銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

社会保険料という隠れた税金増が僕らの生活を苦しくさせてきた要因では?

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日本国内では消費の盛り上がりに欠けている状況が続いています。

2019年は『上級国民』という言葉が使われる等、格差を国民が感じていることが更に明らかになったように感じます。

少子化の背景には、非婚化・晩婚化、雇用が不安定な男性の増加、キャリアへの考え方の変化等があると説明されることが多いですが、本質的な要因は経済的な余裕の無さではないでしょうか。

日本は先進国どころか貧乏になり始めているからこそ、物価が安い日本に外国人旅行者が大挙してやってくるのではないでしょうか。

では、賃金が大幅に減少したから我々の生活は苦しくなったのでしょうか。それとも消費増税が影響しているのでしょうか。生活必需品の価格が増加したからでしょうか。

今回は、なぜ我々の生活が苦しくなってきているのかについて、一つの要因に焦点を当ててみたいと思います。

 

賃金、物価、税金

では、我々の生活が苦しくなってきた要因について以下確認していきましょう。

 

①賃金

<常用労働者1人平均月間現金給与額 1947年~2017年 年平均>

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(出所 労働政策研究・研修機構Webサイト https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0401.html

上記表は労働者一人当たりの現金給与額の推移です。バブル時期のピークよりは低下していますが、この10年程度は大きな下落はないことが分かります。

以下の「厚生労働省/平成30年賃金構造基本統計調査の概況」を確認しても、少なくとも20年程度は賃金に大幅な低下はないと言えるでしょう。

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(出所 厚生労働省/平成30年賃金構造基本統計調査の概況)

では、賃金があまり変わらない一方で、物価が上がっているために我々の生活は苦しくなったとは考えられないでしょうか。

 

②物価

<消費者物価指数2015年=100 1947年~2018年年平均>

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(出所 労働政策研究・研修機構Webサイト 

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0601.html

上記の表は物価の推移を表したものです。近時は物価上昇していますが、これは消費税増税の影響を含んでいます(消費税増税は物価の上昇要因として含まれています)。

この20年はデフレの環境が続いていましたので、給料が変わらなかったとしても物価上昇によって生活が苦しくなったとは言えないことが分かると思います。

では、給料も物価もあまり変わらなかったとしたら、税金によって我々の生活は苦しくなったのでしょうか。

 

③税金

<個人所得課税の税率等の推移(イメージ図)>

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(出所 財務省Webサイト 

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/033.pdf

所得税の最高税率は、かつて70%(課税所得8,000万円超の部分)でしたが、サラリーマン世帯の税負担感の軽減等を目的として、引き下げられてきました。その後、再分配機能の回復を図るため、平成27年分以後については、課税所得4,000万円超の部分について45%の税率が創設されています。但し、今までの流れとしては課税強化となっていないと言えます。

では、なぜ我々の生活は苦しくなってきたように感じるのでしょうか。

 

社会保険料の増加という要因

筆者は、我々の生活が苦しくなってきた要因は社会保険料の増加が大きな要因だと考えています。

企業に勤める労働者の場合、社会保険料は主に厚生年金保険料と健康保険料となります。この2つの保険料が大幅の上昇しているのです。この保険料は労使折半(企業と従業員個人が折半して負担)していますので、個人にとっての負担だけではなく、企業にとっても従業員を雇っているとコストが増加していることになります。これでは給料は簡単には上がらないでしょう。

 

<厚生年金保険料の推移>

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(出所 厚生労働省Webサイト  

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12502000-Nenkinkyoku-Nenkinka/kounenn.pdf

以上のように2004年(平成16年)以降でも厚生年金保険料(自営業の国民等が加入する国民年金保険料も増加)の料率が増加してきたことが分かります。

<健康保険料の推移>

企業別の健康保険組合は独自に保険料率を決定できますが、ここでは協会けんぽ(政府管掌健康保険)の料率推移を挙げておきます。 

保険料率の変遷 | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会

(出所 全国健康保険協会Webサイト https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/hokenryouritunohennsenn) 

 

では具体的にどの程度の影響があったのか、以下で事例に基づいて説明したいと思います。企業に勤める個人が30年前と現在でどの程度「手取り収入」が異なるか確認してみましょう。

<収入事例>

  • 月給 30万円、ボーナス年2回合計120万円の個人を想定

 

<1990年当時の社会保険料>
  • 厚生年金保険料 7.15%(労使合計14.3%)
  • 総報酬割未導入でありボーナスには特別保険料 0.5%(労使合計1.0%)
  • 健康保険料【政府管掌健康保険】 4.2%(労使合計8.4%)
  • 総報酬割未導入でありボーナスには0.3%(労使合計0.8%)

 

<2019年現在の社会保険料>
  • 厚生年金保険料 9.15%(労使合計18.3%)
  • 総報酬割導入済、特別保険料廃止
  • 健康保険料【政府管掌健康保険】 5.0%(労使合計10.0%)
  • 総報酬制導入済、特別保険料廃止

 

<同額の年収での比較>
①1990年当時
  • 月給30万円×(7.15%+4.2%)×12ヶ月=月額34,050円×12ヶ月=408,600円
  • ボーナス120万円×(0.5%+0.3%)=9,600 円
  • 合計418,200円の社会保険料支払
②2019年現在
  • 月給30万円×(9.15%+ 5.0%)×12ヶ月=月額42,450円×12ヶ月=509,400円
  • ボーナス120万円×(9.15%+5.0%)=169,800円
  • 合計679,200円の社会保険料支払(※40歳以上の労働者が負担する介護保険料は除く)

 

③結果
  • 1990年当時と2019年現在を比べると261,000円の負担増。
  • 月額にすると21,750円の手取りが減少していることに。
 

所見

我々の生活を苦しくさせてきた要因は「手取収入の減少」にあるというのが筆者の理解です。
社会保険料は国民のチェックがあまり届かない状況にあります。特に厚生年金保険料は2004年時点から引き上げがスタートしていましたので、近時は議論がないまま、すなわち大きく報道がされることもないまま負担が増加してきました。
社会保険料といっても、(細かい議論を除いて分かりやすく言えば)実態は税金と変わりません。日本の場合、年金は賦課方式ですので、現役から徴収した保険料は今の年金受給者に支払われます。いわゆる世代間の仕送り方式と言えるでしょう。そして年金は基本的に皆が加入しています。
健康保険料も後期高齢者支援のために健康保険料が上昇してきています。こちらも世代間の仕送りと言って良いでしょう。国民皆保険ですから、実質的には税金と変わらないと言えます。
すなわち、税金ではないためにあまり議論がなされていませんし、大きな話題にもならないのですが、我々の生活を苦しくさせてきたのは社会保険料の増加という隠れた税金増であり、それに伴う手取り収入の減少、可処分所得の減少なのではないでしょうか。
筆者は、現在の賦課方式の年金制度や後期高齢者を支援する健康保険制度を廃止して、異なる仕組みに移行すべきとまでは現時点では考えていません。代替策はいずれも一長一短だからです。しかし、少なくとも国民全体で社会保険料の負担について真剣に議論すべき時が来ているとは考えています。このままでは、国全体が沈んでいくように感じられるからです。
非常に言葉が悪いですが「老人栄えて国亡ぶ」となってはいけないでしょう。