銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

日本の「貧困」について整理しておきたい

f:id:naoto0211:20191020102319j:plain

日本は経済大国と言われながら、貧困が多いとされています。

7人に1人が貧困にあえぎ、母と子のひとり親世帯では半数以上が貧困に苦しむ、との報道がなされているのをご覧になった方も多いでしょう。

しかし、日本で一般的に生活していると「貧困」世帯の存在を感じることは少ないのではないでしょうか。例えば、海外で見られるようなボロボロの服を着て歩いているような人を見ることはほとんど無いでしょう。

今回は、日本の貧困とは何か、そして貧困の現状について確認しておきましょう。

 

貧困とは

日本は先進国の中で、「貧困率」の高い国のひとつとして知られています。

そもそも「貧困」とはどのような意味でしょうか。

「貧困」の定義はひとつではなく、国や機関によっても様々です。もっとも一般的な定義は、世界銀行の「1日1.25ドル未満で暮らす人の比率」(国際貧困ライン)があります。

また、貧困には、必要最低限の生活水準が満たされていない状態の「絶対的貧困」、ある地域社会の大多数よりも貧しい状態の「相対的貧困」があります。

絶対的貧困は、いわゆる衣食住にも困る状態です。人間として最低限の生存を維持することが困難な状態を指し、飢餓に苦しんでいたり、必要な医療すら受けられない状態です。

それに対して、相対的貧困とは、その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態をいいます。具体的には、世帯の所得が、その国の「等価可処分所得」(世帯の可処分所得【=収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収】を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない状態とされています。

日本で割合が高いのは「相対的貧困」です。

よって、日本の貧困率が高いというのは、「他の国よりも日本国内には経済的格差がある」というように考えた方が良いのかもしれません。

 

 

日本の貧困率

「貧困率」は厚生労働省「国民生活基礎調査」として公表されています。

日本の貧困率の最新値は2015年で15.7%(相対的貧困率)です。

国民生活基礎調査によると、2015年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分、熊本県を除く)は122万円となっており、「相対的貧困率」(貧困線に満たない世帯員の割合、熊本県を除く)は 15.7%となります。

同じ調査で、17歳以下の子どもを対象とした「子どもの貧困率」は2015年で13.9%です。すなわち、「7人に1人の子どもが貧困に陥っている状況」です。

「子どもがいる現役世帯」(世帯主が18 歳以上65歳未満で子どもがいる世帯)の世帯員についてみると、貧困率は12.9%となっており、そのうち「大人が一人」の世帯員では貧困率が50.8%、「大人が二人以上」の世帯員では貧困率が10.7%となっています。

要するに「子供がいる一人親世帯は約半数が貧困」です。

国民生活調査の「生活意識」を確認すると、全世帯で56.5%が生活が「大変苦しい」「苦しい」としていますが、母子世帯に限ると「大変苦しい」が45.1%、「苦しい」が37.6%となっており、合計で82.7%となっています。

この調査だけを見れば、「ほとんどは母子家庭と想定される一人親世帯の約半数が貧困」なのが日本の現状です。

OECDによると、日本の子どもの相対的貧困率はOECD加盟国34か国中10番目に高く,OECD平均を上回っています。子どもがいる現役世帯のうち大人が1人の世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中最も高いと発表されています。

f:id:naoto0211:20191020112706p:plain

(出所 内閣府Webサイトhttps://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26honpen/b1_03_03.html

 

尚、日本の全世帯の半数が生活が「大変苦しい」「苦しい」としているのも驚きでしょう。

以下の図は厚生労働省の「平成29年 国民生活基礎調査の概況」からの引用です。平均所得以下の世帯数が61.5%存在する現状は認識しておくべきでしょう。

f:id:naoto0211:20191017201510j:plain

(出所 厚生労働省「平成29年 国民生活基礎調査の概況」)

 

所見

今回は日本の貧困、その中でも「一人親世帯」の貧困に焦点を当てました。貧困には高齢者世帯の問題もありますが、日本の将来を担う子供を育てている世帯の方がより焦点を当てるべきだと考えているからです。

日本の現状をまとめると、年間122万円未満の可処分所得しかない世帯が相対的貧困であり、貧困率は15.7%です。

そして、日本では「7人に1人の子どもが貧困に陥っている状況」となっています。

子供が貧困に陥っている世帯のかなりの部分が母子家庭と想定され、その大半が生活が苦しいとしています。毎月10万円の可処分所得では、子供を塾や大学に通わせることは難しいでしょうし、もちろん貯蓄も難しいでしょう。

この要因はどのようなものでしょうか。

厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯の母の81.8%が就業しており、このうち「パート・アルバイト等」が 43.8%、「派遣社員」が4.6%となっており、約半数が非正規雇用となっていることは大きな要因と考えられます。但し、「正規の職員・従業員」も44.2%となっています。就業している母のうち「正規の職員・従業員」の平均年間就労収入は305万円ですが、「パート・アルバイト等」では133万円となっています。

母子世帯の母自身の2015年の平均年間収入は243万円、母自身の平均年間就労収入は 200万円、母子世帯の平均年間収入(平均世帯人員3.31 人)は 348万円です。なお、「平均年間収入」とは、生活保護法に基づく給付、児童扶養手当等の社会保障給付金、就労収入、別れた配偶者からの養育費、親からの仕送り、家賃・地代などを加えた全ての収入の額です。 

日本では、シングルマザーの現状は厳しいと言えます。保育園等の様々な用事に加え、子供が熱を出したら保育園が預かれず母も会社に出勤できない等の要因があり、シングルマザーは正規社員のようなフルタイムの仕事はなかなか出来ないものと思われます。

日本は、上記で見たように正規社員と非正規社員の賃金に明確な格差がある国です。

この賃金格差が、母子家庭の貧困という形になって表れていると想定されます。

国が「同一労働同一賃金」を進めようとしていますが、まさに正規社員と非正規社員という「階級」を解消していかなければ、日本国内の「貧困という格差」は解消されて行かないと思われます。

母子世帯は、123.2万世帯(平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告)です。

そのうち、母親がパート・アルバイト・派遣社員である約半数が貧困層の可能性が高く約61万世帯となります。そして、世帯の平均子ども数は1.52人です。 

すなわち、日本では、母子で約153万人(=61万世帯×2.52人)が貧困の状況にあるものと推定されます。この母子世帯をどのように支援していくのか、本当は年金制度以上に考えるべきことなのではないでしょうか。