銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

クラウドファンディングは金融機関の存在意義を考えさせる~出版の場合~

f:id:naoto0211:20191006130629j:plain
以前お知らせ致しました筆者の小説「ヂメンシノ事件」の出版にかかるクラウドファンディングのスタートが近づいてきました。

現在、募集のプロジェクトページ初稿を運営会社に提出したところです。

<プロジェクトページ/限定公開URL>

camp-fire.jp

https://camp-fire.jp/projects/200370/preview?token=1svupxi9

この出版プロジェクトに取り組む中で、クラウドファンディングについて考えさせられることがありました。

今回は、EXODUSが運営している小説のクラウドファンディングについて簡単に確認してみましょう。未来の金融の形がそこにあるのかもしれません。

 

EXODUSとは

EXODUSは出版社の幻冬舎とクラウドファンディングプラットフォームを運営するCAMPFIREの合弁会社です。CAMPFIREが持つクラウドファンディングのノウハウと、幻冬舎が持つ編集力と宣伝力を掛け合わせ、少部数でも本を出版できる仕組み「EXODUS」を作り上げています。

EXODUSは一般のユーザーや、個人事業主、出版社や編集プロダクションなどあらゆる人が出版を目指せるプログラムで、1,000部という「少数」の読み手さえいれば出版できる仕組みとなっています。出版業界では「1万部売れることが見込めないと本が出せない」と言われているようですので、桁が一つ違うことになります。

この出版プロジェクトの流れは以下の図の通りです。

f:id:naoto0211:20191006113824p:plain

(出所 EXODUSウェブサイト)

クラウドファンディングで成功した企画は、編集者が執筆まで作家をサポートし、個人の企画が本となり全国の読者へ届く仕組みになっています。

筆者の場合は、募集の第2期のようでして、200企画の応募があり3企画が選ばれたと聞いています。 思ったより倍率は低い気が致します。

クラウドファンディング自体は、All or Nothing方式を採用しており、プロジェクトが目標金額に満たない場合、計画の実行及びリターン(小説作成・送付等)は無しとなっています。

すなわち、書籍を執筆する個人は資金が集まってから執筆すれば良く、執筆者を支援し書籍を読みたい読者は相応に人々の共感を得られる執筆者の書籍しか手元に届くことはなく、出版社は事前に販売先が決まっているので売れ残りリスクがありません。

各当事者のリスクを低減することによって本件仕組みは成り立っています。

 

既存の出版業界の問題

公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所が発表した2019年上半期の出版市場では、紙と電子出版を合算した市場規模(推定販売金額)は前年同期比1.1%減の7,743億円、紙は4.9%減、電子は22.0%増となっています。

f:id:naoto0211:20191006131820j:plain

(出典 全国出版協会・出版科学研究所Webサイト)

2019年上半期の出版市場における内訳は、紙の出版物が同4.9%減の6,371億円、電子出版が同22.0%増の1,372億円で、紙が5%近い落ち込みを示した一方で、電子が大幅に伸長し、全体では1.1%減に踏みとどまりました。

電子出版市場規模(小売り額)は前年同期比22.0%増の1,372億円となっており、好調です。内訳は「電子コミック(電子コミック誌含む)」が同27.9%増の1,133億円、「電子書籍(コミックを除く文字ものなど)」が同8.5%増の166億円、「電子雑誌」が同15.1%減の73億円となっており、電子コミックが大半を占めています。コミックは、昨年4月に海賊版サイト「漫画村」が閉鎖したことが大きな影響を与えていると想定されています。

一方で、紙の書籍は市場の減少率が高く、出版社が「簡単には出版を決めない」要因となっていることが分かります。

日本の出版販売額(取次ルート)の長期推移は以下の図の通りです。

f:id:naoto0211:20191006133739j:plain

f:id:naoto0211:20191006133853j:plain

(出典 全国出版協会・出版科学研究所Webサイト)

書籍は1996年をピークに長期低落傾向にあります。しかし、雑誌に比べるとマシではあります(雑誌は速報性が重視されるものが多くインターネットに負ける)。

また、小説を含む文庫本は近時凄まじい勢いで減少が続いています。

これが出版業界の状況です。

出版業界は書店が返品可能という委託販売の仕組みを作り上げたことにより、販売価格を維持してきました。しかし、出版取次(卸)が「どの書店に何冊配本するか」を決めるシステムであったため、出版市場が縮小してくると、取次が返品率を下げることを目標とし、町の小規模書店には売れ筋の書籍を入れなくなりました。またインターネットで情報が入るため書店では雑誌も売れなくなりました。売れ筋の本が無いと、消費者はその本屋には行かなくなります。結果として、書店が廃業し、市場が更に縮小する流れとなっています。

 

所見

以上がクラウドファンディングによる新たな出版の試みと、出版業界全体の状況です。

出版業界の縮小は暫く続くことが想定されます。インターネットの世界では情報はタダで手に入ることが多いからです。少なくとも雑誌はこれからも縮小していく可能性が高いでしょう。

書籍については、場合によっては電子書籍が増加することで実質的な市場規模の縮小は止まるかもしれません。 電子書籍の場合は、書店に同じ書籍が並ぶ必要はありません。読者層も更に細分化していくでしょう。取次や書店が必要なくなり、販売価格は現在より少額でも著者・出版社に同じ利益が残るようになる可能性もあります。

そのような中で、クラウドファンディングで出版を行うというのは、前述の通り、関係者のリスクを低減する面白い試みです。

このようなクラウドファンディングを見ていると、世の中の資金需要は小口化していく可能性を感じます。

銀行のビジネスモデルは、資金余剰主体と資金不足主体の間の資金を融通することです。そして情報の非対称性を利用しています。資金余剰主体が、直接的に資金不足主体の財務内容・資金ニーズ等を把握できないため、間に銀行が入る(仲介する)のです。

しかし、銀行が今まで資金不足主体・借入顧客として想定してきた企業は、総体で見ると今や資金余剰主体です。簡単には設備投資を行わず、お金を借りることも少ないでしょう。

一方で、小口の資金需要はまだまだ多いものと思われます。クラウドファンディングのプラットフォーム上では様々な資金集めが行われています。クラウドファンディングは、銀行のようなコストがかかる主体が仲介に入る必要が無いため、資金の出し手からするとリスクは高いものの、リターンも高くなる傾向にあり、かつ透明性(自分の資金が何に使われているのか)、共感(応援意識等)も感じられるものと思われます。情報の非対称性もいつかは解消されていくかもしれません。

このまま銀行預金の収益性(利率)が低下していけば、余剰資金の有効活用としてクラウドファンディングへの資金の流れは強くなっていくでしょう。

これは銀行だけではありません。証券会社も損害保険会社も生命保険会社も影響を受ける可能性があるのです。いわゆる「中抜き」です。

クラウドファンディングはそのような未来を感じさせるプラットフォームです。金融機関は自らクラウドファンディングのプラットフォームとならざるを得なくなることも視野に入れておいた方が良いでしょう。

 

<筆者のクラウドファンディングもよろしくお願い致します>

camp-fire.jp