銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

在職老齢年金制度見直しの現状〜ちょうどよい見直しでは?〜

f:id:naoto0211:20191008175620j:image

厚生労働省が働く高齢者の年金を減らす在職老齢年金制度を見直すと報じられています。

現在は65歳以上で47万円を超える月収がある人は年金が減りますが、月収の基準を62万円に引き上げて対象者を減らす案を軸に議論するとされています。

年金が減る仕組みは就業意欲をそぐとの批判があったことから、高齢者の就業を促進するために、在職老齢年金制度の見直しを行うことになりました。

今回は、在職老齢年金制度の概要と高齢化の現状について確認してみることにしましょう。

 

在職老齢年金とは

まず、在職老齢年金とはどのような制度でしょうか。
以下定義を確認します。

在職老齢年金は、老齢厚生年金を受給しながら厚生年金に加入中の人が受け取る年金です。年金額と月給・賞与に応じて年金額は減額され、場合によっては全額支給停止になります。
(出典 公益財団法人日本生命保険文化センターWebサイト)

日本年金機構では在職老齢年金の計算方法が説明されています。

【65歳未満】

65歳未満で在職し厚生年金の被保険者となっている場合、受給されている老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金額が支給停止となる場合があります。

  • 在職中であっても総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が28万円に達するまでは年金の全額を支給します。
  • 総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が28万円を上回る場合は、総報酬月額相当額の増加2に対し、年金額1を停止します。
  • 総報酬月額相当額が47万円を超える場合は、さらに総報酬月額相当額が増加した分だけ年金を支給停止します。

【65歳以後】

65歳以上70歳未満の方が厚生年金保険の被保険者であるときに、65歳から支給される老齢厚生年金は、受給されている老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金額が支給停止となる場合があります。

  • 基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円以下の場合=全額支給
  • 基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円を超える場合=基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2

(出所 日本年金機構Webサイト)

厚生年金制度は、そもそもは労働者が退職して収入がなくなった後の所得を保障するために作られた制度であり、もともとは「退職」を年金受け取りの条件にしていました。

その後、給料があまり高くない60歳以上の厚生年金保険の被保険者の生活安定のために年金を支給するようにしたのが「退職」老齢年金に対して特別なものという意味で「在職」老齢年金です。

これが在職老齢年金であり、現在は年金給付の抑制として捉えられています。

 

高齢化の状況

次に日本における高齢化の状況について簡単に確認しておきましょう。

在職老齢年金制度の見直しの背景が理解出来ます。

以下は高齢社会白書からの抜粋です。

「令和元年版高齢社会白書」

○高齢化率は28.1%

  • 我が国の総人口は、平成30(2018)年10月1日現在、1億2,644万人。
  • 65歳以上人口は、3,558万人。総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.1%。
  • 「65歳~74歳人口」は1,760万人、総人口に占める割合は13.9%。「75歳以上人口」は1,798万人、総人口に占める割合は14.2%で、65歳~74歳人口を上回った。
  • 令和47(2065)年には、約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上。f:id:naoto0211:20191008175706j:image

○年齢階級別の就業率の推移

  • 年齢階級別に就業率の推移を見てみると、60~64歳、65~69歳、70~74歳では、10年前の平成20(2008)年の就業率と比較して、平成30(2018)年の就業率はそれぞれ11.6ポイント、10.4ポイント、8.4ポイント伸びている。

f:id:naoto0211:20191008175722j:image

○健康寿命

  • 健康寿命は延伸し、平均寿命と比較しても延びが大きい。
  • 日常生活に制限のない期間(健康寿命)は、平成28(2016)年時点で男性が72.14年、女性が74.79年となっており、それぞれ平成22年(2010)年と比べて延びている(平成22年→平成28年:男性1.72年、女性1.17年)。さらに、同期間における健康寿命の延びは、平均寿命の延び(平成22年→平成28年:男性1.43年、女性0.84年)を上回っている。

f:id:naoto0211:20191008175745j:image

○高齢者世帯の所得

  • 高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯)の平均所得(平成28(2016)年の1年間の所得)は318.6万円で、全世帯から高齢者世帯と母子世帯を除いたその他世帯(663.5万円)の5割弱となっている。
  • また、高齢者世帯の所得階層別分布を見てみると、200~250万円未満が最も多くなっている。

f:id:naoto0211:20191008175756j:image

○今後半世紀で世界の高齢化は急速に進展

  • 平成27(2015)年の世界の総人口は73億8,301万人であり、令和42(2060)年には102億2,260万人になると見込まれている。
  • 総人口に占める65歳以上の者の割合(高齢化率)は、昭和25(1950)年の5.1%から平成27(2015)年には8.3%に上昇しているが、さらに令和42(2060)年には17.8%にまで上昇するものと見込まれており、今後半世紀で高齢化が急速に進展することになる。
  • 先進諸国の高齢化率を比較して見ると、我が国は1980年代までは下位、90年代にはほぼ中位であったが、平成17(2005)年には最も高い水準となり、今後も高水準を維持していくことが見込まれている

f:id:naoto0211:20191008175811j:image

 

まとめ

日本の高齢化は止められません。

しかし、健康寿命は伸びており、就業率も高まっています。年金の現状は、本来は働くことが出来る人達が現役世代から仕送りとして年金を貰っているとも言えます。

在職老齢年金はこの仕送りを抑制するという意味で年金財政を安定させるという役割を果たしています。現在の減額対象は124万人で、年金給付が年1兆1千億円抑えられているとされています(2016年度末時点の対象者数は60代前半で約88万人で支給停止額は約7,000億円、65歳以上は約36万人で同約4,000億円)。

在職老齢年金を完全に廃止してしまえば、高齢者への給付が増え、若い世代が将来もらう年金の財源が減ることになります。

一方で、在職老齢年金は高齢者の就業意欲を削ぐと指摘されていたことも事実です。

このため厚労省は制度の廃止ではなく、対象者を絞る方向で検討しているのです。具体的には、現在は65歳以上で47万円を超える月収がある人は年金が減りますが、月収の基準を62万円に引き上げて対象者を減らす案を軸に議論するとされています。基準額の引き上げで65歳以上の減額対象者が今の半分の18万人程度になると厚労省は試算しています。

この制度見直しの方向性はちょうど良い落としどころなのではないかと筆者は考えています。

今後の厚労省の年金部会での議論を見守りたいと思います。