銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

「厚生年金は払い損にならない」という話題に興味はありますか?

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日経平均株価が3万円台に一旦到達し、ビットコインが6万ドルを突破する等、金融マーケットでは、派手な話題が相次いでいます。これから資産運用を考えている人も多いでしょう。

一方で、日本の公的年金制度には不安を持つ人が多いとされます。

厚生年金に加入している会社員や公務員は、強制的に保険料を徴収されているものの、厚生年金を受給できる時期に来た際には「受給できない」もしくは「支払った保険料を下回り損をする」と考えている人が相応に存在します。

確かに日本の年金制度の財政問題というのは大きな問題です。

しかし、厚生年金に加入することは「損」なのでしょうか。

今回は、厚生年金の保険料と受給額について簡単に確認していきたいと思います。

 

厚生年金とは

日本の公的年金は、日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」と、会社などに勤務している人が加入する「厚生年金」の2階建てになっています。

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(出所 厚生労働省Webサイト)

厚生年金は、上記の通り、会社・公務員が加入する年金です。厚生年金保険料は月ごとの給料に対して定率となっており(現在は18.3%)、実際に納付する額は個人の所得に応じて変化し、会社等からの給料支給時に徴収されています。

そして、厚生年金は事業主(勤務先)が保険料の半額を負担しており(労使折半)、実際の納付額は、給与明細等に記載されている保険料の2倍となります。

すなわち、厚生年金保険料は18.3%となっているため、月30万円の給料だとすると、18.3%の保険料(5万4900円)を、個人が2万7450円、会社が2万7450円、それぞれ支払っていることになります。

 

厚生年金保険料の平均

「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和元年度)」を確認すると、厚生年金保険料の平均が想定できます。

標準報酬月額の平均は、2019年度平均で、31 万3千円(男子は 35 万5千円、女子は 24 万5千円)となっています。

また、標準賞与額の1回当たりの平均は、2019年度で 45 万1千円(男子は 52 万7千
円、女子は 31 万7千円)となっています。

そして、一人当たり標準報酬額(総報酬ベース・年額)は、2019年度で 445 万円(男子は510 万3千円、女子は 339 万8千円)です。

この標準報酬額445万円に対する18.3%の保険料は、81万4千円です。このうち個人は半額の40万7千円を負担しています(会社と折半)。

この保険料を38年間(22歳~60歳まで)支払うとすると、1,546万6千円が個人の支払い総額となります。

 

厚生年金の受給額

上記が厚生年金の保険料(納付)額でした。

では、受け取ることのできる金額はどの程度でしょうか。

厚生年金保険(第1号)受給権者の平均年金月額は、2019度末現在で、14 万4千円となっています。これは年間で172万8千円です。

そうすると、あくまで2019年度のケースということにはなりますが、1,546万6千円の個人支払総額に対して、年間172万8千円の受給ですから、9年弱(8.95年)で回収できることになります。65歳から受給が始まれば、74歳までに支払総額を回収できるのです。

このような情報が「ねんきん定期便」のような政府からの情報で提供されています。

すわなち、個人としての年金支払総額と、受給額が取り上げられます。

しかし、一つだけ忘れてはいけないのは、厚生年金は労使折半で厚生年金保険料を納めていることです。

厚生年金保険料は労使合計で、上記の事例(22~60歳まで)では3,093万2千円が支払われています。個人が支払ったものと同額を企業等も負担しているからです。

そうすると、3,093万2千円÷172万8千円=17.9年が実際には支払総額を回収できる年月です。65歳からの受給スタートだと、82.9歳で支払総額を回収できることになります。

 

所見

厚生年金に加入することは強制的であり、国民の義務です。

せっかく給料をもらっても、税金や健康保険料に加えて、さらに年金保険料が控除されますので、額面と比べて手取りは減少しています。

それなのに、様々なメディアでは公的年金制度への不安が報じられています。

厚生年金保険料をずっと払い続けても、自分達の世代は損をすると考えている人は多いのではないでしょうか。

しかし、損を心配する人たちも、この記事で見てきたように、厚生年金は個人にとっては、(早く死去した場合を除けば)損とならない可能性が非常に高いことが理解できたのではないでしょうか。2019年における65歳の平均余命は男性19.83年、女性24.63年(厚生労働省「令和元年簡易生命表」)です。上述の個人としての支払い総額を回収できるのは9年弱であるからです。

但し、そのほとんどの要因は、個人が払っている厚生年金保険料と同じ額を企業も支払っているという仕組みにあります。厚生年金保険料の分だけ、企業から見た人件費は高くなっています。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

厚生年金保険の保険料率は、年金制度改正に基づき2004年から段階的に引き上げられてきましたが、2017年9月を最後に引上げが終了し、厚生年金保険料率は労使合計18.3%で固定されています。この保険料が更に上昇していくようなことがあれば、家計にとっても厳しいですが、企業にとっても人件費の増加となり、雇用そのものや給料水準について何らかの検討をする可能性も否定できません。

厚生年金は、個人にとっては損をしない仕組みですが、企業にとっては人件費でしかないのです。