日本は格差が拡大していると耳にしたことはありませんでしょうか。
特にコロナ禍においては、ほとんど経済的にダメージを受けていない人がいる一方で、大きな影響を受けている人もいるでしょう。
ただ、日本では、より根本的な問題として、格差が固定化しかねない要因が存在しています。
それが教育です。
今回は教育が格差を固定化しかねないことについて、大学生に焦点を当てて簡単に見ていくことにしましょう。
大学生の親の年収
新卒一括採用がスタンダードになっている日本では、企業が学生を採用する際には、最終学歴が大きな影響を及ぼしています。大学を卒業することは、日本においては就職活動においては重要なファクターです。
ただ、この大学の卒業資格を得るためには、相応の費用がかかるのが実態です。
奨学金事業を運営する日本学生支援機構は、学生生活調査結果を発表しています。この調査には大学生の生活費のみならず学生の家庭年収についても調査がなされています。
この日本学生支援機構「平成30年度学生生活調査結果」(2020年3月発表)から、ポイントとなるデータを以下記載します(万円未満は四捨五入)。
- 大学生(昼間部)の年間学生生活費は平均すると自宅からの通学が171万円、アパート等からの通学が222万円
- 国立大学の学生は自宅通学112万円、アパート等通学177万円
- 私立大学の学生は自宅通学181万円、アパート等通学250万円
- 大学生の収入のうち家庭からの給付(いわゆる仕送り)は平均120万円
このように一人の大学生が生活を送るには家庭からの給付が平均年間120万円かかっています。月10万円です。
これだけの費用を負担する親は大変です。
そして同じ調査では、大学生の家庭における平均年収は以下となっています。
- 大学生(昼間部)の家庭平均年収862万円
- 国立大学生の家庭平均年収854万円
- 私立大学生の家庭平均年収871万円
厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によれば、日本の「世帯当たり」の収入の中央値は437万円となっています。世帯当たり収入の平均は552万円ですので、平均と中央値に100万円以上の差が出ています。
この国民生活基礎調査では、大学生がいると想定される世帯主の年齢階級別にみた1世帯当たり「平均」収入は40~49歳が695万円、50~59歳が756万円です。一方で、児童のいる世帯の年収「中央値」は672万円となっています。
このようなデータを見ていく限りでは、日本学生支援機構の調査結果としての大学生の家庭平均年収862万円というのは、比較的高所得層の世帯と考えておかしくないでしょう。
そして、年収の中央値を鑑みるに、通常の収入状況の世帯が、大学生一人に年間120万円をかけるのは家計として非常に厳しいことが分かります。(上記年収は税引前ですので、手取り収入はもちろん中央値よりも下がります)
学歴が生涯所得に与える影響
では、ここまで費用がかかる大学への通学ですが、この教育コストは報われるのでしょうか。
独立行政法人労働政策研究・研修機構のユースフル労働統計というものがあります。
この2019年版によれば、男性の生涯賃金では以下のことが分かります。
- 高校卒男性の生涯賃金=2億5,440万円
- 大学・大学院卒男性の生涯賃金=3億2,810万円
- 差額7,370万円
この推計は「学校卒業しただちに就職、60 歳で退職するまでフルタイムの正社員を続け退職金を得て、その後は平均引退年齢までフルタイムの非正社員を続ける場合」を前提にしています。要するに終身雇用を前提とした生涯賃金モデルですが、参考にはなるでしょう。
そして、同じ大学卒であっても、企業規模の差によって生涯賃金は大きく変わります。
有名大学卒業者の男性が1,000人以上の企業に就職し、それ以外の大学卒業者の男性が100~999人の従業員数の企業に就職したと仮定しましょう。要は学歴によって就職する企業規模に差が出ると想定します。
- 「有名」大学・大学院卒男性≒1,000人以上の企業に就職した場合の生涯賃金=3億7,400万円
- 「普通」大学・大学院卒男性≒100~999人の企業に就職した場合の生涯賃金=3億180万円
- 差額7,220万円
同じ大卒だろうと就職する企業規模によって、生涯賃金に大きな差が生まれてきたことは間違いありません。
女性の場合は、退職金を含めない60歳までの生涯賃金は以下の通りとなっています(上記の男性の推計は退職金が含まれていますが、なぜか女性は含まれていません)。
- 高校卒女性(同一企業勤務)の生涯賃金=1億8,540万円
- 大学卒女性(同一企業勤務)の生涯賃金=2億4,660万円
- 差額6,120万円
女性の場合も、学歴がもたらす生涯賃金の差は6,000万円を優に超えています。退職金を含めると更に生涯賃金の差は開くことになるでしょう。
また、労働統計要覧(平成30年度)によれば、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職給付額は1,983万円であるのに対して、高校卒(管理・事務・技術職)の退職給付額が1,618万円、高校卒(現業職)の退職給付額が1,159万円です。これは男女含めた統計数値ですが、学歴は退職給付額にも影響をもたらしていることになります。
以上の通り、大学という学歴を得るためにかけたコストは十分に回収可能と想定されます。
親の学歴別教育支出
上記のように学歴は生涯所得という形で、大きな差を生む可能性があることが分かりました。
この学歴は当然ながら現実の消費支出にも影響を及ぼしています。
以下のグラフは世帯主の学歴別消費支出の比較です。
(出所 総務省「2019年全国家計構造調査 家計収支に関する結果」)
やはり、世帯主の学歴によって毎月の消費支出に差があることが分かります。
この学歴別の消費支出の内訳が以下の図表となります。
(出所 総務省「2019年全国家計構造調査 家計収支に関する結果」)
消費支出の内訳を世帯主の学歴別にみると、「教育」への支出は、高校卒業が9,717円、大学卒業が20,459円となっており、教育への支出は、世帯主が大学卒業の世帯が高校卒業の世帯の約2.1倍となっていることが分かります。
所見
以上、大学生の家庭(親)の平均年収が平均よりも高かったこと、学歴によって生涯所得には大きな差が発生する可能性があること、教育にお金をかけるのは世帯主の学歴によって差があることが分かりました。
これらのデータを勘案し、教育が費用をかければ効果を生むという前提が正しいのであれば、「高学歴で収入の高い親の下に生まれた子は、良い教育を受け、高い所得を得る可能性が高い」ということになります。
これは当たり前のことのように聞こえるかもしれません。
しかし、日本は今までは誰でも相応の教育を受けられて、一億総中流とまで言われた平等な社会を築いたことになっています。そして公立の学校が充実していたことで、やる気さえあれば、誰でも相応の教育を受けることができたはずでした。
しかし、「金持ちの子供は金持ちに、貧乏人の子は貧乏に」と格差が固定化される傾向が出てきていないでしょうか。
親の財力によって、子供の将来がかなりの確率で決まるような社会は、分断を生みます。そして、チャンスの無い、夢の無い、活力の無い社会になってしまうように思います。
ある子供が、金持ちの親の下に生まれてきたのは偶然であり、その子の能力ではありません。その子の能力が高いのであれば、それを社会で十分に活かせる環境があることが、国の維持・発展のために有効でしょう。
「教育こそ貧者にとっての最大の武器」となります。それは、様々な歴史・人物が証明しています。
日本はこの30年で貧しくなりました。
貧者の日本が成長しなくとも、それなりの国力を維持していくためには、子供への教育が必須です(もちろん、働く全ての国民に教育が必要でしょうが)。
日本は人口動態から、これからも高齢者に国全体のおカネを支出させていくことになります。但し、やはり教育への投資こそが、この国を次世代へ繋げていくためには必要なのではないかと筆者は考えています。