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少子化と貧しさに突き進む日本の今

厚生労働省が国民生活基礎調査を発表しました。

この国民生活基礎調査は、保健・医療・福祉・年金・所得等国民生活の基礎的な事項について世帯面から総合的に明らかにする統計調査です。国勢調査などと同様に、統計法に基づく、基幹統計として指定されている日本の最も重要な調査の一つであり、厚生労働省が昭和61年から毎年実施しています(2019年度分はコロナで実施されていません)。

この国民生活基礎調査では、世帯数やその内容(配偶者や子供の有無等)、世帯の収入等について調査がなされています。この調査を見ると、日本における世帯の高齢化や生活の状況が想定出来ます。

今回はこの国民生活基礎調査から、日本の現状を把握していきたいと思います。

 

世帯構成等

まず、日本における世帯数と平均世帯人員の年次推移を見ていきましょう。

(出所 厚生労働省「国民生活基礎調査」)

少子高齢化と言われたり、日本の総人口が減少したと報道されることが多く、勘違いしている方も多いかもしれませんが、日本の世帯数は増加傾向にあります。人口は減っていても、一世帯当たりの人員数が減少しており、世帯数は増え続けてきたのです。

2021年6月現在における全国の世帯総数は 5,191万4千世帯となっています。

世帯構造をみると、「単独世帯」が 1,529万2千世帯(全世帯の 29.5%)で最も多く、
次いで「夫婦と未婚の子のみの世帯」が 1,427万2千世帯(同 27.5%)、「夫婦のみの世
帯」が 1,271万4千世帯(同 24.5%)となっています。日本の世帯数が増加してきたのは単独(単身)世帯が増加してきたことが要因でしょう。単独世帯数は初めて1,500万世帯を超え、過去最高となりました。

また、世帯類型をみると、「高齢者世帯」は 1,506 万2千世帯(全世帯の 29.0%)となっており、日本の3割は高齢者世帯ということになります。

日本は単独(単身もしくは独身)世帯が全体の3割、また一部は単独世帯と重複しますが高齢者がいる世帯が全体の3割となっているのです。

そして、65歳以上の人員がいる世帯の構造を見ると以下の通り、昭和の時代は子供世帯との同居(三世代世帯)が多かったものの、現在は単独もしくは夫婦のみで世帯を構成していることが多くなっています。

(出所 厚生労働省「国民生活基礎調査」)

これが日本における世帯の動向です。

また、児童のいない世帯は全体の2割となりました。1986年には半数弱の世帯で児童がいたことを考えると、児童有の世帯数減少は驚くべきものです。

(出所 厚生労働省「国民生活基礎調査」)

尚、上表で分かる通り、世帯当たりの児童数も減少しています。1986年には児童が2人いる世帯の方が児童が1人いる世帯よりも多かったものの、現在は逆転しています。

これはやはり「共稼ぎ」が一般的になってきたことが要因の一つでしょう。

以下は末子の年齢階級別にみた母の仕事の状況の年次推移をグラフにしたものです。

(出所 厚生労働省「国民生活基礎調査」)

児童のいる世帯における母の仕事の状況をみると、「仕事あり」の割合は 75.9%となっており、上昇傾向となっています。

特に、末子が小さい(年齢が低い)と母が正規雇用である割合が高くなっています(もちろん、近時の方が過去よりも正規雇用の割合がほとんどの年代で高くなっています)。女性のキャリア観の変化が表れているということでしょう。

 

所得関連

次に所得について見ていきましょう。

以下は各種世帯の平均所得金額の推移です。

(出所 厚生労働省「国民生活基礎調査」)

2020年の1世帯当たり平均所得金額は、「全世帯」が564万3千円となっています。また、「高齢者世帯」が332万9千円、「高齢者世帯以外の世帯」が685万9千円、「児童のいる世帯」が813万5千円となっています。

平均所得金額が上がっていますが、政府の新型コロナウイルス対策による特例給付金(全国民一律に10万円を配布)等が底上げしています。2018年から全世帯の平均所得金額は12万円上昇しているので、特例給付金を鑑みると、実質的には所得は横ばい程度と考えておいて間違いありません。

(出所 厚生労働省「国民生活基礎調査」)

所得金額階級別に世帯数の相対度数分布をみると、「300~400 万円未満」が 13.4%、
「200~300 万円未満」が 13.3%、「100~200 万円未満」が 13.1%と多くなっています。

中央値(所得を低いものから高いものへと順に並べて2等分する境界値)は 440 万円で
あり、平均所得金額(564万3千円)以下の割合は 61.5%となっています。6割の世帯が平均所得金額以下なのです。

(出所 厚生労働省「国民生活基礎調査」)

世帯の生活意識の推移では、「苦しい・やや苦しい」が過半を超えています。それを高齢者世帯と児童のいる世帯を分けたデータが以下となります。

(出所 厚生労働省「国民生活基礎調査」)

これで見ると児童のいる世帯の生活が苦しいとの回答が6割程度あるというのは、少子化国家としては厳しいと言わざるを得ないでしょう。

 

まとめ

国民生活基礎調査を見ていると、「日本の今」を知ることが出来ます。

単独世帯が3割、高齢者世帯が3割を占め(単独世帯と高齢者世帯は一部被る)、母親はほとんど仕事を持ち、おカネが無いと児童を育てられず(児童がいる世帯は比較的所得が高いが)生活が苦しいとする割合が6割程度あり、そして、全体で見ると平均所得以下の世帯が6割強となっている国が日本です。

日本の今を冷静に受け止めながら、我々個人としても、日本の将来に何が出来るのか考える必要はあるのではないでしょうか。