもレポートでは示されています。また、レバローンの新規実行額のうちコベナントライトのローン割合は2010年の10%未満から80%超となっています。)
  • さらに、一部の市場参加者からは CLO のマネージャーによるリスクテイク姿勢が強まる可能性を指摘する声も聞かれている。CLO のマネージャーは、デット部分の安全性を損なわない契約の範囲内で運用を行いつつ、エクイティ投資家からは、エクイティのリターンを高める行動が求められる。そのため、レバローン獲得の競合などにより、投資家が要求しているスプレッド確保などに苦労する場合には、商品が満たすべきクオリティは確保したうえで、より低格付けのレバローンの組入比率の引き上げなどによって、リターン向上を図るインセンティブが存在する点などが指摘されている。
  • 足もとでは、米中間の通商問題等を巡る不透明感などを受けた投資家のリスクセンチメントの悪化や、米国の政策金利引き上げペースが鈍化するとの見方を受けた、投資家にとっての変動金利商品としてのメリットの低下から、スプレッドは幾分拡大している。
    こうしたなか、CLO よりも換金性の高いバンクローン・ファンド(レバローンの約 15%を保有)から、大規模な資金流出がみられる場面もあった。こうした動きについて、投機的格付け企業のファンダメンタルズは、総じてみれば、足もとで悪化しているわけではないため、基本的に、投資家のリスクセンチメント悪化などに伴う一時的な調整と考えられる。しかし、レバローンの質の低下などを投資家が意識し始めた可能性もあるため、今後の動向については注視する必要がある。

以上がレバレッジド・ローン、CLOの動向です。

 

所見

以上を見てくるとレバレッジド・ローンの増加に伴うCLOという証券化商品の増加等は危険だと考える人は多いのではないでしょうか。

リーマンショック時にはサブプライムローンの証券化商品等が問題となりました。

筆者もレバレッジド・ローンのようなクレジット低い資産はどこかのタイミングで問題となる可能性はあるのではないかと考えています。

ただし、レバレッジド・ローンが人気が出た理由の一つは、米国の金利先高見通しでした。変動金利であれば金利上昇の利益を得られるからです。足元の米国の動向を見る限りでは、金利上昇のペースは緩やかになると想定され、レバレッジド・ローンの大幅な増加=邦銀等が投資するCLOの残高拡大は続かない可能性があります。

そして、何よりも忘れてはいけないのは、CLOの最上位格付分はリーマンショック時にもデフォルト=損失は発生しませんでした。金融危機以降は格付会社の厳格化の流れもありCLOは更に改善(第一抵当権付きローンの構成比率上昇等)が図られています。

証券化商品が「悪」なのではなく、内容・リスクを把握せずに自社の体力以上に投資してしまうことが「悪」なのです。

筆者は、CLOへ邦銀が投資を集中させ過ぎるのはリスクがあるとは思いますし、そもそもレバレッジド・ローンの質が低下しているのであれば、より高い金利(スプレッド)を確保する必要が本来はあると思います。しかし、CLOに投資すること自体が制限されるような金融裁量行政を当局が行うことは問題ではないかとも考えています(まだそこには至っていないとは思いますが、銀行は当局の顔色を伺い忖度するものでもあります)。

リスクの把握と、リスクを過度に集中させないことが大事なのであって、全てのリスクを完全に回避することは出来ません。

日本の金融環境は資産運用を行うには非常に厳しい状況です。それでも、銀行は「どこかで、何かの資産で」運用を行わなければなりません。そのための選択肢を一方的に奪っていくならば、邦銀は運用能力の獲得には至らず、いつまでも低収益に留まり、結果として衰退していくことに繋がりかねません。

当局も、銀行経営者も両者とも冷静に考えていく必要があるのではないでしょうか。