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相対的貧困率のデータから見えてくる日本の社会

2023年7月に厚生労働省から「国民生活基礎調査」の最新値が公表されました。2021年の日本における相対的貧困率は15.4%となっており、経済協力開発機構(OECD)が公表する各国の貧困率の最新値でみると、米国(15.1%)、韓国(15.3%)に抜かれ先進国最悪となったと報道されています。今回はこの日本の相対的貧困率について少し確認してみたいと思います。

 

相対的貧困率とは

相対的貧困率とは、生活状況が自分の所属する社会の大多数よりも、相対的に貧しい状態にある人の割合を指します。日本やOECDが定義する相対的貧困率は、等価可処分所得世帯の可処分所得(収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を世帯人員の平方根で割って調整した所の中央値の半分の額を下回る等価可処分所得しか得ていない者の割合とされています。非常に軽く言えば、「日本全体における可処分所得の中央値の半分以下で生活している人の割合といって良い」でしょう。

2021年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は127万円となっており、「相対的資困率」(貧困線に満たない世帯員の割合)は15.4%(対2018 年△0.3ポイント)となっています。

また、「子どもの貧困率」(17歳以下)は11.5%(対2018年△2.5ポイント)となってい ます。「子どもがいる現役世帯」(世帯主が18歳以上65歳未満で子どもがいる世帯)の世帯員についてみると、10.6%(対2018 年△2.5ポイント)となっており、そのうち「大人が一人」の世帯員では44.5%(対2018年△3.8ポイント)、「大人が二人以上」の世帯員では8.6%(対2018年△2.6ポイント)となっています。

<貧困率の年次推移>

(出所 厚労省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」)
この数字だけみれば日本の相対的貧困率は改善していると言えます。この要因は、等価可処分所得金額の低いゾーンが低下しているためです。

<等価可処分所得金額階級別世帯人員の相対度数分布>

(出所 厚労省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」)

等価可処分所得金額別に世帯人員の相対度数分布をみると、2018年に比べ、「全世帯員」では40万円~140万円未満で低下しています。また「子ども」(17歳以下)では40万円未満~140万円未満で低下し、「子どもがいる現役世帯で大人が一人」では100万円~140 万円未満で低下していることが分かります。このように相対的貧困率が改善した要因としては、政府は「コロナ禍に経済的支援策として配った特別給付金の効果のほか、働く女性の増加などによって所得が押し上げられた」とコメントしていると報じられています。

 

なぜ日本の貧困率が先進国最悪とされているのか

以下はOECDが公表している相対的貧困率の国別比較です。

(出所 OECD Webサイト)

これを見ると、確かに日本は米国・韓国よりも貧困率が高い水準にあります。 日本よりも貧困率が高いのは、ブルガリア、エストニア、ラトビア、メキシコ、イスラエル、ルーマニア、コスタリカの7か国です。先進国の中で最悪とされるのはデータ通りとなります。

米国は格差の国ですし、韓国も貧富の差が激しいことで有名です。ニュースになることも多いでしょう。上記のOECDのデータは2021年もしくは最新のデータとされていますのでコロナ対策としての社会保障により米国や韓国が改善している可能性は否定できません。

この点についてはコロナ対策が終了した後の両国の貧困率を確認しなければ日本が本当に貧困率において先進国最悪とされるかは不透明と言っても良いでしょう。

また、韓国の場合は66歳以上の高齢者の貧困率が極端に高い社会であり、米国も高齢者の貧困率は日本よりも高い状況にあります。

高齢者という観点では、日本は強いて言えば、米国・韓国よりは高齢者への再分配が確りしている国であるということは言えるでしょう。両国よりは高齢者の社会保障が整っており、高齢者に優しい国と言えます。

 

日本の進むべき道

今回は相対的貧困率について数字を見てきました。

日本は、国民全体では6.5人に1人が貧困、子どもは8.7人に1人が貧困状態にあり、特に、ひとり親の2人に1人が貧困という状況にあります。

少子高齢化に道を進む日本においては、子供は社会の宝であることは間違いありません。政府が異次元の少子化対策を打ち出していることからも分かるでしょう。

日本は、社会制度や空気感からいって、子供に優しくない国であることは間違いありません(老人には比較的優しいと思いますが)。親にどのような事情があろうと、子供の場合は自己責任とするのではなく、将来の宝を国民全体で育てていかなければなりません。今後の世界的な経済競争を勝ち抜いていくには子供への教育が欠かせません。まずは、子供が飢えず、そして学ぶことが出来る環境を作っていくことこそ先進国最悪の相対的貧困率となった日本がやるべきことでしょう。